「・・・・・・いい加減、仕事に戻りませんか」
「嫌だ」
「・・・・・・・・・・・・また書類が溜まりますよ」
「気にするな、お前達が復帰すれば直ぐに無くなる」
にべも無く言い返されて、俺は思わず吐きそうになった溜息を噛み殺した。
昨日から、ずっとこんな調子だ。
・・・・・・まあ、嬉しい、といえば、嬉しい、んだけどな・・・・・・
其れだけ、心配してくれてた、って事が良く判るから。
だがしかし。
「身体の具合はどうだ。手足の感覚は、戻ってきてるのか?」
・・・・・・其の質問、今で何回目なんだろうな・・・・・・?
「・・・・・・はい、もう大丈夫です」
「そうか」
そりゃ、俺だって目が覚めた時、身体を起こす事も出来なかった事に半分パニックになったけどな。
1日経った今ではもう本当に普通だ。
さっき聞いた検査の結果だって。
健康優良児そのものです明日にでも退院出来ますよ、とドクターに首を傾げられながら太鼓判を押されたばかりだ。
・・・・・・そういえばアンタ俺の端で一緒に其れ聞いてたんじゃなかったのか。
「何か欲しいものは」
「・・・・・・特には」
・・・・・・いや、というかもうコレ以上見舞いの品を増やさないでくれ・・・・・・
あの、部屋の端に山積みになってるのを見るだけでも頭痛くなりそうなのに。
というかアレは見舞い品か。見舞い品なのか?
果物や切り花はまだ良い。本も、まだ許せる。
・・・・・・なのに何故、俺よりもでかいぬいぐるみとか女性が喜びそうなアクセサリーとか子供向けのオモチャとか。
挙句の果てには衣装ケース(中身は恐ろしくて見られなかった)とか。
剣やバンクル(しかも一目見てウン千万もする高価な魔法剣だと判る)がナチュラルにあるんだ。
「そうか。・・・・・・林檎でも食うか?」
「ええそうですね・・・・・・いや、良いですやっぱりだからナイフ置いて下さい」
「む。そうか?」
「はい、今はあんまり・・・・・・腹減ってませんし」
というか・・・・・・も、持ち方が。持ち方が怖い。
何故皮を剥くのにナイフをリンゴに突き立てようとしてるんだ。
正宗振るうのとは違うんだぞ。
・・・・・・・・・・・・ああ、そういえばこの人は、戦闘に関しては神掛り的ではあっても。
日常的な事に関しては、頗る不器用だったよな。
とうとう、溜め込んでいた溜息が、はあ、と零れる。
其れを聞いてセフィロスが「クラウド?」と小さく首を傾げて俺を呼んだ。
・・・・・・・・・・・・うわ。
何かかわい・・・・・・いやいやいやいや、そうじゃ無いだろ俺。
「如何した、矢張り未だ体調が・・・・・・」
「いえ本当に大丈夫ですからサー・セフィロス」
だからそんな心配そうな顔で近付かないでくれうっかり押し倒したくな・・・・・・いやいやいやいや。
だから違うだろう俺!セフィロスは純粋にっ、俺の事を心配してっ。
思わずこめかみに指を当てて、眉間に皺寄せながらぐりぐりと揉み解す。
「――――――クラウド?」
・・・・・・あ。しまった。ついセフィロスの目の前で。
コレ以上かわい・・・・・・いや、心配させちゃいけない。
「はい、サー・セフィロス」
摂り合えず、気を取り直して顔を上げると、ばち、と音が鳴るくらいに、セフィロスと目が合った。
そして、俺はほんの少し。ほんの少しだけ、目を、細める。
セフィロスの表情は。寂しそうな、笑みだった。
「・・・・・・・・・・・・また、戻ってしまったな」
「・・・・・・・・・・・・は、い?」
何が、戻ってしまったっていうんだ?
「『サー・セフィロス』」
「・・・・・・はぁ・・・・・・サー・セフィロス?」
「あの時は、呼び捨てにしたくせにな。しかもタメ語で怒鳴った」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ。
思い出した。
そういえば、思いっ切り罵倒した。
何て無茶しやがるんだアンタは少しは大人しく守られてろ、って思いを込めて。
「あ、あれは、その・・・・・・」
「今更、だと思わないか?」
「・・・・・・え?」
「あれだけ威勢良く怒鳴りつけたんだ。今更、敬語とか無意味だと思わないか?」
・・・・・・其れは、つまり・・・・・・
敬語を、使うなと。
「いや、しかしですね、」
「ああ悪い言い間違えた。今更敬語だの何だの、無意味だ」
・・・・・・・・・・・・断言かよ。
「・・・・・・・・・・・・そうだな。今更だよな」
俺は今度は、包み隠す事無く盛大な溜息を吐いた。
楽しそうなセフィロスの目が、何かムカつく。
だからって訳じゃないが、釘だけは刺しておかないと。
「但し、アンタは仮にも俺の上司なんだ。第三者がいる場所では敬語を使わせてもらう」
其れでなくとも色々陰口叩かれてるんだ。生意気だの何だのと付け加えられたく無い。
そうぼやいたら、セフィロスは充分だ、と言って笑った。
俺にとっては、物凄く、心臓に悪い、華が綻ぶ様な笑みを。
・・・・・・・・・・・・ああ、もう。いっそ開き直ってやろうか。
その嬉しそうな笑顔を見ながら、もう一度溜息を吐いた時だった。
「やっほ〜〜〜〜っっ!!クラウド元気かーぁ?にーさんしっかり世話してるかーぁ?」
・・・・・・・・・・・・入る時はノックくらい・・・・・・・・・・・・いや、言っても無駄だな。
同じ事を思ったんだろう。セフィロスも眉間に皺を寄せながら、けど諦めた様な顔をしている。
――――――というか、今まで何処にいたんだ?
「・・・・・・何だザックス。お前仕事は如何した仕事は」
「んなの、にーさんさぼってんのに俺がするワケねーじゃん」
からから笑って言う事なのか、其れは。
・・・・・・・・・・・・何か、このままずっと入院していたい気分になってきた。
本当、この上司にしてこの部下あり、だよな。
「・・・・・・なら、今まで何をしていた何を」
ああ。セフィロスの目が据わってきている。此処に正宗があったら、絶対ザックスに其の切っ先を向けていただろう。
・・・・・・なくて良かった。
だが、其のセフィロスの据わった目も、俺の呆れた眼差しも、ザックスの次の言葉には、歪まざるを得なかった。
「ん。ちゃんトコにいた。」
さらり、とした物言いだったが、其の実、可也、重い。
「・・・・・・容態は?」
「・・・・・・・・・・・・ん。変わりなし。」
先刻までとは違った意味で眉を顰めたセフィロスの目には、再び心配そうな光。
笑っているのに泣きそうなザックスの顔。
俺は俯いて、ぎゅっ、と両手でシーツを握り締めた。
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