どこどこと撃ってくる砲弾のアメアラレ。

 そんな中、あたしを腕に抱えたラビはひょいひょいかわす。

 視界の端に映った廃墟は、流れ弾に砕かれて既に瓦礫に近くなっていた。





「ちょっと〜お。なぁんで反撃して来ないのお〜?」





 レベル2の、何処ぞの女子高生みたく語尾を延ばす喋り方が途方もなくムカツク。

 しかもんな事一目瞭然だろうに。





「んの・・・・・・っっ!!」

 ぶんっ!!





 片腕だけで振り上げたラビの槌が、レベル1一体にヒットした。

 廃墟の瓦礫に減り込んで、爆発。

 かと思ったら、背後からまた砲弾。

「ちぃっ!!次から次へと・・・・・・!!」

 ソイツをラビはギリギリ避けたけど。





「!!ラビ、後ろ!!」

「えっっ!?うわっっ!!」





 隙を突いて飛んで来た、鞭の様にしなるレベル2の脚。

 その瞬間、ぎゅ、と抱き締められる感覚と。

 モロにラビの背中に入った、蹴りの衝撃。

「ぐあっっ!!」

 耳元で、呻き声。

 重力を無視して飛ばされる、身体。

「っっ!!」

 思わず、目を閉じる。





 どかーん!!

 がらがら・・・・・・





 そんなあたし達は、辛うじて残っていた廃墟の壁をぶち破って、瓦礫に埋もれる事で漸く止まったみたいで。

 ・・・・・・って、あたし何処もあんまり痛くない・・・・・・?





「・・・・・・〜〜〜〜ぃっ、つ〜〜〜〜っっ・・・・・・」

「っ、ラビ!?」





 うっわあたしラビを下敷きにしてるし!!

 つか庇ったっしょ!?壁に叩き着けられる瞬間身体捻ったっしょ!?

 その所為でラビだけモロに背中からイッたっしょ!!





「生きてるか!?」

「・・・・・・ん〜、だいじょぶ・・・・・・」

 いや全然大丈夫そうに見えないって!!





 慌ててラビの上から降りて、床に膝を着いて彼の顔を覗き込む。

 満身創痍。傷だらけ。

 へらりと笑みを浮かべる表情はソレでも痛みを隠し切れなくて。





「――――――ラビ。俺の事には構うな」

「・・・・・・な、に言ってんさんなアブナイ・・・・・・」

「俺を庇いながら片手間で撃退出来る相手じゃないだろアイツ等!!」

「・・・・・・っ」

 怒鳴り付ければ、ぴくり、と揺れるラビの身体。





 がらり、と瓦礫が崩れる音がした。

 ゆっくりと振り返れば。

「そっちの美形の言う通りよ〜エクソシストの少年〜」

 笑っている、と形容出来るレベル2と、その後ろに控える2体のレベル1。

 ・・・・・・アクマに美形なんて言われたって嬉しくない。





 さっ、と周りに視線を流した。

 丁度手に届く範囲内に、何か鉄の棒みたいなのが二本転がってる。

 あたしは視線をアクマ達に戻して、じりじりと、その棒を引き寄せた。





 ・・・・・・ん?

 コレ、棒じゃない。

 棒っていうより・・・・・・





「・・・・・・扇・・・・・・?」





 赤黒く変色してて、手触りもザラザラだから鉄製で間違いないんだろうけど。

 1メーター近いでかさの扇なんて、何て規格外な。

 つか、どーして今はもう瓦礫の山となった廃墟の中から、こんなきっちり原型留めてる鉄扇が出てくるよ。





 思わず考え込んでしまったあたしの耳に、あのムカツク喋り方が入って来たのはこの時だ。

「あら〜貴方も戦る気満々って感じ〜?」

 嘲笑じみた声音がホンット、ムカツク。

「無理さっ、アイツ等イノセンスって特殊な武器でないと壊せないんさっ」

 慌てたラビが、腕を伸ばしてあたしを引き寄せようと肩を掴んで。

「うっさい。自分の身は自分で守る」

 あたしは身を捩ってラビの手を払い、ぎゅっ、と棒、じゃない、鉄扇を握り締めた。





 そうだ。自分の身は自分で守る。

 コレ以上ラビに庇われて怪我させるなんて冗談じゃない。

 その為の力が、あたしにはちゃんとある。





 ――――――あたしは、戦えるんだ。





 口の中で呟いた瞬間だった。

 ソレが、起こったのは。





 キィィィイイ――――――・・・・・・ン





 高く、透き通る様な振動音。

「え?ぇぇええっ!?」

 ラビが背後で息を呑む気配。

 睨み付けてたアクマ達も、驚きを身体全体で表している。

 そしてあたしはといえば。

 イキナリ光り出した手の中の鉄扇を、まさかと思いながら凝視していた。





 手にした部分から、粉を撒く様に錆が落ちていく。

 そしてその下から現れるのは、白銀の煌き。





 ・・・・・・をいをいをいをいちょっと待て!!

