べきゃっ、て内側の閂が真っ二つに折れて、でっかい門は意外にあっさり開いた。

開けた先には腰抜かして青褪めた顔であたしを凝視している北条の兵士さん・・・・・・何だいそのバケモノ見た様な顔はイヤ自分でも解ってるけど。

あたしはふい、とその人から視線を反らして、多分同じ様な顔してる後ろの成実くん達を振り返りもせず、中に駆け込んだ。




 




 




 






土地神様、戦場に降り立つ、の巻。

~タヌキなじじさまひっかけてみた。~





 




 




 




 
古今東西、ボスというものは、お城なら1番高いトコロ、ダンジョンなら1番深いトコロにいる。

だけど北条のじじさまは、確かに奥まってはいたけど桜の木がいっぱい連なったでっかい庭に面したでっかい座敷にいた。

筆頭さんと腹心さんに刀を向けられて。





ご老体でもサスガは戦国武将。鎧を着込んで槍を振るうその姿は、中々に迫力まんさい。

・・・・・・・・・・・・でも、やっぱり若い筆頭さんには敵わないみたい。

しかも筆頭さんには、腹心さんっていう強い味方がいる。





あたしはポーチからもう1本の『舞扇』を抜いて。

ガキィ――――ン!!

がくっと膝を着いてしまったじじさまと、筆頭さんが振り上げた六爪流の間に滑り込んで剣を止めた。





「っ!?お前!?」

っ!?」

驚いた筆頭さんと腹心さんが非難の目で見てきて、声を荒げる。

「っ、てめぇ、自分が誰を庇ってるか解ってんのか!?」

「Hey、!! It`s obstructive (邪魔だ) !!」

だけどあたしはそんなのお構いナシに、筆頭さんの命令にも腹心さんの問い掛けにも応えずじじさまを振り返った。





驚いた顔をしていたじじさまは、あたしを見上げてぽかんと口を開け、ソレからブンブン首を振って鋭い視線であたしを見据える。

「・・・・・・まさか風魔が戻ってきおったのかと思うたが・・・・・・何者じゃ、お主」

「――――――奥州筆頭の元で厄介になっている、只の医者ですよ。北条、氏政公」

窺う目色は猜疑。そして困惑だ――――――まあ、無理もないと思うよ、うん。





だって、筆頭さんトコに厄介になってる人間が、タダの医者とは思えない動きで筆頭さんと腹心さんの邪魔をして、敵将であるじじさまを助けたんだ。

もしかしてこんな土壇場で謀反ですか!?なんて思われても仕方ないし、実際に筆頭さんも腹心さんも驚いて・・・・・・って、ん?





あれ?・・・・・・今、じじさま何て言った?

『まさか』?風魔が戻って『きおった』?

