Ver.Zack





「・・・・・・おじゃましまーす・・・・・・」

 そろーり、極力音を立てない様に、ドアを開けて、俺はするり、と室内へ入る。





 ソコは、すっげぇ静かな空間だった。

 白い壁と、白い天井と、白いカーテンに白い床。

 ・・・・・・んでもって、隅に一纏めにされた、色鮮やかな花やら果物やら。

 ・・・・・・・・・・・・なんっか、きのーより増えてるよーな気ぃすんだけど・・・・・・・・・・・・?





 首を傾げながら後ろ手にドアを閉めて。

 壁に立て掛けてあった折り畳み椅子を定位置に置いてよいしょ、と座る。

 ドコを見ても白、しろ、シロだ。ま、病室、っつったら、こんなモンなんだろーけどな。

 そんな部屋ん中、やっぱり白いベッドの上で眠ってるのは。

 等身大の、お人形さんみてーなカワイコちゃん達。





 右を見れば窓際のベッド。面白れーハネ方した金髪が。

 左を見れば扉際のベッド。絹みてーに流れる黒髪が。

 それぞれ・・・・・・それぞれ、おんなじ様に腕に点滴刺して眠ってる。

「・・・・・・つーか、寝すぎだろお前等ー・・・・・・」

 小さくぼやいた声は、返事ももらえず空中にたゆたって消えた。





 救護ヘリで逸早くミッドガルに俺等が戻って、5日。

 もう、5日も経ってんだぞ?





 でかい穴を身体に開けられてたにーさんは。

 さっさとエーテル飲んで自分で『フルケア』掛けて、後はしこたま増血剤漬けで2日目には回復した。まだ貧血ギミらしーけど。

 んでもって肺に2本くれー骨刺さってた俺は。

 手術で胸開いてやっぱりその後にーさんに『フルケア』掛けてもらった。今じゃすっげー五体満足だ。





 ・・・・・・・・・・・・なのに。

 おおよそ致命傷とは程遠い、小さな裂傷を身体中に作ってただけの我等が優秀な下士官達は。

 エーテル無理矢理飲ませよーが、『フルケア』かけよーが、未だに目を覚ます気配ナッシング。





 検査じゃドコにも異常がなかったから、「恐らく極度の過労でしょう」なーんてゆーのがドクターの見解なんだけどさ。

 ・・・・・・・・・・・・ホントに、『過労』、だけ?

 ――――――後遺症、とか。そんなんじゃ、ねぇの?





 あの時――――――俺にも辛うじて意識があって、ちゃんと、覚えてる。

 にーさん愛用の武器、正宗に直接埋め込まれてるマテリア、『アルテマ』。

 アレの威力を俺が見たのは過去1回きりだけど。

 アレと、同等の。いやもしかしたらアレ以上の。





 見た事も聞いた事も無いちゃんの魔法と、ソレを見事に一定範囲内に押さえきった、クラウドの『リフレク』。





 魔力を限界まで放出した場合、アルビノになったり盲目になったり声が出せなくなったり。

 ――――――最悪、命を落とす事も・・・・・・あるって、聞いた。

「・・・・・・・・・・・・なあ、お前等はだいじょーぶ、だよな?」

 は。やべぇ。声震えてら。

 声だけじゃねぇ。指、まで。





「・・・・・・・・・・・・早く、目ー覚ませよ・・・・・・・・・・・・」

 やんなきゃいけねぇ事は幾らでもある。

 次のミッション編成とかブリーフィングとか書類作成その他モロモロ。

 お前等いねーから、また溜まってきてんだぜ?





「・・・・・・・・・・・・覚ましてくれよ・・・・・・・・・・・・」

 聞かなきゃなんねぇ事も沢山あるんだ。

 ちゃんの使ってたあの魔法って一体ナニとかなんでクラウドそんな強ぇのとか。

 ぶっちゃけ2人が今まで俺等に隠してる事まで、芋蔓式にゲロってもらわなきゃなんなくなるかもしんねーけど。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・頼む、から・・・・・・っっ」

 どうしよう。

 頭ん中ぐるぐる回ってんのはソレだけだ。

 どうしよう。

 このまま、クラウドもちゃんも目を覚まさなかったら。





 イヤな事考えちまって、背筋がぞくっとして、ぶんぶん頭振ってはぁ、とでっかい溜息を吐く。

 んでもって、椅子の背凭れに体重を預けて、両腕をぶらんとさせた。

 視界の端に入ってきたクラウドの指が、なんか白くて細くて不快になる。

 ・・・・・・ココで左向いても、今度はちゃんの、クラウドより細くて白い右手が視界に入るから、向かねぇけど。





 この手は俺のバスターソードを握ってた手なのに。

 ホンット馬鹿力ー、ってくらい、振り回してたのに。

 ・・・・・・・・・・・・なんでこんな力無い、病人みてーになってんだ。





 なんか見てたらまた不安になった。

 血ぃ、通ってねーんじゃねーかって。

 んな事あるワケねーって頭ではちゃんと判ってっけど、理性と感情は、別モノでさ。

 そっと、手を伸ばしてみる。

 ちょっとだけ。確かめるだけだから。ちょっとだけでいーから、握らせて。





 ――――――そんな、時。





「クラウドっっ!?」

 ぴくり、と微かに動いた指に。

 俺はガバッ!!とベッドの端に張り付いた。

























<<バック トゥ トップ                    ネクスト>>