飛び出すクラの背中を見送って、俺は腕の中にいるセフィに目を向ける。
・・・・・・右の、脇腹と太股に、牙の跡。
血を流し過ぎたから、元々白かった肌が今は紙みたいだ。
ソレから今度はザックスへ。
こっちはまだ意識があるみたいだけど、肺に刺さった骨は魔法でも直せないみたい。
荒い息を繰り返して、口元から伝う赤が、痛々しい。
他には、まだ一般兵だから上級魔法使えなくて『ケアル』ばっか繰り返してる兵士さん達と。
ありったけのシールドを維持し続けてるサー・リードとサー・ヴァリス。
そんな彼等を横目に、俺はそっと、セフィに口付ける。
なんか息を呑んだりする気配がコソ彼処で起こってザックスに至っては泣きそうな声で俺の名前呼んでたけど一切ムシ。
ただ単にキスしてるだけじゃないんだもんね。
俺を形作っている物質は、基本的に何でも受け入れて何にでも溶けるから。
例え女王様の欠片を埋め込まれてたって、コレッくらいなら大丈夫でしょ。
回復を助ける為に、肉体を保護するだけのアーグを送り込む事くらい。
口付けた時と同じ静けさでそっと身を引いて。
ボーゼン、としてる兵士さんにセフィを預ける。
んでもって、今度はザックスの傍へ。
「・・・・・・な、に・・・・・・ちゃ、って・・・・・・にーさん、ス、キだっ・・・・・・ワケ・・・・・・?」
「うん。でもザックスもスキだよ」
セフィは、クラのだしね。
後のセリフは声に出さずに、兵士さんの力を借りて力無く上体を起こしてるザックスの頬に手をあてて、キス。
驚いた様に見開かれた眼は徐々に細くなって、終いには心地良さそうに閉じられた。
「・・・・・・あー・・・・・・お、れ・・・・・・役、得・・・・・・もー、死、でも、いー・・・・・・かも・・・・・・」
「そんだけ口が回るんなら大丈夫だよ」
口を離せば、力無く、けど嬉しそうに笑うザックスに、最後にぺろりと口元の血を舐めて俺も笑う。
ソレから、ザックスを支えてる兵士さんの足元を見て、キラーンと目を輝かせた。
「イイもの持ってるね、ソレ」
「・・・・・・は?」
「貸して?」
小首を傾げつつお願い口調で言いながら、けど既に決定事項の如く彼の足に装備されていたナイフに手を伸ばす。
うん。良いナイフだ。ちゃんと手入れも入ってる。
俺は暫くの間ナイフを眺めて、左手のグローブを外すと。
徐に刃を手首に当てて、横に引いた。
「下士官!?」
「・・・・・・ッ、ちゃ・・・・・・!なに・・・・・・っっ、を・・・・・・!?」
声を上げる兵士さんやザックスを無言で制して、ぱたぱたと滴り続ける血に視線を落とす。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・今の俺、かーなーり、怒ってますから。
何にってそりゃ、セフィなら大丈夫だろって思ってた自分の楽観部分に。
あんなのがもう一匹潜んでいた事が判らなかった、自分の迂闊さに。
「 ――――――俺の声に耳を傾ける全ての姿を持たぬモノ
この血を対価に この色を契りに この流れを贖いに
約定の刻印この身に印して 俺を受け入れ仮初の玉座に迎えろ
水極には月の雫 火極には太陽の欠片 服従と奉仕 義務と誓約
従い与えろ・・・・・・・・・・・・エレメンタル―――――― 」
立ち上がり、紅く染まる腕をすい、と肩の高さまで水平に躍らせながら、謳う様に紡ぐのは契約の呪文。
途端、ざわりと世界が動いた様な気がした。いや、気がしたんじゃなく、確実に動いた。
人の目には捉えられない、高次元素の次元が。
その証拠に、濃厚になっていくこの場のエーテル。
勘のイイ人は、もう気付いた。
「え・・・・・・?ちょ、なにコレ!?」
「・・・・・・・・・・・・ちゃ・・・・・・?」
「何をした、っ?」
さすが、ソルジャーってのは伊達じゃないね。
けど俺は疑問に答える事をせず、ちろ、と大蛇に目をやった。
ヤツ等から、コッチへの注意を逸らそうと奮闘しているクラの姿を。
そして徐に。
「クラ!!」
一声吠えて、上げた手を大蛇に向ける!!