・・・・・・・・・・・・えー。ソレってもしかして。

ちょっと、試しにカマかけてみよう。





「そして、貴方の言う風魔というのがあの紅い髪の忍の事なら――――――彼はもう2度と、此処に来る事はありませんが」

「――――――・・・・・・・・・・・・な、ん・・・・・・じゃと?」

「栄光門の前で討ち取りました。俺がこの手で」





にぃ、と口角を上げてじじさまを見下ろしてみれば。

じじさまは、愕然とした表情で目を見開いて、あたしを凝視した。





「・・・・・・何故、じゃ・・・・・・」

わなわなと、震える手があたしの足を掴む。

「何故、殺したんじゃ・・・・・・!!」

ソレを見た筆頭さんが気色ばんで刀を構える。

だけどあたしは軽く手を上げて、じじさまに掴み掛かろうとする筆頭さんを止めた。





「何故?可笑しな事を聞く。伝説と謳われる忍、北条最強の傭兵。其の首は一介の北条の将よりも価値が――――――」

「あれはもう北条の忍では無い!!半月も前に解雇した!!此度の戦には何ら関係無い!!」





――――――ああ。やっぱり。

考えてみれば、何で小太郎はベストポジションの栄光門の上じゃなくて凧に乗ってたのか、とか。

あたしがココに辿り着いてから今までの時間、彼なら怪我をしてたってもう追い付いてても可笑しくないのに。何で未だにじじさま助けに来ないの、とか。

そんな疑問の答えが、今、出た。





「――――――だがあの忍は、戦場にいた。俺と筆頭に、刃を向けた」

「・・・・・・・・・・・・何故、じゃ・・・・・・・・・っっ。何故、戦場なんぞに・・・・・・・・・・・・あやつは・・・・・・・・・・・・っっ!!」

「貴方と、同じだったのではないんですか」

「・・・・・・・・・・・・な、に・・・・・・・・・・・・?」

「契約を破棄する事で、今回の戦から彼を遠ざけようとした、貴方の様に。彼もまた、主以外に姿を曝してはならぬという風魔の掟を破ってでも、貴方を守りたかったんでしょうよ」

「っ、お主、知っておったのか・・・・・・!?ならば何故・・・・・・!!」

「今言ったばかりでしょう。なのに未だ、其れを俺に聞きますか」





溜息混じりに切り返したら、じじさまはグッと息を呑んで口を噤んでしまった。

筆頭さんは、何だか探る様にそんなじじさまを見てる。

未だに状況を呑み込めてないのは腹心さんだ。困惑した様にあたしとじじさまを交互に見てて。





「・・・・・・Hey、。Explain (説明しろ) 」

近付いてきた筆頭さんが聞いてきた・・・・・・けど、そんな、スデにおおよその見当は付いてます、みたいな顔で聞かれても。

「――――――説明も何も、政宗が思っている通りだと思うけど」

「Ahー・・・・・・忍の持ってきた報告内容とかも統合して?」

「Yes」

さっきの、紅髪の忍うんぬんをソコに入れてくれるとなお良し。

「そうか。あんたがそう言うなら間違いはねぇな」





うん何でソコであたしが言うなら、って発想になるのか解らんけど取り敢えず今は置いといて。

「其れを踏まえた上で。ひとつ頼みがあるんだ、政宗」

「What?何だ」

「この翁の命、一時俺が預かりたい」

「「なっ!?」」





あ。じじさまと腹心さんが絶句した。

逆に筆頭さんは、視線を鋭くしてあたしを見据える。





「・・・・・・The reason? (理由は?) 」

「この翁には死んで欲しくないんだと――――――そうだよね?」





問い掛ける様に、あたしは庭の桜の樹の群れに顔を向けた。

つられた様にじじさまも筆頭さんも腹心さんも、まだ1分ほどしか蕾を開かせていないその木々に視線をやる。





ざあ、と風が吹いて枝を揺らした。ソレが小さな桜の吹雪となる。

その、一拍後。

ひらひらと舞う花弁の中、浮かび上がる様に姿を見せたのは。

紅髪の忍と、彼を支える様に傍に寄り添う、大きな白い鷹。





「・・・・・・何だ、ありゃあ・・・・・・!?」

「・・・・・・White hawk・・・・・・!この辺りの土地神か・・・・・・!」

「・・・・・・小太郎・・・・・・鷹神様・・・・・・!!」





驚く筆頭さんと腹心さんを尻目に、じじさまは慌てて庭に躍り出る。

に、と笑顔を向けた先、腹心さんは更に目を見開き、だけど筆頭さんは逆に何かを納得したかの様な顔。





「Ha、のMain vocation (本職) 絡みか」

「そういう事――――――まあ、俺が言い出さなくとも、元々アンタに翁を殺すつもりは無さそうだったけど――――――で、返事は」

「・・・・・・Shit、確かにその通りだが、そんな言い方されたら冗談すら言えなくなるじゃねぇか・・・・・・良かったなじーさん、土地神が知り合いにいてよ」

「な、政宗様!?」





少しだけ膨れた様に、だけど以外にあっさりと筆頭さんは了承を出してくれる。

後ろで何か腹心さんが鷹神さんにまだ驚いてたり筆頭さんのセリフに反論しようとしたりしたけど。

あたしは筆頭さんと一緒に、見事にソレをスルーしたのだった。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんか腹心さんの胃痛のタネに、今後あたしも含まれるんだろーなー、なんて思ったのは、ココだけの話である。まる。




 




 




 











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