忍は闇に紛れて隙を突いて敵を屠る生き物だ。

こんな真昼間、しかも間っ正面から正々堂々といざ尋常に勝負、なんて事は不得手な生業だ。

――――――相手が自分より格上なら、尚更。




 




 




 






土地神様、戦場に降り立つ、の巻。

~とても意外な闖入者ありです。~





 




 




 




 
あたしはただ悠然と立ち続ける。右手に『舞扇』、左手に拳銃を携えて。

小太郎は、動かない。

だって彼は確信してしまった。あたしが自分よりも格上だって。





彼はただ、強さのみを求められ育てられた忍。野生に近い人間。

強者に楯突く弱者の牙など、強者にとっては蚊に刺される程度のものでしかないって、骨の髄から知ってる。

だから、動けない。





・・・・・・ソレでも、逃げもせずあたしを睨み付け、敵意も殺気もいまだに捨てていないのは。

彼が唯一主と仰ぐ、あのじじさまの為なんだろう。





「ひゅー!!イカスぜ先生!!」

「さっすがさん!!カッコイイ!!」

「惚れたぜ先生!!一生ついて行きやす!!」





って、をいコラまてまてっっ!?

コッチは珍しくシリアスやってんの!気の抜ける様な声援止めてくんないかな特服の皆さん!?





「・・・・・・・・・・・・すげぇ、あの風魔が手も足も出ねぇ・・・・・・・・・・・・!」

「・・・・・・・・・・・・もしや、彼が噂の!?」





てゆーか、なんで北条の兵士さん達も戦を忘れてあたしの事ガン見なんですか!?

つか噂ってなに!?――――――はっ、もしかして筆頭さんの言ってたアレ!?こんなトコにまで出回ってんの!?





「・・・・・・銀髪蒼目・・・・・・竜の、爪・・・・・・!!」

「・・・・・・間違いない・・・・・・竜爪の舞姫だ・・・・・・!!」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ち ょ っ と ま て 。





ガウン、ガウン!!

「「ひぃっっ!?」」

あたしは咄嗟に、呟いた敵兵さん達の足元に麻痺弾を数発撃ちこんでいた。





「――――――誰が、何、だって?」

何をどう経由したら鬼から姫にすり替わるんだ!?

つか筆頭さん!!あんた一体どんな噂流したの!!





すっごいひっくい声で、あたしは聞き逃せない単語を漏らした敵兵さん達を横目で睨め付ける。

周りの気温が一気に5度くらい下がったのは気のせいじゃない。

視界に映る特服さん達も、心なしか青い顔だ。





そんな中、あたしは睨み付けて縮こまった敵兵さん達から視線を逸らさず、銃口だけを動かしてドンッと更にもう一発。

「お前は動くな、忍」

威嚇した小太郎は、中腰の姿勢で動きを止める。

そんなあたしを見て 「アニキだ・・・・・・アニキがいる・・・・・・!!」 と恍惚とした表情で騒ぐ特服さん達をひと睨みで黙らせ。

再び動こうとした小太郎に、今度こそ視線を向けて威嚇をもう一発。





「動くな、と言った筈だけど?」





直伝、全く目の笑って無い大輪の笑顔、を向ければ。

小太郎は見事に痛みだけが理由じゃない冷や汗を流しながらピキンッと固まり。

運悪くあたしのその笑顔を見た人達も泣きそうな顔で顔を青くしていた。





――――――ソコに。





     『赦しておくれ、御子よ』

ばさり、と羽ばたきの音。

     『此れは風の子。我が愛し子。赦しておくれ』

大気に舞ったのは、白い、羽根。





「――――――!?っ、っ!!」

小太郎が、慌てた様に両腕を伸ばす。

その手の先。あたしの銃口の前に身を躍らせたのは。

10歳くらいの人の子の大きさくらいは裕にある、白い、綺麗な鷹だった。





「・・・・・・と、土地神様だ・・・・・・!!」

「・・・・・・相模の森の土地神様だ・・・・・・!!」





恐慌とした様に、北条の兵士さん達が膝を着き、頭を垂れる。

そんな彼等を見た特服さん達も、ざわざわと落ち着きなくざわめきだして。





「あ!!いたいたせんせー・・・・・・ってうわ!!ナニそのすっごいでっかい鷹!?つかソレ伝説の忍!?」

成実くんが馬を駆って近付いてくる・・・・・・かと思ったら、白い鷹と小太郎に驚いて思いっきり手綱を引いた。

成実くんの言葉に、小太郎はザッ!と動いて地面に降り立った白鷹を背後に隠し姿勢を低くする。

ソレを見て、成実くんも特服さん達もちゃき、と武器を構えたけど。





「――――――引きな、成実。他の皆も」

「は!?何言ってるんだせんせー!?」

「相模の土地神は、俺のお客さんだ。刃を、向けるな」





言いながら、あたしは武器を構えてる成美くん達とは逆に、銃をホルスターにしまう。

そんなあたしにもう一度 「は!?」 と聞き返してきた成実くんだったけど。





     『感謝する、御子』





ばさり、とひとつ羽ばたきながら答えた白鷹さんに、ぽかん、と目を見開いた。




 




 




 











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