でっかい目覚まし時計みたいな音が、試験の開始を知らせる。

出てきたサトツさんは、原作で見た通りのタヌキっぽいジェントルマンだった。





どうしてタヌキかって?

だって、ハンター試験は試験官が試験の内容を決めるんだよ?

そして今回の1次試験はフルマラソン。しかもコースがナントカ湿原横断。

タヌキじゃなかったら考えないよね普通。





スタートと同時に、あたしはサトツさんの背後にびったり張り付く。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だって後ろにいたら、またあのマッドピエロに絡まれそうじゃんか。

その辺はも同意見で、あたしの隣に並んで走る。

でも、コレってどれくらい距離があったっけ?




 




 




 





 
初っ端から波乱を感じ取ってしまった日。




 




 




 




 
走り始めて数十分。既にあたしは退屈していた。

だって、さっきからまっすぐまっすぐまっすぐまっすぐっっ。

ふつーの人なら全力疾走なイキオイで延々と洞窟みたいな岩道走ってみろ?サスガに嫌気がさすってば。





「退屈ですかな?」

イキナリ声掛けられてドキッとした。

伏せていた顔をあげると、目の前のサトツさんが肩越しに振り返っていた。





「・・・・・・いや、別に」

まさか、ハイ退屈です、とも言えないっしょ。相手は試験管だよ?し・け・ん・か・ん。

最初の「あー、まあ」みたいな沈黙はスルーしてくださいお願いします。





そんなあたしをサトツさんはしばらくじっと見て。

・・・・・・何ですかまだ何かあるんですかつかあたしサトツさんの目に留まる様な事した!?

ピエロに絡まれたのはサトツさんが来る前だし、腕切り落とされた人の怪我の回復は(一応)誰にも気づかれてなかったし。





「そうですか」

だけどサトツさんはあっさり。むしろあたしが拍子抜けするくらいサラリと再び前を向いた。

ソレから後は、後ろの事なんてアウトオブガンチューだ。

――――――何考えてんのか読めないって、ホントにタヌキだよね。





ちょっと気が抜けたものの、追及されなかった安堵でほう、と一息吐く。

うん。気を抜いちゃダメだね。あくまで大人しく。出来るだけ目立たない様に。

受験態度が悪い、と試験官に目を付けられる事がない様、真面目に真面目に。





コレは試験なんだから。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・試験とか勉強って単語すっごくキライだけど。





(いや、。ソレはちょっと無理なんじゃないか?)

(何がさ)

(ピエロに絡まれておきながら五体満足でぴんしゃんしてる時点で既に充分目立ってるし。多分その事試験管にも情報として行ってると思う)

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だから出来るだけ、って付けてるんじゃないか)





解ってるんだよコレでもあたし心の奥底では!!あのピエロの所為で他の受験者さん達があたし達警戒してんの!!

だけど願うだけならタダだし、そうある様努力しようとするのは決して無駄じゃないハズだ!!

人間の基本はやっぱり、質素に、慎ましやかに、だよ!!

そうしてたらでっかい厄介事なんて、起こらないんだから!!





(・・・・・・やー・・・・・・は質素でも慎ましやかでもないと思うよ)

(何だよぅあたしすっごい庶民じゃん!?仕事だって言われた事しかしないし、リーダーシップとか絶対無理な人じゃん!?)

(まあ中身はね。でも外見すっごい派手だから質素とか無理。しかも、そーゆーの引き寄せる体質だからさぁ・・・・・・ほら、後ろ)





言われてハッと気が付いた。

・・・・・・・・・・・・なんか、さっきぶりの、この気配は。





「キルアはどうしてハンターになりたいの?」

「ヒマ潰しだよ」





――――――・・・・・・・・・・・・何でよりにもよって、あたし達の真後ろで、この会話が繰り広げられているんでしょーか。

あたしデンジャラスな原作には絡む気なんてまっっっっ、たく無いのにっ。

だから、オトモダチになりたいのも泣く泣く諦めて近付かない様にしてたのにっっ。

・・・・・・ハッ!?コレはもしかして、あたしに思う存分ゴンを愛で倒せという天からの啓示!?





(だからヤメロって腐女子モードは)

(・・・・・・・・・・・・うう、少しくらい夢見たっていーじゃないかーぁ)

あんな変態に目ぇ付けられてんだから、せめてこれっくらいの心のオアシスは!!





さめざめ~、と。心の中で泣いてみた時だった。

「ねえ、お兄さんたち」

――――――あたしの祈りは、どっかの誰かに確かに届いたみたいだった。




 




 




 










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