Ver.Sephiroth





 我ながら、良い下士官を選んだものだ、とつくづく思う。

 今回の演習遠征、編成やら何やら一切をあの2人に任せてみたが。

 中々如何して、1stでも此処まで綿密に組み立てや下調べをしてくる奴は余りいないぞ。





 先ず、実射や剣技、魔法の指導。

 プロフィールや今までの戦歴から班を3つに分け、しかも上手くローテーションが回る様にスケジュールを組み立てている。

 又、実戦ではモンスターの特性や、其れに伴う、此方側が必要とする装備の一覧。

 そして生息場所。巣の出来ている可能性がある所には、地図に赤い印が入れられている。

 他にも、このモンスターを全滅させた場合のデメリットや、この付近での天敵と成り得るモンスターの有無など。





「ひぇ〜・・・・・・細けぇトコまで調べてあんな〜」

「及第点、いや普通に合格以上だな」

「ちっちゃな費用ででっかい成果を、を地でいってんね」

「下手なソルジャーより使えるんじゃないか」





 いや実際使えるだろう。

 次のソルジャー試験に推薦するのも吝かでは無い。

 そんな事を考えながら、ザックスと2人、周囲の兵士達に指示を出している時だった。





「すみません。少し宜しいですかセフィロス」

「ツォンか、何だ」

「あの・・・・・・ルーファウス様は、此方に見えられてませんか」





 ぴたり。

 ・・・・・・・・・・・・何だって?

 思わず動きが止まってしまった。頭の天辺から足の先に至るまで、完全に。

 数秒して、漸く動く。首だけ。立て付けの悪くなった扉の様に。ぎぃ、と。ツォンの方へ。





「・・・・・・・・・・・・いないのか?」

「ええ、気付いたら姿が見えなくなっておりまして」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・なーにーさん。俺今すっげー絶対アソコだ、って思っちまったんだけど・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・皆まで言うな」





 ――――――あの放蕩癖持ちの副社長めが。

 幾ら神羅の基地内とはいえ、単独で行動するなど言語道断。

 しかも兵士達に一言くれてやる前に先ず自分の興味か。

 全く。何をしに来たんだ。仕事では無いのか仕事では。





「おい、デイル」

「何ですかサー」

「このスケジュール通りに事を運んでおけ。後は任せる」

「はい・・・・・・って、サーはどちらへ?」

「何、ふらふらと遊び呆けているらしき副社長殿をお迎えにな」





 端にいた1stソルジャーに持っていた書類を渡し、カツリと踵を返す。

 後ろからザックスとツォンが付いて来るのは予想内。

 ――――――其れにしても、あの御子様め。

 あの2人に要らん事を吹き込んでいたりなどしたら、只じゃおかんぞ。





「そう云えばセフィロス、ザックス。貴方達の下士官、姿が見えませんが」

「ん?アイツ等なら今、今後のスケジュールの調整してるぜ。だよな、にーさん」

「ああ、だから変なのに絡まれていなければミーティングルーム辺りに・・・・・・」





 ・・・・・・・・・・・・行くまでも無かったな。

 丁度廊下を曲がった先、ミーティングルームの手前できっちりと変なのに絡まれている。

 其の、変なの、とは。

 薄い金髪の、白いスーツを着た、おガキ様。





「・・・・・・・・・・・・あ。副社長はっけん。」

「・・・・・・・・・・・・全くあの方は・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・予想を裏切ってくれないヤツだな」





