『で、話進めるけど』
「おぅわ何その切り替えの早さ?」
さっきまであんなにしんみりしてたのに。
『いやだって何時までも精神世界にアンタ縛り付けとくワケにいかないし』
え、ココって精神世界なの?
『うんだから今身体の方意識ない状態なんだよね』
「・・・・・・うっわーソレってなんかヤバくない?」
端から見ればあたし気を失ってるって事っしょ?
『そう。ってなワケで話進めさせて』
口調とは裏腹に、ちょっと真剣な感じがそのトーンからして、あたしは正座して背筋伸ばす。
「ハイおっけぃ話ってなに」
『うんコレまでの事の説明?とコレからについてなんだけど』
「・・・・・・コレまでの事は何となく判ったよ。」
コイツだ異世界トリップ王道パターン発生させたの。
理由は簡単。あたしが死にそうになったから。
しかも咄嗟だったから、落ちる先の世界にまでは気が向かなくて、あんな事になった、と。
『・・・・・・はい当たりですゴメンナサイ。』
「いーよもうその辺は。済んだ事だし今あたし生きてるし」
でも。問題はこっからだ。
『』だって、ソレを話す為にあたしを内っ側に引っ張り込んだんだろう?
そんな事を考えながら。じ、とあたしは『』を見る。
彼の話す、コレから先、を待つ。
『・・・・・・本当なら。俺は今でもアンタの奥底で眠り続けてる筈だった。力を使う事なんて、ない筈だった』
ソレも、何となく判るよ。
あんな事が起こらなければ、あたしは今でも彼の事を自分の作り出した架空人物だと思ってる。
『だけど俺はまだ死にたくなかったし、アンタにあんな形で死んで欲しくなかった』
そりゃそうだ。どんな生き物だって、本能は生きようとする。
なのにその本能押さえつけて、自分死にそうになってんのに足掻かない生物がドコにいる。
『だから俺は起きた。界渡りの力を使った・・・・・・でも、俺が目を覚ました、って事は』
最後の言葉は、声になってなかった。
だけどあたしの脳裏に、ソレはうわんと大きく響いて。
「――――――ソレって、つまり。あたしは『』の、二の鉄を踏む、って事?」
自分の声が、自分の声なのに。
ドコか、遠くから聞こえてる様な気がした。
『どう、なんだろう。『』と彼女は、元は別だったけど。俺はアンタの一部だし』
そんなあたしの目の前で『』が笑う。笑っている、と思う。
ちゃんと聞こえてるのに。
ちゃんと、見えてるのに。
・・・・・・ああ、もう。しっかりしろ、あたし。
「・・・・・・・・・・・・回避、方法とかある?」
『完全、とは言えないけどね』
・・・・・・完全、じゃないのか。ソレでも少しは希望があるって事?
『すこぅしだけ、だけどね・・・・・・さっきも言ったけど、俺は封術式の要だ』
・・・・・・えーと?
『俺がまだ存在してるって事は、完全に封印は解かれてないって事だ』
・・・・・・だから?
『封印を掛け直す。俺の眠りがそのまま力の封印になる』
・・・・・・もう1回コイツが眠りにつけば、何とかなる、と?
「じゃあ寝ろ。直ぐ寝ろ。さっさと寝ろ。そして二度と起きてくるな」
『うわ酷っ』
言い放ったあたしに、彼は苦笑を浮かべた。
思わず、じろり。五月蝿いコッチは瀬戸際なんだ。
そんなあたしの視線を苦笑で返した彼は、不意に表情を真顔に戻して。
『でも一度綻びてしまった封印は、二度と以前の強度を保てないし、解け易くもなる』
・・・・・・つまり?
『変わってしまった身体も毒の血も。中途半端に思い出してしまった記憶もそのまま』
・・・・・・現状維持、ってワケですかい。
『ソレでも、今以上の力の解放は抑えられる。最悪の事態は免れる・・・・・・かも知れない』
かも知れない、って。そんなアバウトな。
『だけど本当の事だ。封印は綻びてしまった』
・・・・・・そだね。
一度壊れたオモチャは、直してもまたすぐに壊れる。
ヒビの入ったグラスなんて、いつ割れるか判ったもんじゃない。
封印なんて、もう一度掛け直しても。
コレから先、解けずに済むかもしれないけど、絶対に解けないっていう補償はドコにも、ない。
様は、そーゆー事だ。
『ゴメン、な』
「・・・・・・何がゴメンなのさ。寧ろあたしがアンタにお礼言うべきっしょ」
何に対しての謝罪か、なんて。聞かなくても判るからあたしはソレを流そうとして。
だけど彼は、ふるり、と首を振ってもう一度。
『ごめ・・・・・・』
「辛気臭くなるから止めれ」
ぺち。
オデコを軽ーく手で叩いて、それ以上言うの阻止。
彼はイタイ・・・・・・と叩かれた場所を擦りながらも、ちょっとほっとした様な顔。
うん。ソレで良し。
「で。対策はいつから?」
『ん。今直ぐにでも。』
「あたしは何かする事ある?」
『ん〜ん全然。』
「そか。話はソレだけ?」
『ん。そだね。時間もヤバイし』
ふわん、と笑う『』に、あたしも笑い返して。
『あ。そだ』
「まだ何かあんの」
『うんまあ大した事じゃないけど腐れヲトメモードは程々にね』
「っっ、余計な」
「お世話だっっ!!」
自分の大音響に、ビックリした。
「・・・・・・・・・・・・へ?」
ぱちくり、と目を瞬かせると、視界には驚きのポーズ(?)をとってるラビとコムイさん。
「びっっっ、くりしたさー」
「イキナリ叫び出すから何事かと思ったよ」
うんそこんトコはごめんなさい。
てゆーかね。
「・・・・・・ココ、ドコ・・・・・・?」
薄暗いあの最深部、って感じじゃない。
しかも背中にあるの、コレって布団の感覚だ。
「本部内の医務室だよ」
「、イノセンスの診断の最中で気を失ったんさ」
「目覚める気配が一向になくてね。運ばせてもらった」
さらり、とラビがあたしの前髪を梳き上げる。
その横で、あたしを窺うコムイさんはなんか、ちょっと心配そうだ。
「何だか随分魘されてた感があったけど、大丈夫かい?」
「・・・・・・ああ、うん、大丈夫、です・・・・・・?」
「なんで疑問形なんさ」
「いやだって倒れた、って感覚あんましないし」
よっこらせ、と上体を起こしてみる。
うん。とのおしゃべりのドコをどーしたらうなされ、になるのか解らんけど、身体に問題は全くなさげです。
「ま、何にしても良かったよ目を覚ましてくれて。気分も良いみたいだし」
「はあ」
どうもご心配をおかけしました。
――――――って、あたしは続けるつもりだったんだけど。
「コレで、心置きなく君を調べる事が出来る」
うわぁあ!!マッドだ!!マッドがココにいる!!
なんかすっごい身の危険が!!もうとてつもなくビシバシと!!
「ラビ助けろっ」
「・・・・・・やー、あはは・・・・・・まあ、うん。諦めるさ?」
にやり、と笑ってメガネをきらん、と光らせたコムイさんに、あたしは慌ててラビの背中に隠れたけど。
憐れ、あっさり売られました。
・・・・・・・・・・・・ちくせう。だからイヤだったんだここに来るの。
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