目の前で、青白く光るディスプレイを睨み付ける。
やらなければならない仕事は沢山あるが、今は此れ以外、見る気にはなれん。
何時まで眺めていた処で、内容が更新されるなど無い事も、充分に判ってはいるのだがな。
画面の中に表示されているのは、2つの写真。
金髪の少年と、黒髪の青年の、写真だ。
初めて其の姿を認識した時、一癖も二癖もありそうな奴等だと思った。
訓練と称して初めて剣を交えた時、この程度の腕でしかない筈が無いと直感した。
興味半分で身辺調査をした時、出された調査報告書に何かを隠している事を悟った。
――――――別に、そんな事など如何でも良かった筈だった。
癖があろうが、己を偽っていようが、秘密を抱えていようが。
神羅への復讐の為に、何時か内部から崩してやろうと神羅に志願する輩はいる。
テロリストのスパイが、兵士として潜り込む事もある。
別に良かったのだ。如何でも。あの2人がそういった部類の人間でも。
只、気に入った。面白いと思った。直感だった。
・・・・・・・・・・・・気付いて、然るべきだった。
其の時点で、既に2人は俺にとって『特別』だった事を。
なのに気付かずに。2人の事を良く知りもせずに。
傍に置けば退屈しなさそうだ。其の程度の考えで。軽々しく、あの2人を下士官にした。
――――――迂闊だった。今にして思う。
何かを隠している事など、判っていたのに。
彼等の秘密は、如何でも良い、などと言えるレヴェルを通り過ぎてしまった。
其れだけのものを、あの2人は見せ付けた。
あの、遠征演習で。最後の1日で。
俺やザックス、他のソルジャーや一般兵にまで。
隠し続けていた、力を。
ふ、と1つ息を吐き、再びディスプレイに視線を投げる。
青い神羅の一般兵の出で立ち。こうして見れば本当に作り物の様だ。
作り物の、様なのに。
「・・・・・・クラウド・ストライフ・・・・・・・・・・・・・」
負けず嫌いな瞳の強さを、知った。
華の様な微笑みを、見た。
そして。
「・・・・・・お前達は、一体、何者だ・・・・・・?」
あの、魔力。
恐ろしさを、感じた。この、俺がだ。
マテリアも無しにが喚び出した、あれは確かに精霊の最高位。
再生を司ると言われる、不死の鳥だ。
そして其の、何もかもを焼き尽くす劫火を押さえ込んだ、クラウドの魔力の壁。
火の鳥が具現した一瞬後には、展開されていた。
タイミングを絶妙に合わさなければ、そして2人の魔力が拮抗していなければ。
一歩間違えば、大惨事にも成りかねなかった。俺ですら、難しい芸当。
「何を、隠している・・・・・・?」
判らない事だらけだ。あの2人に関しては。
ディスプレイに表示された、プロフィールからして判らない。
出身が違うのに、あの2人は如何やって知り合った。如何してあんなに仲が良い。
は何故、あんなものを喚び出せる。
クラウドの、あの熟練した戦士の様な動きは何だ。
2人が神羅に入隊した意図は。
・・・・・・そう云えば、最近では随分軟化してきていた様だったから忘れていたが。
出会い始めのあの2人は、そもそも如何して俺やザックスに一線を置く様な態度を取っていた?
眼中に無いとばかりの他の兵士達への態度でも。
浅い付き合いの友の様なルーファウスに対する態度でも、無い。
英雄だから其の副官だから、そんな畏怖も憧憬も向けられずに。
近付きたく無い、と、頑なに。
其れこそ、見事に毛嫌いされていた様に思う。
ふと思い付いて、息を吐いた。
其の事実が意味するのは、恐らく――――――
「・・・・・・前にもあの2人に会った事が、ある・・・・・・?」
そんな馬鹿な。
俺があの2人を初めて認識したのは、あの入隊式典の時だ。
例え、視界の端に映っただけだったとしても。あれだけの人目を惹く容姿は、一目見れば忘れない。
――――――なら、何故?
ぐるぐると考え込んで、或る、ひとつの仮定に行き付いた。
の、出身地。神羅は以前、ウータイと戦争を起こした事がある。今ですら、小さな諍いは絶えない。
そして俺は、ザックスは。最前線で剣を振り、ウータイの人間を、何人も、この手に掛けて来た――――――
は、あそこ特有の漆黒の髪と黒檀の割れた断片の様な瞳と白い象牙の肌だ。
クラウドに父親はいない。だが、ニブルヘイムの人間では無い、流れ者だったらしい。
厭な、予感がした。
神羅で英雄などと謳われている俺は、一歩神羅から出れば死神、戦神と恐れられている。
俺の相棒として、副官として俺の隣に常にいたザックスもまた、其の戦闘能力の高さは世に知られている。
ウータイでは、其の傾向が特に顕著だ。
・・・・・・・・・・・・当然だろう。
俺達は。余りにも多くの人の命を、この手で摘み取って来た。
もしかしたら、其の中に。
「・・・・・・・・・・・・あの2人の、親が・・・・・・・・・・・・?」
言葉は、中途半端に途切れて最後まで呟けなかった。
だが、もし、そうだとしたら。
俺は、クラウドとにとって――――――
ぞくり、と背筋を悪寒が走る。
其れは、あの2人が倒れた時に感じたものと、酷似していて。
如何する。
如何すれば、良い?
真実を問い詰めようにも、件の2人は今、ベッドの上の住人。
そして何より、確かめるのが、恐ろしい。
恐ろしい、のだ。
あの2人が、もしかしたら俺を、憎んでいるのかも知れないと、確認する事が。
――――――ああ、本当に。
何時の間に俺は、こんなにもあの2人の事を気に入っていたんだろう。
他とは毛色の違った、ほんの少しばかり興味を惹いた、暇潰しの退屈凌ぎ。
そんな、お気に入りの玩具の様に、見ていた筈なのに。
何時の間に、俺は。
嫌われたくない。憎まれたくない、と思う程にまで。
クラウドとの事を、気に入っていたんだろう。
画面の上の写真を見詰めながら、溜息ひとつ。
考えても考えても、思考は纏まらない。
思い付く仮定は仮定でしかなく。しかもぞっとする様な、何とも厭な想像だ。
只、判ったのは。俺があの2人を、失い難い存在だと思っているらしい事だけ。
だから考えるより先に行動してしまうザックスの様に、当たって砕ける覚悟も持てん。
ザックスが押しかけ女房の如く俺の相棒に納まってから。
対人関係は随分とマシになったと言われる様になっていたし。
俺自身、危機感など抱いてはいなかったが。
・・・・・・・・・・・・まさかこの歳で、こんな事で悩む事になろうとは。
再び、溜息。
この件に関しては、恐ろしかろうが何だろうが、あの2人の言を聞かねば始まらんのだろう。
未だ昏睡状態から回復していない事に、此方は気を揉んでいるというのに。
――――――ああ、気が重い。
摂り合えず、あの時、あの場にいた一般兵やリードには、堅く口止めしてあるが。
・・・・・・上への報告は偽造するか。
今の状態では、何も判っていないのだし。
憶測で、クラウドとが危険分子だと判断されても困るしな。
ふむ、と頷いて、漸く2人の写真意外のデータを引き出そうとキーボードへ手を伸ばす。
其の、時だった。
ぴりり、と響いた小さな機械音。
・・・・・・・・・・・・誰だ、一体。
デスクの端にあった、片手に乗る程度の、折り畳みの機体に目を向ける。
そして、取り上げて表示を見れば。
其処には、仕事を放り出したまま戻っても来ない、大凡戦闘以外には使えない副官の名前が記されていた。
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