「な・・・・・・っ、んだコレ!?」

 あたしまだ発動してないぞ!?

 ってゆーか、もしかしてコレか!?コレが発動してんのか!?

 って事はイノセンス!?

 えっまぢ!?アレって1人につき一個じゃなかったの!?





「まさかソレッ、イノセンス〜!?」

っ、えっ、しかも適合者!?」

 慌てるレベル2に驚くラビ。

 あたし自身、イキナリの事についていけてない。





 訪れたパニック。

 その中で、一番最初に我に返ったのはアクマ達だった。

「はっ、発動したてのイノセンスなんて敵じゃないわ〜!!やっちゃいなさい〜!!」





 ――――――うわっ、来た!!





 あたしは咄嗟に身体の中のイノセンスを発動させる。

 そして両手に持つ鉄扇を、バッといっぱいいっぱいまで広げた。





 どがががっっ!!





 間一髪!!

 340度くらいの完全な円形に近い鉄扇が、砲弾の雨を遮るのに成功!!

「あら〜。そ〜ゆ〜使い方も出来るのね〜」

「・・・・・・お誉め頂き恐悦至極っ」

 テメェに誉められたって、全っっ然、嬉しくないけどな!!





「でも〜何時まで保つかしら〜?」

 どががががががっっ!!

 うわっ、弾増やしやがった!?





「く・・・・・・っっ!!」

!!」

 思わず零した声に、ラビが背中から全身使ってあたしを支える。

、大丈夫さっ?」

「・・・・・・ま、だっ、大丈夫!!」





 でもこの状態が続きっ放しになったらかなりヤバイ。

 今はまだ嬲り殺しを希望してるみたいだけど。

 それも諦めてレベル2のヤツが背後回ったりなんかしたらちょーヤバイ。





 だけどチャンスも今なんだ。





 ヤツ等は一箇所に固まって、一方向からのみの集中砲火。

 しかもアイツ等、適合したてのあたしにばっか目がいってる。

 そんなヤツの不安定なイノセンスだから、何時発動が止まっても可笑しくないと思ってる。

 だからそんなあたしから、ラビが離れられないのは当然だと考えてる。





 馬鹿だなアイツ等。

 あたしは、さっきもちゃんと言ったのに。





「――――――自分の身は自分で守る。守れるんだ」

・・・・・・?」

「だからラビは、俺を気にせず自分のやるべき事が出来る。そうだろう?」





 ちら、とラビを見た。

 かち合った隻眼の灰緑色は、一瞬大きく開かれて、だけど直ぐ様真剣な視線を返してくる。

「けど取り合えず先にあの丸いの何とかしてくれ」

 いい加減腕が痺れてきた。

 にっ、と口元だけで笑えば、同じ様にラビの口元に浮かぶ笑み。

「りょーかいさ」

 そして、あたしの身体から離れて槌を掴むラビの手。





「イノセンス、第2開放――――――」

 ひゅん、と槌が空を切る。

「判、マル火!!」

 すっ、とあたしから離れた身体が、たんっ、と地を蹴って。





「ぐぅ・・・・・・っっ!!」

 うわっ、肘がっ、肘が笑うっっ。

 踏ん張った膝が爪先がずりずりずりずり押されてるっっ。





「あら〜、折角見つけた仲間を見捨てちゃうのね〜?」

「見捨ててねぇ!!信じてるんさ!!」





 ぶんっっ!!と勢い良く振り上げられた槌。

 そしてソレは、そのまま丸い物体そのいちに向かって、盛大に振り下ろされる!!

「劫火灰燼っ、直火判!!」





 どっごぉん!!





 いやった砲弾の衝撃2分の1に低下!!

 さっすがラビ良くやった!!

「2体目!!」

 そうだそのまま間髪入れずにもう一匹!!

「させないわ〜!!」

 って、横槍入れんなレベル2!!





