衝撃の始まりから、もうすぐ3ヶ月。
たまーに遭遇するアクマを問答無用で闇打ち紛いにぶち壊しつつ。
街から街へと流れては、短期の仕事を探して路銀を稼ぎ。
宿屋の主人に可愛がられ男に口説かれ女に迫られ。
そんな生活にも慣れてきた今日この頃。
4つ目に辿り着いた、なんとか(だって覚えにくいんだもん)という街で。
あたしは今、人生初の不法侵入を決行しようとしています。
・・・・・・だって今日の寝床が確保出来てねーんだもんよ。
まさか行く宿行く宿で、「満室です」なんて門前払いされる事になるとは思ってもみんかった。
空いてる処もあるにはあったけど、んなトコ泊まったら路銀がなくなる、ってな値段でさ。
何でどんだけ金が掛かるか判らん今現在。
節約出来るトコで節約しないとね。
だったら野宿でも・・・・・・という考えもあるにはあったが。
やっぱね。見た目は男でも中身は立派な(腐れ)ヲトメだしね。
繊細なんですよ、コレでも。
幾ら何でも出来ないっしょ野宿なんて。
今にも雨が降り出しそうなどんより重い灰色の空してたら余計にね(コッチが本音)。
てなワケで、あたしは今目標物件の前にいます。
廃墟という文字が正しく似合う、でっかい建物の前に。
街からちょっと離れたトコにあるこの建物は、昔は立派な美術館だったらしい。
けど、見込みに反して集客が思う様に伸びなかったそうな。
しかも、ソコへ追い打ちを掛ける様に、だ。
精神イカれてしまった男がナイフ1本で、この中で大量虐殺の上に自殺、なるものをやらかした。
当然、館は閉鎖。
そして何故か、持ち主だった人は謎の変死。
それ以来怪奇現象が起こる様になり、取り壊しの目途は立たずに今日まであるという。
またそんな夏の定番怪談番組のやらせみたいな、なんて能天気にやって来たのだが。
・・・・・・・・・・・・はっきり言いましょう。
野宿の方がマシです。
アクマの魂見えた時、あたしってアレンみたく呪い受けてんのか?なんて思ってたけど。
イヤイヤどっこい、そうじゃなかった。
単に、霊能力、なるものに開花しただけだったんだよ。
・・・・・・そうとでも思わなきゃ、なんであんなんまで視えるんだ。
なんか色々ふよふよ漂ってるモノが。
目の前に建つ建物を見上げる。
究極の選択かもしれない。
ひとつ、路銀の全部をはたいて高級ホテルに泊まる。無一文になってお先まっくら。
ふたつ、幽霊と一緒に廃墟で一晩らんでぶー。精神的に耐えられん。
みっつ、売春宿にでも転がり込む。この場合貞操が危機に晒される。
よっつ、諦めて野宿。この後雨に降られて風邪をひく事が予想される。
さあ、ドレにする?
「・・・・・・・・・・・・4番、かね。」
「何が4番なんさ?」
「ん?んー高級ホテルと廃墟と売春宿と野宿だとドレが一番イイかなーと」
「で、4番さ?」
「うん4番の野宿・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・あれ?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なにゆえ独り言に言葉が返る?
一瞬、硬直。
慌ててパッと振り返ると、ソコには。
「この間はどーもvv」
「・・・・・・ど、どうも?」
眩しいくらいに満面の笑みですな。
思わず返事をしちゃったじゃないか。
・・・・・・じゃなくて!!
どーしてラビがココにいる!?
思わぬ事態に、思考回路が一瞬でショート寸前。
もしかして任務か何かかイヤでもそんな感じには見えないし。
ざっと見た街中にアクマは見当たらなかったけどもしかして見てない処でいっぱい潜んでるとか。
・・・・・・はっ、もしかしてバレたのか?あたしがイノセンス飲み込んだ事バレたのか!?
ドコで足が出たんだアクマ壊す時でも周りの目気にしてたのに!!
