瞬間、視界が捉えたのは。
鮮やかな――――――鮮やか過ぎる、紅。
「にーさん!!?」
「サー・セフィロス!!」
「セフィロスさんっっ!!」
傍にいる筈のザックスとサー・ヴァリス、そしてサー・リードの声が、とても遠くに感じた。
何が起こった。
唐突に真っ白になった思考の中、其の単語だけがぐるぐる廻る。
何が、起こった。
頭から、大量の冷や水をぶち掛けれた気分だ。
一体、何が。
「うわぁあっっ、来たぁ!!?」
鎌首を上げ、此方へ突進してきた大蛇に、兵士の1人が悲鳴を上げる。
その大蛇の突進はサー・ヴァリスのシールドによって阻まれたが、大蛇は力押しでシールドを破ろうと更に半透明の膜に体当たりを喰らわせる。
「・・・・・・くっ・・・・・・やば・・・・・・っっ」
「ヴァリス!!」
慌てて駆け寄ってきたサー・リードが、サー・ヴァリスのシールドの上からもう一度シールドを発動させる。
眼前に迫る大蛇。
なのに、まるで他人事の様にしか感じられない。
――――――そして、其の大蛇の向こうには。
セフィロスの死角から、新たに出現し飛び掛かりながらセフィロスに食い付いたもう一匹の大蛇と。
力無く其の蛇の口に加えられる、銀髪と、黒い戦闘服の。
「畜生ぉおっっ!!」
横から、大蛇に向かい駆け出すザックスも。
「ザックスさん!?」
「待て、ザックス!!」
其れに驚いたサー・ヴァリスと、制止しようと厳しい声を上げたサー・リードも。
全て。全てが、ブラウン管の中の1シーンの様で。
「クラウド」
行き成り霞んでいる様に見えた世界がクリアになった。
雑音を耳が拾い、手足の先まで感覚が戻る。
――――――・・・・・・・・・・・・神経の全てが、焼き切れる様だ。
俺を現実に戻したのは、静かな声。
クラ、では無く、クラウド、と。
見上げたの双眸は、ひた、と据わった様に大蛇を見据え。
柔らかい筈の黒の中に、星屑の様に鏤められた金と銀が認められた。
「クラウド。俺があげた指輪、今持ってるよね?」
・・・・・・・・・・・・虹彩の色が、戻り掛けている。
冷静さを失い掛けている証拠なのかも、知れない。
「ああ。何時も。肌身離さず」
俺だってそうだ。漸く馴染み出した怒りに、全身の血が滾っている。
だが、『今』の俺が出て行っても足手纏いにしかならないのは、火を見るより明らか。
だから辛うじて、この場に踏み止まっているに過ぎない。
今、此処に。自分の剣があったなら。
潜在能力の高い、ソルジャーと同じ、身体だったら。
今まで培って来た経験や力も存分に駆使出来ない、こんな子供の身体じゃ無かったら。
迷う事無くあの忌々しいモンスター達に立ち向かって行っているのに。
今直ぐにでも、セフィロスを取り戻してやるのに。
だが、俺の絶望をは難無く破壊した。
「良い子だ。其のまま持ち続けてて。アレは君の力を引き出す。『昔』と同じだけ・・・・・・いや、其れ以上の力を」
「――――――本当か?」
「うん。前に言ったよね?時間を『跳ぶ』に当たって、君から分けなきゃいけなかった部分、加えて俺とガイアの力で構築されてるって」
災いは破邪へと転位した。元の女王サマより、使い勝手は良い筈だよ、と。茶化す様に言ったの次の言葉は。
「思うだけで求めるだけの力は発揮できる・・・・・・ただ、やっぱり今の身体に合わない分、後から負担がドッとクるけど」
「構わない・・・・・・今、戦えるなら」
ザックスが大蛇に切り掛かる。
だがセフィロスの正宗よりもリーチの短いバスターソードはヤツの鼻先を掠めるだけで。
「っ!!ザックス!!」
「うわぁぁあっっ!!?」
大蛇の背後から、セフィロスごと体当たりをかまして来たもう一匹に、ザックスは勢い良く吹き飛ばされ。
背中から、盛大に木に打ち付けられた。
大木に減り込んだ身体を如何にか動かし地に足を着く、姿。
其のまま剣を構えようとして、けれどガクリと着いてしまった、膝。
ぱらり、と落ちる木屑。
ごぼり、と厭な音と共に吐き出された血が、紅過ぎて。
――――――今度こそ、理性が憤怒によって完全に焼き切れる。
そんな感覚を認知した時には、もう俺の身体は動き出していた。
凄まじい程の瞬発力を発揮して、肺の辺りを押さえるザックスと、彼に牙を向ける大蛇に向かい。
正に大蛇の牙がザックスの身体に食い込もうとした瞬間、俺はザックスを抱え横に飛んだ。
「・・・・・・ク・・・・・・クラウ・・・・・・!?ごほっっ!!」
「喋るな!!」
ざぁあっっ!!――――――と、地面にスライディングしながら体勢を整え。
驚きに瞠るザックスの目を横目で見ながら、油断無く大蛇に注意を向ければ。
丁度俺が対峙している大きな巨体の向こう。
セフィロスを咥えているもう一匹の喉元に、痛恨の蹴りを食らわせているの姿。
攻撃を繰り出してきた相手に怒り、セフィロスをに投げ付ける大蛇の姿を目の端に捉えながら。
俺はザックスを横抱きに抱え上げ、しなる尾を跳んで避ける。
「・・・・・・ク、クラ・・・・・・ド・・・・・・ッッ」
「だから黙ってろ肺に骨刺さってる癖に!!舌噛むぞ!!」
其れでなくとも重いのに。此れ以上俺の集中力を低下させる気かコイツは。
と思った矢先に、背中に衝撃。
「ぐっっ!?」
一瞬、息が出来なくなる程の痛みに、目の前がスパークした。
「ク、ラ・・・・・・!!」
だがザックスを巻き添えに、無様に地面に転がされるのだけは、回避した。
膝を着くだけに留まった俺を、ザックスの泣きそうな目が見ている。
「・・・・・・大丈夫だ」
痛みを殺しつつ、口元を笑みの形に変えてみせ、俺はサー・リードの「早くコッチに!!」という声を頼りに走り出す。
有るだけの防御系マテリアを全駆使した、半透明の膜が張られたシールド内に向かって。
「ザックスの治癒頼む!!」
「セフィにもお願い!!」
俺は半分転がりながら。は足からスライディングする様に。
膜の中に入ったのは、ほぼ同時。
そして俺は、慌ててザックスを受け取る兵士を見届けるのも其のままに、再びシールドの外へと飛び出した。
「ちょ、ストライフ下士官!?」
「待て!!ストライフ!!」
制止するサー・ヴァリスやサー・リードの声にも従わず。
目差すのは、さっきザックスが落とした、バスターソード。
俺に、戦う力を。
呼応する様に、服の下。
首から掛けていたチェーンに通したリングが、淡く熱を持った様な、気がした。
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