[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
Ver.Hero
「で、どーよにーさん乗り心地は?」
『・・・・・・・・・・・・悪くは無いな』
ザックスが発したマイクの音声に。
スピーカーから返ってきたのはまんざらでもないセフィの声。
でもその微妙なニュアンスが判んなくて周りのスタッフさん達が不安そうな顔をしてるもんだから。
俺ってばにっこり笑ってフォローに回るのさ。
「サーの『悪くはない』は、『かなり良い』と同意語なんです」
ついでに、素直な方ではありませんから、なーんて付け加えたら、安堵の吐息と共に漏れる小さな笑い。
・・・・・・あ。ザックスとサー・ガイルが隣でウケてバカ笑いしてる。
そのバカ笑いをマイクが拾ってしまって、スピーカーからちょっと不機嫌になった声が響いてきた。
『・・・・・・ザックス、ガイル』
「いーっ、ひっひっ、だ、だってっ、だって・・・・・・っ!!」
「素直じゃな、素直じゃない、って・・・・・・っ!!」
『・・・・・・・・・・・・そうか。そんなに遠征を増やして欲しいのか2人共』
「えっっ、イヤイヤイヤイヤそんな事ナイですハイ!!」
「そそそそれよりもさっ、クラウドはどーよ、乗り心地は!?」
『・・・・・・・・・・・・最っっ高です!!』
・・・・・・ムリヤリ話ひん曲げたね、ザックス。
しかも話聞いてなかったっしょクラ。もー声が興奮度マックスいってますよ。
つか、今思い出したんだけども。車酔いはどーした車酔いは。
「よー、たのしそーじゃーん」
はて、と首を傾げたら、後ろからかっる~い声が掛かった。
うん。なんかホント語尾にカ~ノジョ~、なんて付きそうなくらい軽い声。
振り返ってみたら、ソコにはさっきまでメタリックブルーの車走らせてたサー・サリカの姿が。
「おーサリカ。どだったよ?」
「イヤもーすっげイイ。このまま普通にハイウェイ走りてぇ」
「まあなんてなっまいきー。隣に乗せる女もいねークセにー」
「ソレ以前に乗り回す時間があんのかよ」
あ。沈黙した。
サー・サリカに向けた科白なのに、ザックスも言った本人のサー・ガイルも沈んでるよ。
「・・・・・・・・・・・・止めようぜ・・・・・・・・・・・・こんな話・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・そだな・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・右に同じく・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・あんまりにも沈みすぎてて、慰めの言葉も掛けられませーん・・・・・・
「あっ、そーだヤトちゃん!」
うをっ!?ザックス復活はやっ!!
「ヤトちゃんも乗ろーよvv俺っ、俺運転してやっからさvv」
・・・・・・目ぇキラキラさせもって、一体何を言うかと思いきや。
「遠慮します」
途端、擬音が聞こえるくらい見事にズルッ!!とザックスがコケた。
「なんで!?」
って、そりゃあーた。
「未だ死にたくありませんから」
あ。コレまたサー・サリカとサー・ガイルにウケた。
その2人を拳骨で黙らせて、ザックスは尚も言い募る。
「俺運転上手いから死なないし!!だから乗ろうよっ、ね?ね?」
・・・・・・いやーもー構ってくれオーラすっごいね。まさしく犬ですよコイツは。
「訂正します。上手すぎて変に技術を会得している人が運転する絶叫マシンと化した車に乗る気はありません」
「うぐっっ!!」
「ソレに私、2輪も4輪も特殊も大型も、一通りの免許は取ってますし」
「ぅえ!?まじっっ!?」
「はい、まじです。」
・・・・・・つっても、偽造ですが。
某世直し団体にお世話になってる時に、一通りのおべんきょはさせてもらったもんねー。
がくー、って項垂れるザックスは、最早ハタで爆笑してるソルジャー2人を止める気力もないみたいだ。
・・・・・・・・・・・・・だけどこの子の打たれ強さって、ハンパじゃなかったのよね。
「じゃ、じゃあっ!!ヤトちゃん運転してくれよ!!俺横乗るからさ!!」
再び、がば!!って顔上げたザックスに、俺は小さな溜息を噛み殺した。
「・・・・・・ソレも遠慮します」
「なんでなんで!?」
「乗るのは好きですが運転するのは嫌いなので」
やっぱ乗り物ってのはね。誰かに安全運転させて自分はのほほんと気楽にしてるのがイチバンだよ。
で。俺の科白を聞いて、ザックスは今度こそ、本当にコレ以上ないってくらいヘコんだ。
どうやら心にクリーンヒットだったらしい。膝を抱えてのの字地面に書きだしてる。
サスガに可哀想に思ったのか、ソルジャー方もよしよしとザックスを宥め始める始末。
・・・・・・ちょっと言い過ぎた?
