Ver.Hero





 いや、アレだね。

 意識が覚醒する瞬間、ってのは、ホンット唐突だよね。





 ぱか、って音が鳴るくらいぱっちり目を開けたら、まず最初に白い天井が視界に入った。

 ・・・・・・んー。病院?

 って、トーゼン病院なんだろーなぁ。

 壁もシーツもカーテンも白いし。お見舞いの定番の果物籠あるし。腕に刺さってるコレって点滴だし。

 しかも胸にコードついてるし。端の機械に繋がってるし。アレって心電図?え、違う?

 ・・・・・・・・・・・・ってゆーか、なにゆえ病院???





「・・・・・・あ、そっか。」

 思い出した思い出した。

 某オカマ野郎が大好きだった巨大ニシキヘ・・・・・・いやいや。違う。ミドガルズオルムの亜種だ。しかも2匹。

 アレ倒すタメに、魔術使ったはイイけどその後昏倒しちゃったんだっけ。





「・・・・・・ま。仕方ない、っちゃー仕方ないか、な」

 ――――――うーわーすっげぇ声。がらがら〜ですれすれ〜だよ。風邪で喉ツブれた時よりもすごい。

 まー例の如く、召喚魔術で必要な杖も陣もナシに、血と呪文だけで朱衣ちゃん喚び出しちゃったもんなー。

 下手に戒枷鎖を外せないから、人間レヴェルで最大限、の力しか使えんし。

 しかも朱衣ちゃんこの世界のエレメンタル違うし。

 ・・・・・・・・・・・・結果オーバーヒートでばたんきう、はアタリマエ?





 あ。ちなみに朱衣ちゃんって、俺と契約交わしてる上位の火の精霊ね。

 俺があの時喚んだ火の鳥がそーなのさ。

 すっごい美人さんなんだぞぅ?・・・・・・怒るとコワイけど。

「・・・・・・うおう・・・・・・思い出しちゃった怒ったトコ・・・・・・」

 とーぶん喚び出せないなぁ。また貴方は無茶をしてっっ!!とかって火ぃ吹かれ・・・・・・イヤイヤ怒られそーだもんなー。





 ややげっそり、って感じで溜息ひとつ吐いて、よっと上体を起こしてみる。

 でも反動に頭くらっとして、再びベッドとオトモダチ。

 ・・・・・・あー。思ったより疲労が溜まったまんま、かなー?





 ――――――仕方ない。もーちょっと寝るか。

 ・・・・・・・・・・・・いやいやその前に。クラの安否だけでも確認しとかないと。

 クラもけっこー無理したからなぁ。もートコトン使い倒してたよね、俺があげた指輪。

 出来れば、あんまり使って欲しく無かったんだけど。





 だってアレってさ、俺のアーグと、ガイアのエーテリックとで出来てんのは間違いないし。

 クラの身体から抜き取ってぶち込んだ、災厄の女王サマの欠片も、破邪へと転位してるけどさ。





 星の命の一欠けも、全を内包する一の一部分も、今は破邪となった厄災の欠片も。

 いくら欠片とはいえ、元がとんでもなくデカイから。

 ・・・・・・ぶっちゃけ、あの指輪に収められたのは、常人が扱うには、大き過ぎるでっかい力の塊、だ。





 だから。精神はともかく肉体的にまだ子供な『今』のクラには、あんまり使って欲しく無かったんだよ。

 ・・・・・・ま、見た限りは大丈夫そうだったんだけど・・・・・・





 もーいっかい小さく息を吐いて、クラの気配を探るために、集中しようと目を伏せる。

 そしたら、途端に睡魔が襲ってきた・・・・・・ううむ、身体は正直だホント。

 それでもガンバって意識集中しよーとしたんだけど。なんかもー、ダルイししんどいし眠いし。





「・・・・・・あーもー、やめやめ。」

 こんなんじゃ、マトモなクラの気配なんて判んないって。

 もーちょっと寝て、起きても眩暈起こらない程度まで回復してから、もっかいチャレンジしよっと。

 またまた小さく息を吐いて、今度は寝る気まんまんで、瞼を下ろした・・・・・・時だった。





 かちゃ、と微かに鳴った、金属音。

 次いで、きぃ、と静かに扉が開かれる、音。

 それから、誰かが部屋の中に入ってきて・・・・・・あ、なんか、久しぶりだこの、気配。

 ・・・・・・・・・・・・ってゆーか、久しぶりだ、って思うくらい俺ってずーっと寝てたってコト?





 ずるずると眠りの淵に堕ちて生きそうになる意識を踏ん張って留めて、うっすぅく目を開ける。

 んで、のろのろと首を動かして、気配の方に顔を向けたら。





 ボロッと落ちそうなくらい目を見開いた、ザックスの顔。





 ・・・・・・なんでそんな、驚いてんだろーね。

 しかも、目と一緒に口まで大きく開いちゃってるよ。

 ダメだよザックス。せっかく元はイイのに。そんなんじゃおバカ丸出しだって。

 可愛いっちゃー、可愛いんだけどね。





 思わず、くすって笑ったら。

 硬直状態から抜け出せたみたいのザックスが慌ててベッドの端まで走り寄ってくる。

 イヤもーホント、猪突猛進?

