戦の最中だってゆーのに、ココだけはイヤに静まり返っていた。

てゆーか、ココを中心にして、争いは収まりつつあった。

・・・・・・・・・・・・無理もないけど、ね。イキナリ現れたのが土地神と認識されてる白いおっきな鷹だったら。




 




 




 






土地神様、戦場に降り立つ、の巻。

~頼みごと、されました。~





 




 




 




 
     『会えた事を嬉しく思うぞ、御子』





ばさり、と白い羽ばたきが、目の前に。

クルクルと喉を鳴らしながら、恐ろしいハズの猛禽類の眼光は、慈愛と呼ぶに相応しい光。

まさしく、神気を帯びた、存在。





「と、ととととっっ、とっっ!!鳥がしゃべったぁ!?!?」

・・・・・・・・・・・・うん驚くのも解るけどね。

君ちょっとウルサイよ成実くん。

「っ、っっ!!」

しかも何さ小太郎せっかく鷹神さんあたしに近付いて来てくれたのに全力で身体全部使って隠して。

取って食いやしないよ失礼な。





そんな小太郎に、鷹神さんが小さな子を嗜める様な目を向ける。

     『これ、風の子。下がりなさい。御子に失礼であろう?』

だけど小太郎はふるふると首を振って、あたしをぎんっ!!と睨み付けるのをやめない。

ソレを見て 「幻聴じゃない!!ホントにしゃべってるぅぅうう!!」 って成実くんがまた騒いで。





「・・・・・・・・・・・・アンタもいい加減落ち着きな、成実」

「いや無理だって!!普通驚くって!!てかなんでせんせーはそんな落ち着いてられるんだよ!?」

「土地神に会うのは初めてじゃないから」





サラッと言ったら、成実くんは一瞬固まって、また 「え!?うそ!?まじ!?」 とぎゃいぎゃい言い出した。

・・・・・・・・・・・・うん。だからウルサイ。





「――――――少し、黙っててくれないかな、成実」





しゃら、と半分くらい広げた『舞扇』の刃の部分を、ひたり、と成実くんの首筋に当てる。

そしたら成実くんはばふっ!!と両手で口を押さえて、ずざざっ!!と後ろに下がって、こくこくと首を上下に振った。

うん。ソレでよし。





     『――――――見目に似合わず、乱暴なのだな、御子は』

「気にすんな――――――で?」

     『で、とは?』

「あんたは態々人の前に姿を曝してまで、俺に何を頼みに来たの」

    『矢張り、解るか』

「解らいでか」





だって土地神は、ふつー住処にしてる森とかから出てこない。

ソコが神気に満ちた清浄の土地で、ソコから出ると外気の穢れに当てられて神通力や生命力が半減しちゃうから。

人前に姿を現す事だって、おんなじ理由で滅多な事じゃない限りは無いそうだし。

まあ、さっきの兵士さん達の反応を見る限りでは、相州はソレナリに信仰心も残ってるみたいだから多少は大丈夫みたいだけどさ。





なのにこの、心に余裕なんか持てない戦国乱世に。

こんな大勢の人の目に触れる様なトコロ。

しかも現在進行形で穢れが生まれている戦場のど真ん中に降り立つなんて。

火急の、しかもでっかい問題があったから、って考えるのが妥当でしょ。





     『頼みというのは他でも無い――――――彼の翁を、救って欲しいのだ、御子』





朗々と、流れる様な鷹神さんの声に、あたしは目を細めた。





「彼の、翁?」

     『此の土地を、其の上に住まう民を、そして春を愛する彼の城の主』

問い掛けに、鷹神さんの目は背後のお城に向けられる。

     『奥州の竜の子は、懐が深いと聞き及んでいる――――――彼の翁の処遇に、口添えを頼めぬか』

弾かれた様に小太郎もソッチを見て。成美くん達も、つられる様に、視線を向けて。





     『北条は裡から腐敗してしもうた、と。道化を演じる事でしか其の腐敗を抑えられなんだ、と。そう、嘆いていた翁だ』

ぎり、と。小太郎の拳が、強く握り込まれるのが見えた。

     『墜ちた血族を見捨てる事出来ず。正し救う事も出来ず。只、酷な政を強いられた民の為に、一刻も早く誰かしらに己が討たれる事を、望んでいた翁だ』

ひゅ、と。成美くんの喉が、大きく息を呑むのが聞こえた。

     『其の、誰かしらに。全てを押し付けるのが申し訳無い、と。愚かな同胞を変えられなんだ己が無力さが口惜しい、と。心より悔いていた翁だ』





決して大きくは無いその声は、空気に乗って波紋の様にドコまでも響く。

見れば、北条の兵士さん達は唇を噛んで涙を流していた。

伊達の特服さん達はやりきれなさそうに俯いていた。





     『人の世が如何動いているのか我は知らぬ。故に我は人の世に口を挟まぬ』

「・・・・・・・・・・・・ん。ソレで正解だと思うよ、俺も」

     『なれど、御子。我は彼の翁を死なせとう無い。そう思うは、我の身勝手か?』





再び、鷹神さんがあたしを見た。

「――――――や?良いんじゃないかな、其れでも」

てゆーか、慈悲の心を持つ神サマならむしろソレで当たり前だと思います。

「俺も、其の北条の翁には生きて欲しいと思うし」

腐った行政を嘆く様な。国民さんを思って命を差し出せる様な。こんなご時世だから、こそ。そんなじじさまには、生きてて欲しい。





鷹神さんに歩み寄りながら、目の前のお城を見上げる。

距離が縮まった事に、小太郎はちょっと身体を強張らせたけど。





「何よりあんたが気にかけ、気紛れの性質を持つ風を懐かせた御仁だ」

     『ならば』

「ああ――――――聞き入れましょう?其の頼みとやら」





さらり、と。鷹神さんの喉を、次いで小太郎の頬を撫でて、あたしはそのままお城へと歩を進め――――――

せんせー!!ちょっと待ったぁ!!」

思わずズルッと滑りそうになりました。

・・・・・・・・・・・・ぎぎぃいっ、と首だけ後ろに向ければ、ソコにはやっぱり案の定わたわた慌てる成実くんの姿。





「――――――何、成実」

「うんいやソコのでっかい鳥が土地神様だってのは理解したしせんせーとの話も聞いてたからせんせーがドコ行こうとしてるのかも解るんだけどな!?」

「・・・・・・・・・・・・なら何か問題でも?」

「栄光門、梵と小十郎が駆け込んだ後に閉まっちゃったんだよ!!一体どーやって入るんだ!?」





は?そんなの決まってるじゃないか。

「開ければ済む話でしょーが」

そう言って、あたしはまだぎゃいぎゃい言ってる成実くんを無視してスタスタとその閉め切られた門の前に近付き。

てい、と片手で押した。




 




 




 











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