・・・・・・・・・・・・周りのスタッフさん達の興味深深な視線がイタイ。
「・・・・・・うえぇえ~、ヤトちゃん俺とドライブしたくないんだ~・・・・・・」
「まーまーザックス。そー落ち込むな。何なら今晩女紹介してやろうか?」
「そーだぞザックス。探せばお前の隣に座りたいって言う女の1人や2人」
「・・・・・・俺ヤトちゃんとドライブしたかったのに~・・・・・・」
「滑走路でドライブってどーなんですか」
あう。思わず突っ込んでしまったよ。
更にめそめそと泣き出すザックスに、サー方はじと~っとコッチを見て。
俺等を伺ってるスタッフさん達の視線も、多くなって。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はう。
「サー・ザックス」
「・・・・・・・・・・・・」
呼んだら、ちろん、と俺を見上げて再び膝の上に顔を埋める。
でも、意識はしっかりバッチリこっちに向いてる。犬耳があったら絶対、ぴんっと俺に向かって立ってるハズだ。
「・・・・・・ザックス、おいで」
マイクをぐりんと明後日の方向に向けて。
中腰になって、ぽんぽん、と自分の太股を叩きながら言ったら、もっかいちろん、と見上げられた。
よし。もう一押し。
「甘えさせてあげるから、一緒に車に乗るのは諦めなさい」
「・・・・・・・・・・・・らじゃっvv」
途端、元気良く俺に抱き付いてきたザックスに、後ろのサー方は、もー呆れ顔もイイとこだ。
「・・・・・・・・・・・・餌付けされてるぜ・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・そだな、餌付けだな・・・・・・・・・・・・」
しかもビミョ~に、俺を見る顔が引き攣ってます。
・・・・・・なんか明日には、新しく猛獣使いとかってあだ名が付いてそう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ま。いっか。
「ん~~~~vvヤトちゃんイイ匂~~~~いvv」
「そ?・・・・・・ザックスちょっと髪の毛傷んでるね。今度一緒に買い物行こうか」
「おうっ、行く行くっっvv」
スリスリ、ってゆーより、ぐりぐり、と。
懐くザックスの頭を撫でてやりながら、咲くのは他愛もない日常会話。
と、ソコへ。
『・・・・・・・・・・・・おい、ザックス』
スピーカーから飛んできた、狙いすましたかの様なひっくいセフィの声に、ザックスは見事にびくぅ!!と飛び上がる。
「ななななななななになになに!?!?」
『――――――何慌ててるんですか、ソルジャー・ザックス』
「いやいやいやいや何でもないっ!!何でもないからっっ!!」
続いて飛んで来たクラの声に、ザックスは抱き付いてきた時とおんなじイキオイで俺から剥れ。
なんつー条件反射だよ・・・・・・なんてボソリとサー・ガイルが呟いて。
サー・サリカはその横で溜息なんぞ吐いてる。
『そろそろ止めたいんだが』
そんな俺等の現状など知る由も無く、スピーカーから聞こえるセフィの言葉はとことんマイペースだ。
「・・・・・・・・・・・・だったらさっさと止めりゃいーじゃん!!なにゆえ俺に許可を求める!?」
あ。ザックス逆ギレ。しかも涙混じり。
『俺もそう思う――――――だが』
「だが何よ!?」
『ブレーキが利かん』
「「「「・・・・・・・・・・・・何ィ!?!?」」」」
ホントに、とことん、どこまでもマイペースにあっさりと。
途轍もない台詞を吐き出して下さったスピーカーに、その音を聞いていた俺を含めた人間全てが声をハモらせたのは。
たっっっぷり数十秒経ってからだった。