ぐるぐる考えてると、ラビもあたしの微妙な態度に気付いたみたいだ。
「あれ、もしかして覚えてないさ?」
ちょっと首を傾げて心持ち上目遣いで見上げてくる姿が超絶らぶりー。
くぅっっ、かいぐりしたいなぁ・・・・・・って違うって。
「・・・・・・や、覚えてるよ。前に宿で会った」
そう言った時の、ラビのホッとした様な笑顔といったら。
・・・・・・・・・・・・本格的に、アブノーマルの道を歩みそうです。
腐れ乙女を豪語してる時点で、既にアブノーマルなんだけどな。
「おにーさんもこの街にいるなんてすっげぇ奇遇さ〜」
「えっ、あ、うん。ホントにね」
・・・・・・やばいやばい。
もう少しでめくるめく妄想の世界に意識が飛び立つトコだったよ。
切り替え、切り替え。
「君も旅をしてるの?」
「う〜ん。ちょっと違う。ココには仕事で来たんさ」
「へえ、若いのに偉いね」
・・・・・・お仕事デスカ。
ソレは探索と破壊と、一体どっちなんでしょーね。
「おにーさんは?君も≠チて事は旅人さん?」
「うん、旅人さん」
「何で旅してるんさ?」
「ん?んー・・・・・・見聞を、広めたかったから、かな」
いや、実際はイキナリ異世界放り出されて仕方なく、だけど。
ふうん、と納得するラビが、あ、と思い出した様に顔を上げる。
ナニ?何かボロを出しましたかあたくし?
「さっきの野宿、って何さ?」
・・・・・・ああ、そっちね。
「や。宿が取れなかったから。今日はあそこで雨風凌ごうかと思ったんだけど」
「・・・・・・アソコで?」
言った途端ひくりと顔を引き攣らせる。
だよな。視えない人でも引くよな。
「入りたくないからやっぱり野宿かな、と」
「いやいやいやいやソレはダメさ」
って。力いっぱい否定されてもね。
「おにーさん美人だから野宿なんかしたら絶対悪いヤツ等に襲われるさ」
「・・・・・・び、美人、って・・・・・・」
嬉しいんだけどね。うん。
嬉しいんだけど・・・・・・男のナリで言われるのはやっぱ何か、フクザツ。
「・・・・・・けど、他にないから仕方ない」
ソレに、いざとなったらイノセンス発動して逃げるし。
肉体の硬質化だけじゃなく、運動神経腕力その他モロモロ大幅アップするからな。
「こう見えて俺、結構強いから」
だから大丈夫、って笑っても、ラビは良い顔をしない。
と、思った一拍後には。
何かイイ事思い付いた様なかわゆらしい笑顔であたしに向き直って下さった。
「選択肢の5番目に付け加えて欲しいのあんだけどさ」
「何を?」
「俺と一緒に宿屋に泊まる〜、っての」
「・・・・・・はい?」
いやいやいやいやちょっと待てちょっと待て。
どーしてそんなオイシ・・・・・・イヤ違うっ、おかしな方向に話が行くっ?
「俺今2人部屋取ってんだけどさ。じじい・・・じゃない一緒に泊まるハズだったヤツに予定入っちまって」
「う、うん?」
「ベッドいっこ空いてんだよね」
「は、はあ」
「一緒に泊まる?」
・・・・・・うをう眩暈が。
そんなオイシイ話・・・・・・げふごふんっっ。
ラビあんた原作内のあの警戒心はドコ置いて来たのさ!?
「いやでもそんな見ず知らずの少年にソコまでしてもらう様な・・・・・・」
「見ず知らずじゃないさ。ヴィスタん時は俺が世話んなったし」
いやいや世話なんてそんな大袈裟なモンでもないし。
「それに・・・・・・おにーさん名前は?」
「え、ってんだけど」
本名じゃないけどね。
じゃあ誰の名前だって言ったら、あたしがいつも妄想構築してる自作ドリーム駄文の主人公の名前さ。
「うん俺ラビっての。コレでもー見ず知らずじゃねぇさ?」
や。ソコでにっこりと笑い掛けられてもね。
幾ら困ってるからって、ウラ若きヲトメが、男と一緒に一晩同じ部屋。
・・・・・・この場合のヲトメはどっちかっつーとあたしよりラビの方だ。
ココで肯定して部屋の中で彼を襲わない自信なんてあたしにはないよ。
それに。
「・・・・・・ウマイ話には裏があるっていうよね」
今の今まで、とんとん拍子にウマイ事だらけだったけど。
今回のコレはウマ過ぎるんだよ。
頭の中でぼやいた言葉だけど、一部声に出てたんだろう。
ラビが苦笑しながら自分の頭を掻く。
「あ。やっぱ判っちまう?」
・・・・・・やっぱりって、あったのかやっぱり裏が。
さっき聞かれた様にあたしは旅人さんだから、身包み全部剥がれてもロクなお金にならんぞ。
それとも、ホントにあたしが適合者だって事バレてる?
