あの森から、ずっとあたしにくっついてきてくれた狼さん。 道案内が終わった時。雑兵さん達に囲まれた時。そして、お城へご招待、を受けた時。 何時でも森に帰る機会はあったのに、ソレでも着いて来てくれた狼さん――――――そんなカレに、あたしはお礼が言いたくて。 |
不審者、お城へ招待される、の巻。 ~こんなんがお礼になるならいくらでも。~ |
「――――――ちょっと、行ってくる」 「Ah?ああ」 よっ、と立ち上がって縁側へ向かう。 ずーっとあたしを見てたんだろう。狼さんも途端に立ってばたばたと尻尾を振った。 「狼」 そして、縁側に腰掛けながら呼び掛ければ。くぅん、と鳴きながら膝に鼻先を擦り寄せてくる。 そんな狼さんの様子にふふ、と笑みを零してたら、狼さんを挟む様に筆頭さんまですとんと縁側に座った。 「随分とに懐いたな・・・・・・Hey、お前野生のWolfだろ?」 わしゃわしゃと筆頭さんの手が頭を撫でても、狼さんはあたしの膝に前足を乗せて首を振って、筆頭さんを相手にもしない。 そんな狼さんに、あたしも筆頭さんも苦笑して、手触りのイイ毛を撫でる。 「有難うね、狼」 ココまで着いて来てくれて。 住処だった森から離れて、獣には居づらい、こんな人のたくさん住む処まで、来てくれて。 そっとお礼を言ったら、狼さんは更に身体を擦り寄せてきた。 『いいえ、いいえ。みこさま。みこさまがいらっしゃるならどこへでも。おともいたします。どこへでも』 「其れでも、お礼言わせて。お礼、させて」 『いいえ、いいえ。もったいない。みこさまのそばにいられるだけで。そばにいられる。それだけで』 「俺が。したいんだ――――――何が良い?」 ぐ、と両手で狼さんの顔を上げてこつんとおでことおでこをくっつける。 綺麗な青い目を覗き込んで、もう1度。何がイイ?と聞いた。 『――――――なら、うた、を』 おずおずと、小さな小さな声が返る。 『みこさまの、うたがききたいです』 あたしは笑って、ぽん、と自分の太ももを叩いた。 ソレだけで、あたしが何を言いたいのか解った狼さんは、やっぱりおずおずと縁側に乗り上げて、恐る恐るあたしの足に頭を乗せて伏せる。 「・・・・・・・・・・・・Shit、In beast`s Pposition (けっ、獣の分際で) 」 え、なに舌打ち?しかも何か言った? 「何か言った、政宗?」 すっごいちっちゃくて良く聞き取れなかったんだけど。 「いや、何も」 だけど筆頭さんは空・・・・・・月?を見上げて、手酌でかぱかぱお酒を呑んでる。 ふぅん?ならイイけど。 あたしは狼さんの頭を撫でながら、狼さんのお礼について考える。 ・・・・・・・・・・・・歌、かぁ。 何がイイかな。どんな歌が、狼さんは好きかな。 優しい歌がイイ。聞いてるだけで癒される様な。幸せになれる様な。そんな。 ――――――あの歌が、イイな。うん。 ふ、と息を吐く。 筆頭さんが見てる月を、あたしも見上げて。狼さんの頭を撫でながら、目を閉じて。すぅ、と息を。吸い込む。 「――――――まだ青い空 まだ青い海 終わりを告げる様な 真白色 」 歌い出したのは、あたしがまだふつーに生活してた頃、大好きだったアーティストの歌。 あの人の歌は全部好き。生々しい歌詞とかわんさかあったけど。けど、その痛さと、その中に潜む優しさ愛しさが好き。 「 悲しみはいらない やさしい歌だけでいい あなたに降り注ぐ全てが 正しい やさしいになれ 」 狼さんの耳に、優しく届く様に。安らげる様に。 「 正しい やさしいであれ 」 最後のワンフレーズと一緒に、ぽん、と狼さんの頭を叩いた。 すると狼さんは、顔を上げてぱたりと尻尾を振る。 『きれいなうた。やさしいうた。ありがとうございます、みこさま』 「――――――や。こんなのがお礼になるなら、幾らでも」 伏せからお座りになって懐く狼さんは、どうやら満足してくれたらしい。ぱたぱた揺れてる尻尾がそう言ってる。 ・・・・・・・・・・・・ん?てゆーか。 なんかさっきから、BGMだったヤロー共の喧騒がないんだけど。 首を傾げつつ後ろを振り返って・・・・・・・・・・・・うぉわびびったぁ!! 何でみんなあたしの事ガン見!? ちょ、腹心さん腹心さん!!お酒お酒!!畳に注いでどーしたの!? 「――――――Hey、」 ってイキナリ腕ぐわしぃ!!って何筆頭さん!? 顔っっ、顔近い!!近いから!! 「な、なに?」 ちょっと、いやかなり腰が引きつつ、応える。 そんなあたしに筆頭さんはずずい!!と迫って。 「Encore」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい? 「もう一曲。歌ってくれ」 真っ剣な表情でそんな事をお願いしてきた筆頭さんに。 あたしはすこんと気が抜けた。 |
<<バック バック トゥ トップ>> |