こんなに力を欲した事なんて、いまだかつてない。そう言い切れるくらい、あたしは今、力を望む。
コイツが今まで殺してきた虫けらとやらは、一時的とはいえソレでもあたしにはファミリーだった。
コイツがたった今壊したイノセンスは、ソレでもあたしを今まで守ってくれたあたしの相棒だったんだよ。
だからどうか。どうかこの兵器に罰を。報いを。
「『舞扇』、『鋼の処女』」
お願いだ。ソレを与えられるだけの力を。あたしに、力を。
終わって始まった日。
あたしの右手の爪に集束された『鋼の処女』は、刃物みたいに鋭く尖ってビールっ腹を地面に縫い付けた。
あたしの左手の欠けた『舞扇』は、能面の額をかち割り突き刺さった。
「・・・う、そ」
呆然、そんな感じで呟くレベル4に、あたしの傷口から血が滴り落ちる。
アーグのコントロールに苦労しつつ、どうにかこうにか人が普通に触っても何ともないくらいには毒素を排除したあたしの血液は。
ソレでも心臓まるまる『鋼の処女』になってるお陰か、発動してる最中はアクマにはすっごい有効な毒そのまんまだ。
「ぐ、ぎ、ギ、ガアぁぁ、アアあっっ!?!?」
奇怪な悲鳴を上げて、レベル4がのた打ち回る。
あたしの血が落ちた部分から、内部で細胞が急激に増殖したみたいに、膨れ上がる。
あたしは逃げられない様に、右手で腹を刺したままバタつく足を踏み付け。
振り上げた『舞扇』、左の拳ごと。叫び続ける喉元に、突き落とした。
跳ねる、頭部。動かなくなった手足。
きぃい――――と厭な音が響いて、あたしは即ソレから離れる。
瞬間。
ドン!!
景気良く爆発して、木っ端微塵になった。
畜生。見事に欠片も残さない。
・・・・・・いや、ひとつだけ。残ってる。
ころん、と。爆風で足元に転がってきた欠片。爆発の前、切り飛ばした頭部だ。耳障りな声で、嗤って。
「く、くくく・・・イイきになるなよえくそしすと」
五月蠅い。
「ぼくていどをこわしたくらいで」
うるさい。
「おまえたちなんか、はくしゃくさまにいかされているだけなのに」
「ウルサイ」
がっ。
『鋼の処女』で右手の指全部を伸ばして、ざらざらと雑音混じりの音を発するソレを串刺しにする。
そして、暴発する前にさっさと空へ投げ捨てた。
厭な嗤い声の余韻を最後まで残して、予想通りソレはぼん!と破裂する。
すっきりするくらい、何もかもが無くなった。だけどあたしの心の中には、鉛みたいに重いものが落ちたまま。
もっと、苦しめば良かったのに。
アレンは、アクマの魂は哀れだって言うけど。アソコまで行くとあたしは同情も抱けない。
チャオジーの気持ちの方が、まだ共感持てる気がするよ。
爆風が落ち着いて、砂塵が鎮まる。
ほう、と息を吐いて、右手の『鋼の処女』を解除した――――途端。
「さて、ひと段落着いたところで、答えてもらおうか」
背後から、首筋に刃物の感触。
・・・・・・すっかり忘れてたよこのヒトタチの事。
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