――――――なんて考えてたあたしの思考は、次のラビのとんでもない科白に、ぶった切られた。
「俺、ぢつはおにーさんに一目惚れしたんさ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?
「更に暴露すっと、仕事の合間におにーさんの事聞き込みして足取り追っ掛けて先周りでこの街来たんさ」
「・・・・・・・・・・・・やー何か最近良く幻聴が聞こえんだよねー」
「うっわヒデェ俺すっげー勇気振り絞って言ったのに」
いやソコでショック!!てな顔して言われてもね?
「信じられるワケないさ1回擦れ違っただけの男に男が一目惚れなんて!!」
「信じられんくてもホントなんだから仕方ないさ!!」
・・・・・・はっ。いかんいかん。
余りにも自分の都合の良い様に進んで行くから思わず叫んでしまった。
あっしかもラビ半泣き?
うわもうコレってホント。
「――――――本気と書いてまぢと読む?」
「・・・・・・おう。ストライクゾーンの中の針の穴程度しかねぇど真ん中にクリティカルヒットさ」
ぐし、と服の袖で目を擦りながらラビが応える。
ああ、そんな擦ったらダメだって。
ごそごそポケットから取り出したハンカチ。
「ほら、使いなよ」
そいつをぺたりと頬に押し付けてやると、ラビの身体がぴくりと震えた。
だけど受け取ろうとしないから、あたしはもう片方の手でラビの顎を掬い上げて、潤む目元を拭いてやる。
「・・・・・・俺だって、最初は嘘だと思ったさ」
「・・・・・・う、うん?」
「けど仕方ねーじゃん。寝ても覚めても暇があったらアンタん事思い出して」
「・・・・・・うん」
「会いたいって思って。傍にいたいって思って・・・・・・したら、自覚、するしかねーじゃんさ」
「・・・・・・ん、そっか」
ぼそぼそ、と告白してくるラビの目は真剣で。
あたしは片手でぐいとオレンジ頭を引き寄せ、自分の肩口に押し付けた。
くつり、と。ラビが小さく笑う気配。
なんか、自嘲、みたいな感じだ。
「・・・・・・同情?」
「いんや。小動物と美人と可愛い子ちゃんと泣く子に弱いだけ」
因みに、今のラビは可愛い子ちゃんと泣く子の2項目に該当します。
「何さ、ソレ・・・・・・」
あ。今度は可笑しそうにクスクスと。
だからあたしも、小さく笑いながらオレンジの髪をくしゃりと撫でた。
「ま。好きになってしまったモンはしゃーない」
自分でも、どーにもならないのが恋心なんだから。
あたし的妄想では、神田かアレンか、大穴でティキ・ミック卿がラビの相手だったんだけどね。
「精々頑張って俺を口説き落とせ?」
元々この世界の住人じゃないあたしだから、何時何があっても良い様に、簡単に靡くつもりはないけどな。
ぽんぽん、と宥める様に言った途端、ラビがパッと身体を離した。
その隻眼が、驚いた様にあたしを見上げてくる。
「・・・・・・い、良いんさ?」
「何が?」
「口説いてもイイ、って・・・・・・」
「ああ、うん別に」
「・・・・・・けどヴィスタん時、口説いてた男アンタ殴り飛ばしたさ?」
「あのバカはコッチの迷惑省みなかった挙句、度を越したんだ」
思い出しただけで虫唾が走る。
しかめっ面になったあたしを見てどう思ったのか。
ヤな事思い出させてごめんなさい、とでも言う様に、あたしの髪に手を伸ばして――――――
その、目が。
一瞬大きく瞠目した。
「っっ!!」
叫ばれたと同時に、腕を引っ張られ。
――――――気付いた時には、庇われる様に地に倒れ伏していた。
そして同時に、あたし達がさっきまで立っていた場所に、注ぐ様な砲弾の雨。
・・・・・・まさか。
ラビの視線の先を追って、顔を上げる。
果たして、ソコには予想通りと言うか何と言うか。
「・・・・・・未確認飛行ボール型物体ぷらす未確認生物・・・・・・」
レベル1が3体に、1体がレベル2。
「AKUMAってゆーんさ、アレ」
直ぐ様戦闘態勢に入ったラビの手には、何時の間にか、槌。
低い声は、さっきと打って変わって、硬い。
「あらら〜避けられちゃった〜vv」
そして飛んで来たレベル2の声は。
とっても楽しそうな女の声だった。
<<バック トゥ トップ ネクスト>>