さて困った。

勢い勇んで森を抜けたのは、イイ。

龍脈とか大気中の魔素の収束具合とか、果ては念の応用円を使って読んで人が密集しているらしき方向を見出したのも、イイ。

辿り着いた先がけっこう大きな町だったなんて、上々だ。

だがしかし、ああだがしかし!!





やってきた『ざ★めしや』・・・・・・だと思う・・・・・・って書かれた看板の真下。

見本の前に置かれたプレートの数字に泣きたくなる。

・・・・・・あたし今一問なしだったよ・・・・・・




 




 




 





 
始まりから止まった日。




 




 




 




 
『どっか金持ちそうなトコから少しくすねてくる?』

「やめれ。そーゆーのは」

ぺろんとあたしの頬を舐めながら思念を送ってくるの額にペチンと一発。

ちっちゃい黒猫型に姿を変えたは、そのままうにゃっと鳴いて乗ってたあたしの肩から背中へずり落ちた。





人型から猫型へ。他にも色々変化できるこの変身能力は『絶対の守護者』であるの能力のひとつだ。

てゆーか、『持ち主に一番合った形に変化する』イノセンスの特性を、『持ち主()がその時一番望む形に変化する』に変えただけなんだけど。

で。ナゼ今が猫型なのかというと。





・・・・・・・・・・・・の服がナイのですよ、ハイ。





だって別にあたしは旅行とかする為にこの世界に飛んできたんじゃない。

だから当然、あたしの一着もあれから着た切りのままだ。

そして、具現化で服は作れなかった。

ふたりで森にいた時のはほとんど獣姿で、たまに人型になっても教団のコート貸してたりしたけどさ。

幾らなんでもそんな変態オジサンみたいな恰好、あたしと同じ顔のにやらせるワケにゃいかない。





『俺だってヤだよそんなかっこ』

「だからさせないって」

あんたの身体はあたしの姿なんだから。

じりじりと再び肩に登ってきたの頭を今度は撫でて、ほてほて歩きつつ周りを眺める。





『一番手っ取り早く稼ぐなら、天空闘技場なんだろうけど』

「・・・・・・・・・・・・アソコはあたしがやだ」

『・・・・・・うん・・・・・・俺もやだ。だってアソコ・・・・・・』

「『変態ピエロ出没ポイントだから』」





じゃあ地道に真っ当な仕事でも探す?ってなっても、あたし達には戸籍がない。

前は戦災孤児ですとかって言ってかなり無理なごまかし方してたけど、この世界で戸籍がないのは流星街出身、って即効イコールで繋がっちゃうからね。

そんなん雇ってくれる堅気の人なんて、一体何人いるんだか。





・・・・・・仕方ない。背に腹は代えられないし。

「万屋、ジャンク屋、質屋。何でも良いや、何処かないかな」

『さっき通り過ぎたよ。あそこの細い路地まがったトコ。奥に質の看板あった』





の道案内にUターンして、ポケットに突っ込んでた右手を出す。

その手の中にあるのは、ローズクロス。純銀に、鏤められたルビィ。

ラビ達の団服みたく直に縫い付けてあるヤツじゃない。あたしのは、クロス元帥と同じ様に、ネックレス型だ。





『・・・・・・売っちゃうの?』

「・・・・・・いざとなったらね。多分今着けてるアクセの中で一番値の張るのってコレだろうし」

十字架を眺めながら答えたら、しゅん、との耳が垂れ下がった。

そんなを宥める様に慰める様に、もう一度ぽんぽんと頭を撫でて。





「・・・・・・・・・・・・ところで、後ろのアレは何だろね?」

『人身売買関係の誘拐でも企んでんじゃない?』

「・・・・・・・・・・・・あたし相手に?」

『見た目だけなら、傾国も聖女も裸足で夜逃げするくらいには綺麗だよ、は』

「・・・・・・・・・・・・ソレけなされてんの?褒められてんの?」

『褒めてんだよ』





絶対ウソだ、とか溜息吐きつつ立ち止まった時だった。

「――――――よぉ、ソコの別嬪なにーちゃん。ちょーっとオレらと付き合ってくんねーかなぁ?」





・・・・・・・・・・・・うん。せっかくの哀愁の雰囲気まるまるブチ壊しだ。




 




 




 










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