ずん、と筆頭さんの声が低くなった。

あたしの首に掛かってた腕がさらりと解かれて、しっかりと地面を踏み締めて893なにーちゃんに向き直る。

その隻眼は、とても苛烈に綺麗に煌めいていた。




 




 




 






不審者、お城へ招待される、の巻。

〜コレはもはや脅迫の域ですな。〜





 




 




 




 
「この俺の命の恩人に、刃を向けるのか――――――他の誰でも無い、俺の腹心たる、お前が」





・・・・・・・・・・・・うん。すんごい威圧感だ。

サスガは、この年で一国の主、ってかんじ。

気に当てられたにーちゃんも周りにいた特服の人達も、ざっと膝を着いて頭を下げる。

あ。狼さんまで伏せしてる。獣の本能?筆頭さんがココのボスだって解ったんかな。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・てゆーか、コレはあたしも跪かなきゃなんないんだろーか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、イイよねあたしこの人の部下じゃないし。





あたしは小さな吐息をひとつ落とすと、静かに狼さんに近付いた。

「――――――俺は行くけど、狼」

キミはどーする?

「Heyheyhey、Hey!!何言ってんだてめぇ、勝手に行くな!!」

って続けようとしたらでっかい声で遮られた。





しゃがみ込んで狼さんの頭を撫でてた手を止めて上を見上げれば。

――――――なにゆえ仁王立ち。

しかも何でそんな、フキゲンそう?

「目的は果たしたんだ――――――何か問題でも?」

無いよね別に。うん。

「大アリだ!!」

え。

「Benefactorに何の礼もせず帰すなんざ、伊達家末代までの恥だ!!」

ええ?そーゆー問題?





「・・・・・・礼なんて要らないよ」

そんなのが欲しくて助けたんでもないし。

ただ、あんな森の中心部に近いトコで、独りで、戦いによる傷で、不本意な死に方をしてほしくなかった。

だって人の想いは強いから・・・・・・特に負の感情は。





生に未練を残して逝ったら、その想いは土地に縛りつけられる。

そーゆー想いは、大なり小なり土地を穢す元になるから。

そしてあの森は、どんな小さな穢れも、もう自力で清める事も出来ないくらい、弱っていたから。

あたしは、ただ。あの美しい優しい白い大蛇が守る森を、助けようとしただけ。

・・・・・・まあ、筆頭さんのビジュアルも、あたし好みだったけどさ。





だけど、そんなあたしに筆頭さんは。

「It`s annoying!!てめぇが良くても俺の気が済まねぇんだよ」

・・・・・・・・・・・・うーわー。ちょーオレサマ。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・礼はい」

「それじゃ気が済まねぇっつってんだろ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・みなまで言わせなかったね今。

しかも何であたしと一緒になってしゃがみ込んでんの?腕掴んでくんの??

ちょ、いたたたイタイいたい。





思わず眉を顰めても、筆頭さんはドコ吹く風、な感じで。

腕を掴む手は放さずに、逃がすもんか、という様に力すら緩めやしない。





「Guestとして招いてやる。――――――受けるよな?」

「・・・・・・・・・・・・や、俺は」

「受・け・る・よ・な・?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





脅し?脅しですかコレは?

つか何さ、なんなのさコレこの仕打ちっ。せっかくココまで連れてきてやったってのに!

人の話聞けよ!!いくらあたしでもやさぐれるぞ!?

・・・・・・・・・・・・いやこの人怒らすと怖いってさっき見て解ってるからコレ以上反抗すんのはやめとこ。





「――――――・・・・・・・・・・・・解ったよ」

しぶしぶ。ホンットーにしぶしぶ溜息混じりに呟いたら、筆頭さんは 「よし!」 と満足気に頷く。

「そうと決まりゃ話は早ぇ。おい小十郎!」

「はっ」

「城へ戻る。馬を回せ!」

ってイキナリ!?

「はっ、只今」

しかもにーちゃん!!さっきまであんなに殺気ビシバシだったのに!!そんなあっさり!?





筆頭さんの号令ひとつでばたばたと慌ただしく動き出した周囲の人達に、ア然ボー然。

くぅん、と狼さんがあたしの手に鼻先を擦り付けてくる。

見上げてくるその青い目は、あたしを心配そうに見詰めていて。

・・・・・・・・・・・・くぅうっっ。あたしの味方はあんただけだ!!





思わず癒しを求めてぎゅむっと抱き付・・・・・・こうとしたけど。

その前にぐいっと筆頭さんに腕を引っ張られて、背筋が伸びた。

・・・・・・・・・・・・って、何時の間に立ち上がってんですかあんた。

しかもあたしに立てと言ってなさる?





「・・・・・・・・・・・・離して、くんないかな」

「No!離した途端に逃げられたら困る」

確かに隙あらば猛ダッシュで立ち去りたいですが。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・逃げないよ」

「それでも、Noだ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん用心深いね。





あたしはでっかい溜息を吐いて、ひどーくのったりと、筆頭さんの言う通りに立ち上がった。




 




 




 











<<バック                    ネクスト>>
<<バック トゥ トップ>>