「 ――――――風よ此処から吹き荒れろ!雄雄しき獣の牙の如く、敵を切り裂く刃と成れ―――――― !!」
大きく後退したクラと大蛇の間を取り持つ様に、真空を作り出した風が巨体に遅い掛かる。
痛みにのたうつ長い胴。けど・・・・・・浅い!!
「だったら!! ――――――成長しろ寒気の六角!硬質なる矛先と成って、愚鈍なる者共を薙ぎ払え―――――― !!」
大蛇の頭上に生まれた無数の氷の槍。
勢い良くヤツ等に降り注いだソレは幾つかが綺麗に刺さって、大きな咆哮を上げさせた。
その隙に切り掛かるクラを目で追いながら、俺はざっ、とサー・ヴァリスの横に移動して。
「サー・ヴァリス、貴方の剣貸して下さい」
「なに言って・・・・・・!!」
「貸してくんなきゃ素手でヤツ等に突っ込んでってやる」
あ。絶句した。
けどソレは一瞬。サー達だってちゃんと判ってるんだ。
自分達がシールドを維持し続けなければならない今、少しでも使えるのは俺とクラしかいないって事を。
「――――――時間稼ぎが出来れば良い。無理だと思ったら即座に退け」
「・・・・・・ちょ・・・・・・っ、リー、ド・・・・・・ちゃん・・・・・・!!」
「イエス、サー」
サー・リードの言葉に意義有ーり!!って感じのザックスの声はキレイに無視して、俺はサー・ヴァリスから剣を受け取りクラの元へと走る。
無理だと思ったら即座に退け?無理だねそんなの。
俺もクラも、ヤツ等は殺す気まんまんよ?
「待たせた、クラ!!」
「全くだ!!」
短い応酬をしながら、大地を蹴り、大蛇に突っ込む。
獲物だと思ってたヤツ等にココまで抵抗されて、ヤツ等はもう怒り心頭みたいだ。
爛々と目を輝かせながら俺等を迎え撃って来た。
うねる大蛇の尾を避けながら、胴の上に跳び乗り頭部へ向かって走るクラ。
もう一匹が彼に襲い掛かろうとするのを阻止するべく、俺はヤツ等の鼻先で剣を振りつつ後方へと跳び去る。
「 ――――――密集しろ大気の毒!空気に潜む火種 誘い発火する3種のエレメント 爆ぜろ―――――― !!」
そんでもって、ちょーど大口開けたトコロに爆発。
・・・・・・うーん。あわよくば頭吹っ飛ばしてやろうと思ったんだけど。
雄叫び上げて口ん中血だらけにした程度か。やっぱちと威力がちっちゃかったな。
痛みにびったんばったん地面を叩く大蛇の横で、もう一匹も一拍遅れで咆哮を上げた。
クラが片目潰したんだ。
ぶんぶん首を振って、クラを振り落とす。
って、体勢悪っっ!!地面激突間違い無し!?
「 ――――――陸と海とを渡る鳥の翼を賛するものよ!力強き風切り羽、俺に仮初の翼を与えろ―――――― !!」
直ぐ様紡いだ力在る言葉に、風が俺の身体を包む。ふわり、と足が地面から浮く。
――――――行く!!
浮いた身体で時速なんじっきろって感じの地面スレスレの低空飛行で、落ちてくるクラの下に滑り込み。
んでもって見事にきゃーっち!!
「っっ!!・・・・・・ッ?・・・・・・アンタ空まで飛べるのか」
「魔術はイメージが大切なんだよん」
驚きは一瞬で、次には呆れた顔したクラにニッと笑って。
けど直ぐ様厳しくなったクラの目に、俺は背後を振り返った。
やばっ――――――止まってるヒマなんて無い――――――!!
「『ファイラ』!!」
どっごぉん!!
「うわっっ!?」
「つっっ!?」
イキナリ背後で爆発した炎に、俺もクラも煽りをくらってかるーく前に飛ばされる。
そのままべちゃっ、地面に座り込んじゃってクラ転がしちゃった。てへ。
・・・・・・つーか、さっきの呪文の声。もしかして、ってゆーか間違いなく・・・・・・
「セフィロス!?なにやってんだアンタ!!」
「ダメじゃんセフィ!!無理なんかしちゃ!!」
クラの非難と俺の文句はほぼ同時。
半透明のシールドの膜の中。
兵士の1人に肩を借りて立ち上がっていたセフィは、そんな俺等に一喝した。
「余所見をするな、来るぞ!!」
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