「あんたの相手は私がしてあげる〜!!」

 鞭の様に伸びる腕がラビに襲い掛かって、ラビはソイツを避けなきゃならなくなった。

 結果、丸い物体との距離を大きく開ける事になる。

「くっそ、邪魔すんな!!」

「イヤよ〜ソレじゃ面白くないじゃな〜い」 

 吠えるラビに、レベル2はせせら笑う。

「アンタは私の相手をしながら、あの半人前が潰れる様を見てれば良いのよ〜」





 ――――――はっ。

 随分と舐められたモンだねあたしも。

 幾ら元々適合者だって知らないにしたって。

「・・・・・・人間侮るとイタイ目見るぞ未確認生物めが」

 小さな呟きは誰の耳にも届かない。

 ソレで良い。





 ――――――反撃開始、だ。





 あたしはぐっと爪先に力を入れた。

 どかどか撃ってくる奴が一匹減っただけで、随分楽だ。

 うん。コレならいける。

 きっ、と睨み付けた鉄扇の向こう斜め上。

 未だにどかどかと馬鹿の1つ覚えみたいに勿体ないくらい砲弾を打ち出している丸い物体の元へ。





 ――――――行く!!





 だんっ、と地面を蹴って、あたしは駆け出した。

 硬質化した肉体は、今日も見事に脚力も瞬発力も超人レベルに上げてくれて。

!?無茶さっっ!!」

 途端、慌てるラビの声。

 だけどね。

「無茶か如何かはっっ!!」

 やってみなくちゃ判らないっしょっ。





 瞬き3つ程の時間で詰めた間合い。

 左手に掲げ持った鉄扇は、そのまま盾代わりに。

 右腕を引き、広げていた扇面ぱちんと閉じて。





「――――――はっっ!!」

 どすっっ!!





 気合と共に繰り出した鉄扇の先端が、見事に丸い物体の顔の真下を直撃した。

 つか、刺した。手に伝わったのがモロに刺した感触だ。

 見ればホントに、鉄扇の半分以上がぐっさり深々と刺さってる。





 丸い物体が停止する。一瞬辺りが静かになる。

 だけどまだ、完全破壊までには至ってない。

 だったら、あたしがこのまま気を抜く筈ないだろう!!





 空かさず盾として眼前に立てていた鉄扇を横に倒す。

 幾つも連なる薄い骨。こんな薄さで今までどーしてあの砲弾の嵐に耐えられたのか頗る謎だが。

 開けば扇面となる部分は、良く見れば一枚一枚が刃になってる。

 ――――――切れ味は一体如何程のモンかモノは試しだやってやれっ。





 ぶんっっ!!





 思いっ切り。気前良く。

 叩き付ける様に右下から左上へと振り切った!!





「・・・・・・あ、あれ?」

 変化ナシ?ナシですか?

 何故ナニどーして確かに手応えあったのに!?





 あたしは慌てて丸い物体のボディをがつんっと蹴り倒した。

 その反動で突き刺さってた鉄扇を抜き、一気にソイツから距離を取る。

 くるりと宙で1回転してから着地。

 中国雑技団も真っ青な身のこなし。

 運動不足の上、煙草がぱがぱ吸ってたあたしなのに。

 さすが、イノセンスの力は偉大だね。





 ・・・・・・って、今はんな事に関心してる場合じゃないでしょーよっ。





 ぎょろん、と丸い物体の目があたしに向いた。

 ガコガコと、幾つもの砲身があたしに標準を合わせ出す。

 あたしは、ざっっ、体勢を立て直し、キッと相手を睨み据え・・・・・・





 ――――――ず。





「え?」

 思わず、目を点にした。





 ――――――ずる。





 ・・・・・・えっとーお。どうやらこの鉄扇、切れ味はかなりイイらしい。

 あの丸い物体も、動かなければ、気付かなかっただろう。

 自分が真っ二つに切り裂かれていた事を。





 キレーイに入った斜め線。右上半分が、滑る様に左下半分から。

 ずるずる・・・・・・あ。落ちる。





 どかぁん!!





「くっ」

 咄嗟に鉄扇全開にして、爆風を遣り過す。

 そんなあたしの横に、たんっ、とラビが着地した。

「すっげーさ。初めてなのに、マジに一体壊っちまうなんて」

 ソレは感心かはたまた驚愕か。言いながら、ひゅん、と槌を1回転。





 ――――――ん?

「・・・・・・もう一匹は?」

「ん?アソコ」

 聞いたあたしに、ラビはくい、と親指を向ける。





 ソコには、火の龍にばくりと呑み込まれ、丸焼にされるレベル2。

「ま、ん事気になってしょーがないってのは判んだけどさ」

 ラビはソレをちろん、と一瞥した後、にかっと笑って。





「戦闘中に余所見すんのが悪いんさ♪」





 楽しそうに面白そうに言った後、どかんとレベル2は盛大に爆発した。

 ・・・・・・ご愁傷様。




 




 




 




 






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