すっごい広い宴会場みたいな座敷で、宴は行われた。

しかもなんかすっごいみんなテンション高くて、呑めや歌えやの大騒ぎで。

VIPだからって上座の筆頭さんの横に座らされたあたしは、そんな皆様を眺めながら、1人ちびちびとおつまみを摘まんでいた。




 




 




 






不審者、お城へ招待される、の巻。

~ああ呑めませんよ悪いかよ。~





 




 




 




 
あたしはけっこー好き嫌いが激しい。

まず、辛いのがダメだ。目にしみるカラシも鼻にくるワサビも、キムチのトウガラシもダメ。

・・・・・・ここ〇ちのカレーは3辛までイケるけどね!

お豆さんもダメ。インゲンとかエンドウとか、あと大豆はまだイケるんだけど、何故かおせち料理に入ってる黒豆とかおはぎの小豆とかはダメだ。

ソレから、イクラとかカズノコとか、魚の卵もダメ。ウニもダメだしカニもダメ・・・・・・エビは好きなのに。

あと、濃い味付けもダメだ。ハンバーグやトンカツに、自分でソースをかけた事なんて1度もない。





そして、そんなあたしの嫌いなモノ第1位は。

何と、今手に持っている杯――――――日本酒、だったりする。





や。呑むクチは持ってんだよ?

強くはないけど弱くもない。今までの吞み会でツブれた事はないし、二日酔いなんてついぞなった事もない。

とーさん田舎が九州で、呑む時いっつも芋焼酎1升軽々空けるよーな人だったから、多分遺伝もあるんだと思う。

一時期は果実酒なるモノにはまって自分で漬けてた事もあるし。

定番の梅・花梨・杏から、柘榴に林檎、木苺キウィ梨パイン・・・・・・パインが1番美味しかった。うん。





ブランデーもワインもウイスキーも呑む。焼酎だってビールだって大丈夫。甘いカクテルなんかスイスイいくね。

・・・・・・でも何故か、日本酒、だけは飲酒解禁の20の頃からダメだった。

他のお酒ならちゃんぽんしたってイイとこほろ酔い、までなのに、日本酒だとグラス一杯で即ぷきゅう、なんだよ。





あたしは左手にある杯をそのままに、右のお箸で料理を突っつく。

あ。この白菜の炊いたの美味し・・・・・・

「Hey、!あんた全然呑んでねぇじゃねーかよ!」

うぉっとぉ!?何イキナリ背中からどしん!!ってっっ!?

あっぶないなあ!!お箸で咽喉突いたらどーしてくれんだ!?

あああっっ、お酒零れた零れたっっ。





「・・・・・・・・・・・・奥州筆頭」

思わずじとーっと背中に張り付いた筆頭さんを見る。

だけど筆頭さんは、そんなあたしの批難の目をサラッとスルーして下さるどころか。

「Ah?何時までも堅っ苦しい呼び方してんじゃねーよ。政宗だま・さ・む・ね!You see?」

にやにや笑いながら、零れて半分以下になったあたしの杯にとぽとぽ徳利からお酒を注ぎ足した。





いやあのですね。

「・・・・・・・・・・・・奥州ひっ」

「Nononono、ま・さ・む・ね、だ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・奥しゅ」

「まーさーむーねー」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん。負けました。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・政宗サマ」

「様はいらねぇ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・政宗」

「最初っからそう呼べば良いんだよ」





ふふん、て鼻で笑う筆頭さんにはもう怒る気にもならない。

・・・・・・てゆーか何であたしこんな押しに弱いかなぁ・・・・・・





はふ、と溜息を吐いて、注がれたお酒をちょびっと、ホントーにちょびーっとだけ、口に含む。

だって折角注いでもらった (頼んでないけど) のに、全然口着けないのもシツレイじゃありませんか。

口の中で広がる辛味を何とか耐えて、こくん、と奥に流し込む。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うえ。やっぱダメだこの味。





思わず顔をしかめて杯を見てると、背中からはがれた筆頭さんが、よっ、とあたしの横に腰を降ろす。

「辛気臭ぇ面だな。の歓迎の為の宴なんだぜ?主役のあんたがそんなんでどうするよ?」

いえ解ってるんですけどね。ソレでもやっぱり、ね。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・駄目、なんだよ」

「What?」

「酒。呑めないんだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Really?」

「後2杯も飲めば確実に昏倒する自信があるね」





どきっぱりと言い切って、だからコレ以上お酒を勧めるのはヤメテクダサイ、と暗に含ませたら。

筆頭さんは何故かあたしをパチクリとした目で見て。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぶっ、く、くっ、ぶわぁっっははっ、あっはっははっっ!!!」

――――――・・・・・・・・・・・・盛大に笑い声を上げて下さった。





つか何で!?何がそんなにツボだったの!?

っ、がっ、ぅぷっ、くくくっ、げっ、下戸!!」

下戸じゃないやい日本酒以外なら呑めるやい。

「Unbelievable!!ふ、くくっ、あんたが酒呑めねぇなんて!!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あー。も、イイ。もー何も言わない。





腹抱えてヒーヒー言ってる筆頭さんから顔を背けて、あたしはゴボウのきんぴらに手をつける。

・・・・・・・・・・・・うむ。コレも美味。

「・・・・・・っあー、笑った笑った。久しぶりだこんなに笑ったのぁ」

そーでしょーとも。眦に涙まで浮かべやがって。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・其れは良かったデスネ」

あたしはぜんっぜん!面白くないけどね!

「Ah~、悪ぃ悪ぃ。悪気はねぇんだぜ?ただ、あんたはザルどころかワクだと思ってたからよ」

ナゼそー思う。

「けど、じゃあ、あんたに酒を勧めんのは控えた方が良いな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうして」

でないとツブれる。絶対ツブれる。





あたしは杯を置いて、多分鶏肉の焼いたのにお箸を向けた。

――――――・・・・・・・・・・・・あ。そーいえば。





「奥州ひっ・・・・・・政宗」

睨まないで言い直したんだから。

「What?」

「・・・・・・・・・・・・狼は?」

「Ah、アイツならアソコ」





ほら、としゃくられた顎の先を見てみれば。

開け放たれた障子、縁側の向こうのだだっ広いお庭。

なんかイロイロ盛られた餌皿の隣に、ちょこん、と行儀良く座った狼さんがいた。




 




 




 











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