スポットライトが煌々と突き刺さるリング。

ソコへ一歩一歩近付くにつれ、雄叫びが小さくなっていった。

そして、あたしがリングに上がった瞬間。

しん、とその場は静まり返ってしまった。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ナゼ?





はて、と首を傾げた。

だって、さっきまであんなに殺せ殺せって煩かった野次が、イキナリびたぁっ!!と止まったら、誰だって疑問に思う。

見れば誰もが――――――そう、リングに上がっているあたしの相手達ですら、凍った様に固まっていて。





「・・・・・・・・・・・・始めないのか?」

その方があたし的には万々歳なのですが。

内心ビクビクしながら尋ねれば、ハッ!!とした様に対戦者達が動き出した。




 




 




 





 
1人で困難を乗り越えた日。




 




 




 




 
突っ込んでくる囚人さん達を、あたしはひらりひらりと交わす。

ソレはもう余裕綽綽で。ギリギリまで引き付けて、最小限の動きで紙一重で交わす。





・・・・・・・・・・・・うん。死刑囚だってゆーから、どんだけアブナい人達なんだって思ってたけど。

この人達みんな、あたしより弱い。見た目ゴツいのに弱い。

このあたしが解るくらいに、ソレはソレはもう、カワイソーなくらいに、弱い。





だって武器の扱い方、体捌きからして全然なってない。

イイとこチンピラに毛が生えた程度、って感じ。

そんなのダース強で束になって掛かってきても、のスパルタ特訓に比べたら半分寝ながらでも相手出来るくらい、軽い軽い。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だからといって、ホントに相手にしたくはないんだけど。





だって見た目ムサい!!近付いたらクサい!!

あんなん『舞扇』で攻撃したら、あたしのカワイイ『舞扇』の方が汚れちゃう!!

だからと言って殴るなんて以ての外!!あたしの手が腐るから!!





だからあたしは今、逃げの一手。

そうこうしてるウチにまた「殺せ」の野次が復活してきたけど。

・・・・・・・・・・・・いえ、一体ナゼ「殺せ」でなく「犯・・・・・・・・・・・・げふごふんっっ。

いいやあたしは何も聞こえてない!!ないったらない!!





のらりくらりと、柳みたいに攻撃交わして、イラついた囚人さん達が突進して、また小馬鹿にする様に交わして。

いくらか続けてたら、囚人さん達はだんだんバテてきた。

膝に手ぇ付いて、ぜぇはぁ言う人まで出てくる始末・・・・・・あたしより体格イイくせに、なんてへたれな・・・・・・





――――――まあ、ソレはソレ。

あたしはこの時を待ってたのさ。





ひらり、と。振り回されてきたでっかい斧を避けながら、そろそろ頃合いかな、とあたしの口角が上に上がる。

ソレを見た囚人さんは、なんかすっごいヤバい予感がするぞ、ってな感じで顔を真っ青にして引き攣らせて更に突進してきたけど。

――――――・・・・・・・・・・・・悪いね。今頃気付いてももう遅いんだよ。





「帳を招く宵の精霊 眠りの花の香を撒き散し 彼の者を深き夢の淵に誘い込まん」





舌の上で転がす様に。静かに静かに。眠りの魔術を発動させた途端。

あたしが微弱なリーチーを展開していたリング上。ソコにいた囚人さん達が。

突然、糸を切られた操り人形みたいに、どさどさっとその場に倒れ込んだ。





イキナリの事に、観戦してた鉄線の向こうの囚人さん達も野次が止まる。

昏々と、いびきも無く身じろぎすらせず眠る囚人さん達は、ハタから見たら死んだみたいに見える。





当たり前っちゃー当たり前かもしんない。

体力をギリギリまで削られた上、強制的に深い眠りの淵に引き摺り込まれたんだから。

3日は起きられないよコレ。





あたしはちらり、とスピーカーを見る。

多分、アレには隠しカメラも搭載されてるハズだ。

いや、アソコだけじゃなくもっといっぱい。あちこちに隠しカメラはあるんだろうけど。





「倒したぞ」

『彼等は未だ、生きていますが』

・・・・・・・・・・・・状態を把握してる。やっぱり、隠しカメラ搭載決定。





「倒せ、とは言われたが殺せ、とは言われていない」

屁理屈だろうが何だろうが、事実だ。あたしはこの試験で、相手を「殺せ」とは言われてない。

デスマッチ、って意味だって、相手が死ぬまで戦い続けるって意味じゃない。完全に決着が着くまで戦い続ける、って意味だ。

そして今の状態は、誰の目から見たって完全に決着が着いてる。

彼等は、最低でも丸々1日、起きられない。





『――――――良いでしょう。合格とします。次の試験へ進んで下さい』





スピーカーから流れた無機質な声に、内心ホッとしながらあたしはリングを降りる。

そして、再び復活してきた野次をBGMに、最終試験へ続く扉をくぐる。





・・・・・・・・・・・・殺さなきゃ合格とは認めない、とか言われなくて心底良かったよ。




 




 




 










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