 こんなトコでまで突っ込まなくてもイイんだけどね。





 ってゆーか。

「・・・・・・病院ではお静かに、って言われた事ありません?」

 まあ静かなザックス、なんてあんま想像出来ないんだけど。





 小さく小さく苦笑いしながら言ったら、ごくん、てザックスの喉が鳴るのが判った。

 それから数秒。何か言いたそうに口を戦慄かせて。





「・・・・・・、ちゃ・・・・・・?」





 ――――――やっと出てきた声は、とても、とっても、震えてた。

 そりゃもう、いつものザックスとは思えないくらい。

 ・・・・・・ちょっと反省。

 そんだけ、俺ってばザックスに心配かけさせちゃってたんだ。





 小刻みに震える手が、躊躇いがちに、伸ばされて。俺の頬に触れようとして、でも、引っ込んで。

 俺は点滴の刺さってない方の腕を動かして、その手を取った。

 そのまま、ぺた、と俺の頬にザックスの手の平をくっつける。

 うあー。ごつごつ、は当り前として。けっこーザラザラだね。よし。今度ハンドクリーム進呈してあげちゃおう。





「・・・・・・っ、ちゃん・・・・・・っ」

「・・・・・・おはようございます、サー・ザックス」

「おはよーって時間じゃねぇよ!つかソレ以前の問題だっ!」





 する、と頬に押し付けた手が離れてった。

 その手が、今度は動かした俺の手を取る。

 祈る様に両手で包み込んで。固く強く、俺の手と繋がって。ザックスの額に、押し付けられて。

 ――――――痛い、くらいだ。

 この痛みはきっと、多分、イヤ絶対、ザックスの、心の痛みだ。





「・・・・・・ずっと、ずっと寝っ放しで・・・・・・っ、ドコも悪くないのにっ、全然、目ぇ覚まさなくて・・・・・・っっ」

「・・・・・・はい」

「ずっと、このまんまなんじゃねぇかって・・・・・・っ、俺やにーさんがっ・・・・・・どんだけ心配したと・・・・・・っ」

「・・・・・・はい、すみません」





 ホント、ごめんなさい。

 こんなに心配、かけちゃって。

 ソレから、ありがとう。

 俺の心配、してくれて。





「だから、泣かないで下さい?」

「なっっ!?泣いてなんかっっ・・・・・・!!」

「いえ誤魔化しききませんから」

 そーんな、震えた声で潤んだ目で濡れた頬で言われても説得力ありませんからー。





 のほほーん、とした俺の声に、泣いてる事に気が付いたザックスはイキナリ大慌て。

 ババッと俺の手放り投げてズザザッと俺から離れて、ぐいぐい零れた涙、拳で拭う。

 ああああ。そんな事しちゃ。

「ダメですよサー。腫れますからソレ」

 こいこい、って手招きしたら、案外素直に寄ってきた。





 ・・・・・・なんてゆーんだろね。俺より図体デカイくせに、こーゆートコ、ホント年相応で可愛いよね。

 ってゆーか年相応ってどんなんだ。俺が16の時ってったら・・・・・・やめとこ。比べる方が間違ってる。





 寄ってきたザックスの手を下に降ろさせて、頬に伝う涙をそっと親指で拭ってやって。

 そのまま、するりと頭の後ろに手を回して、くいと顔を引き寄せた。

 ――――――それから、ぺろり、と。





「うわっっ!?ああああ、あのそのっっ、ちゃんっっ!?」

 あっはっはっはー予想はしてたけどー。イヤもーすっごい驚きっぷりだねー。

 逃げようとしたザックスだけど、俺は頭を離してやるどころかガシィッ!と固定して、流れた涙を舐め取る。

 驚いたお陰で涙も止まったしー。

 えーい。もっと驚かしちゃえ。





「〜〜〜〜〜〜っっっ!!??」

「・・・・・・くっくっく。顔、赤いですよ」





 眦から頬。涙を全部舐め取った後、最後にうちゅ、と音を立ててやったキスに。

 ボボンッと発熱したザックスの顔がもー面白くて面白くて。





 何か言いたげにぱくぱくと動く口に、にぃんまり、と笑い掛ける。

「何です?物欲しそうに口動かして。もっとべろんべろんなのが良かったですか?」

「いいいい、いいっっ!!いらねぇっっ!!」

 うわー。全否定だよ。

 しかもビタァッッ!!てな感じで俺から離れて壁に張り付くもんだから、余計楽しくて面白くて。





 ・・・・・・なんか俺、疲れがピーク通り越してハイになっちゃってんねコレ。





「面白いですねぇサー・ザックスってvv」

「なっ!!ちゃん俺んコトからかって・・・・・・っっ!!」

「やーすみませんついつい。悪気はないんですよー?」

「ぜっっってぇ嘘だーっっ!!」

「はいはいそーゆーことにしときましょー。」

 認めてあげますから病院では静かにしましょーねー。





 笑って宥めたら、グッと唇を噛んでザックスが次の言葉を押し殺す気配。

 うんうん。素直に言う事聞く子は俺ダイスキだよー。





「サー・ザックス」

「・・・・・・なにちゃん。」

 もしかしてまた近寄ってハズカシイ目にあえと?

 イヤイヤ違いますって。





「すみませんついでにひとつおねがいあるんです。もうすこしだけねかせてくださー・・・・・・」

 言いながら、既に俺の思考は半分以上夢の世界にぶっ飛んじゃってる。

「・・・・・・へ?え、ちょ、ちゃんっ?」

 だからおやすみーなんて言いながら目を閉じた後の、ザックスの狼狽ぶりはお目に掛かれなかった。

 うーん。ちょっと勿体無いコトしたかな?

 絶対、面白いハズだったのに。

























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