『コッチは俺がどうにかするから、はそっちを・・・・・・?』
の声にハッと現実に戻ってきたのと、コロン、とどっかで妙にイヤに何かが転がる音が響いたのは、同時だった。
プシューッッ、と真っ黒い煙が舞台から溢れ出す。
――――――煙幕!!
途端にパニックを起こしたお客さん達に、あたしと、あたしの横にいた護衛さんは立ち上がって。
そして。
止まってから動き出した日。
「皆さん、慌てずに!!其処、押さないで!!」
「非常口は此方です!!」
あたし達の他にも、何箇所かに分けて置かれてた護衛さん達が、渋滞中の車の整備員さんよろしく誘導していく。
そんな中で、あたしは一歩もその場から動かなかった。
いや、動けなかったのだ。
・・・・・・・・・・・・じ~~ぃっと、ソレこそ穴が開くくらいあたしを凝視して下さってる団長サマの所為で!!
「おい、何やってんだ白猫!!」
横にいた護衛さんが肩を掴んでくる。彼の立ち位置からじゃ、団長サマはちょーど煙の向こうで見えもしない。
・・・・・・・・・・・・知らないって何てシアワセなんだろう。
あたしはそっと護衛さんの手の上に自分の手を置き、彼の耳元に口を寄せた。
「しっっ、しししししし白猫!?」
・・・・・・・・・・・・って、何真っ赤になってんのさこの非常事態に。
「――――――A級賞金首の顔を見た。後を追う」
「A級って・・・・・・・・・・・・マジかよ・・・・・・・・・・・・っっ、ひとりで大丈夫か?」
「ああ。あんたは此処を頼む」
するり、とホンモノの猫みたく護衛さんの横から離れて。外へ向かう人の波に逆らって、舞台へと。
団長サマの視線には気付かぬフリ。決してそっちを見ちゃいけない。見たら絶対、逃げられなくなる。
不自然に見えない様に。でも早く。視線は舞台横のスタッフ用扉に固定して。
あと10メートル・・・・・・5メートル。3メートル。あと少し。
「待って」
今度はがしっと腕を掴まれた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すいませんごめんなさい振り向きたくアリマセン。
「君、何処に行くんだい?避難場所はアッチだよ?」
いやんそんなサワヤカ過ぎる笑顔で思ってもない事を言われても。
「・・・・・・・・・・・・俺は護衛だ」
緊張で、声が幾分低くなった。
顔の右側だけを肩越しから見える様に傾けたのは、コッチ半分が眼帯で隠れてるからだ。
「アンタもさっさと避難しろ。此処は危ない」
そうだ。あたしは護衛。不審者見かけて追いかけるトコロ。
そして後ろのこの人は、コンサートを聴きに来ただけの一般人!!
そう思ってぐ、と掴まれた腕に力を込めるけど、そんなに力ありそうに見えない手は中々離れて下さらない。
それどころか。
「だったら尚更、ゲストを避難させなくて良いのかい?」
職務放棄だろうソレは、なんて言外に含めて、ますます力は強くなってくる。
「・・・・・・・・・・・・其れは他の者に任せてある。俺は、賊を追う」
「賊を?」
「煙幕弾を投げ込んだ奴だ。此方から裏へ行った」
コレは嘘じゃない。コロンと音がした時、確かにこの辺に人影があった。
あ。力弱くなった。そうそう、納得したなら放せ。そして大人しく一般客に交じってこっから出てけ。
そんな思いを込めてもう一度掴まれた腕に力を入れた時だ。
「――――――ソレって、さっき話してたA級賞金首の事かい?」
あたしは力いっぱい団長サマの腕を振り払った。
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