「・・・・・・・・・・・・へ?」





 唖然ぼー然。

 だって。だってホントに。今まで身体中を弄ってた触手がない。

 それどころか、頭上にいた筈の大元帥達の姿も、足元にいたラビもコムイさんも。 

 あたし達が乗って来たあのでっかいエレベーターすら。





「・・・・・・・・・・・・ナニも、ない・・・・・・・・・・・・?」





 何で。如何して。

「うっぎゃ――――っっ何コレ何今度は何が起こった!?」

『まあまあ。落ち着いて落ち着いて』

 思わず頭を掻き毟ったあたしの耳が、聞いた事のある声を拾った。

 勢い良く後ろを振り返る。

 果たして、ソコにいたのは。





「・・・・・・・・・・・・『』?」





 ――――――信じ、られない。

 ソレは、あたしの想像。あたしの妄想。

 夢見るあたしの創り出した、空想人物。





『うん。初めまして、――――――もう1人の俺』

 彼が、笑う。

 今まで良く、春に咲く華、冬に降る雪、って形容してたけど。

 ホントに、そんな感じの――――――





「つか何ソレどこぞのカードゲームマンガ主人公そのいちみたいな呼び方」





 思わず突っ込んでしまっていた。

 しかも突っ込みどころ違う?いやいや全然そんな事はないハズ。





『って言われてもホントの事だから。俺、アンタの前世なんだよ』

「・・・・・・・・・・・・はぁ!?!?」

『正確には、『』が万一の為に施しておいた、封術式の要なんだけど』





 ソレは、どーゆー意味ですか!?どーゆー意味なんですか!?!?

『イヤ言葉通りの意味』

「しかも勝手に人の考え読んでるし!!」

 いやぁあープライバシーの侵害ぃー!!何てデリカシーのない!!





「ってゆーか『』ってアンタあたしの妄想の産物でしょーが!!なのに何でソレがあたしの前世に!?」

 在り得んでしょーよそんな事!!

『アンタに生まれ変わっても、『』の記憶が残ってたからだよ。ソレにアンタは妄想という名前を付けた』

 ぎゃーぎゃー喚くあたしとは対照的に、『』は淡々と話す。

 だけどあたしは信じられない。信じられるハズがない。

「だってアンタあたしの妄想通りなら死なないでしょーが!?」





 そう。コレは死なない生き物だ。





 世界樹の落とした最古の種。全として芽吹かなかった、世界ひとつ分の命と力を、内包する一。

 その為に唯一無二の。あらゆるモノに愛される。なのに人間という種を愛した。

 至高、と呼ばれる存在。





『うん。でも器は壊れる。一番最初のは一族の始祖に器を壊されたし』

 俺・・・・・・『』の場合は、力の使い過ぎが器の耐久を超えたんだけど。

 そう言って苦笑する『』に、嘘はない。





 ・・・・・・ああ、そーいやそうだっけ。確かに、あたしの設定ではそうだった。

 ・・・・・・って、え?





『アンタの書いた『』の話は、全部ホントの話だって事』

 まあ、『思い出して』ない処も、沢山あるけどな。

「・・・・・・・・・・・・まぢですか?」

『おおまぢです。』





 ・・・・・・・・・・・・イイでしょう?

 百(億)歩譲ってソレがホントの話だとしましょう?

『何そのカッコオクカッコトジって』

「だからっっ!!人の考え勝手に読むな!!」

『読んでないって勝手に流れ込んでくんだって。俺とアンタは元が同じで、意識も繋がってるんだから』





 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・まぢで

『おおまぢですって』

「だから人の考え読むなっつーか途中で切るなー!!」





 ぜーはーぜーはー。

 つ、つかれた。もーまぢで疲れました。寝てもイイですか?つか、倒れてもイイですか?

『いやソコで現実逃避されても』

「だーかーらー・・・・・・や、イイ。もうイイ。」

 なんかもー、イイや。前世だろうが裏の人格だろうが。

 信じられるワケないけど完全否定出来る材料もないし。

 何より考えるのめんどい。





『うっわ凄い投げ遣り』

「ソコ、話を折らない」

 投げ遣りでも何でも歩み寄ってやっただけマシだと思え。

『・・・・・・・・・・・・ハーイ。(しかも偉そう)』

「あ?あたしのドコが偉そうってぇ?」

『イヤイヤ全然どっこも(うっわー目。目が据わってきてるよコレ)』

「据わってないっつーの。つか大体・・・・・・」





 ・・・・・・って。何でそんなの判るよあたし。

 ――――――もしかして、コレ、ホントに?





「・・・・・・ホンッッッ、トに、繋がってるんだね・・・・・・」

 盛大な溜息と共に出た科白。





 って事は何。ホントにこの人。あたしの前世なワケ?

 今まで書いてきた話全部、物語を見てる様な感覚だったのに。

 今だって、全然現実味なんか感じないのに。





 こんな哀しい生き物が。あたしの、前世。





『・・・・・・そんなに、悲惨でも哀しくもなかったよ。『』は』

 そう言って。ふ、と『』が微笑みを浮かべた途端だった。

 ――――――頭の中に、笑顔が流れ込んできたのは。





『誰かが優しくしてくれたり馬鹿騒ぎして楽しかった事もある。愛してる、て言ってくれた人だって』

「・・・・・・そう、だったね」

『器が壊れた時、泣いてくれた人もいる』

「・・・・・・そっか」

 頭の中いっぱいに咲いた、沢山の人達の笑顔。

 この広過ぎる世界の中。コレだけの人間に好かれていれば、確かにそんなに悲惨でもない。





 そう思って、あたしはほんのりと口元に笑みを浮かべた。




 




 




 










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