 呆れを通り越して感心しそうだ。

 いや其れも面白くないから絶対にしないが。

 しかも何気に楽しそうなのが気に食わん。

 速攻邪魔してやろうと決意して――――――しかし足は、その場から動かなかった。





「にーさん?」

「少し待て」





 俺を横切って前へ出ようとしたザックスを影へ引っ張り込む。

 引っ掛かったのは、下士官の2人。

 特に、年相応よりも幼く笑う、の口元だ。





「へー。じゃ、ルーって新羅の関係者だったんだ」

「そうだよ」

「視察の人の秘書見習いかなんか?若いのに良くそんな胃を痛めるよーな仕事選んじゃって。すごーいね」

「いや、僕は・・・・・・」

「・・・・・・ルーが凄かったら俺は如何なんだヲイ。」

「え?だってクラは・・・・・・ねぇ?」

「その無言の部分が途轍も無く気になるね」

「右に同じく」





 ――――――むか。

 何だアレは。

 俺やザックスでも、あんなに砕けたクラウドやの姿など、1度も見た事ないのに。





「・・・・・・なーにーさん。ナニアレ」

「・・・・・・見ての通りだ」

「なーんでちゃんとクラウド、副社長さんとあんなに仲良さげなワケ?」

「知るか」

「――――――ご存知ないのですか?」





 ご存知無いとは何の事だ何の。

 思わずツォンへ向けた視線は、可也厳しかったに違いない。

 ザックスの目付きも、何時もの2倍増しだしな。





「・・・・・・・・・・・・何の事だ」

「本当にご存知ないのですね」

「だから何の事だと」

「2・3ヶ月程前、ですか。ルーファウス様が又例の如く『息抜き』にダウンタウンへ出られたのですが」

「・・・・・・・・・・・・なに。副社長さんまた抜け出したのかよ?」

「管理不届だな」

「・・・・・・・・・・・・こほん。其の時、暴漢に襲われ掛けた処を、あの2人に助けられたそうですよ」

「ぬぁんですとっっ!!??」





 行き成り大声を出すなこの馬鹿者っっ。

 気付かれたら如何す・・・・・・・・・・・・ああ、遅かった。





「――――――何を、こそこそと盗み聞き紛いの事をしてらっしゃるんですか、サー」

「盗み聞きどころか、見るからにストーカーっぽいんですけど」

「ああ、申し訳ありません。まさか、神羅の英雄とその副官が、そんな事する筈ありませんよね」

「・・・・・・・・・・・・クラウド」

ちゃんっっ!!」





 ・・・・・・・・・・・・何処ぞの変態と一緒にしないでくれないか。

 しかも腕を組んで仁王立ち。薄っすら浮かべた微笑みに、妙に迫力があるんだが。





「ぼぼぼボーカンにお、おそ、襲われたって!!大丈夫だったのか!?」

「・・・・・・・・・・・・はぁ?」

「・・・・・・・・・・・・サー・セフィロス、通訳をお願い出来ますか」





 何故俺に振る。しかも通訳。

 ザックスのヤツ、既に人間扱いされていないんじゃないか?

 俺は溜まり溜まった息を深く吐き出して、取り合えず答えた。





「・・・・・・2・3ヶ月程前に、お前達がダウンタウンで暴漢に襲われ掛けたという話を、今、聞いてな」

「怪我しなかったか!?相手どーした!?な、なんかへへへ変な事とかは!?」

「・・・・・・貴方達本当に2人を大切にしてますね・・・・・・」





 密かに声を低くした俺と、喚き出したザックスに背後から苦笑。

 五月蠅い外野。

 お前とて大事な大事な御曹司に何かあれば、年甲斐も無くブチ切れるだろうが。





「されてませんよ当り前でしょう」

「騒ぎになる前に失敬させて頂きましたし」

「・・・・・・ホンッッ、トーに?」

「痴漢撃退の極意。急所を突けば後は勝手に悶絶してくれます」

「何ならソルジャー・ザックスも悶絶してみますか?」

「・・・・・・・・・・・・いいいいいえエンリョしときます・・・・・・・・・・・・」





 悶絶、という響きが攻撃する急所とやらを如実に表しているだけに、何だか恐ろしいな。

 俺と同じ様に意味を嗅ぎ取ったザックスも、顔を心無し青くしながら首を横に振っている。

 そうか。お前でもあそこを攻撃されるのだけは嫌か。





「で、こんな処でお二方は一体何をされていたのです?」

「今後のスケジュール表ですか?少々お待ち下さい今――――――」

「・・・・・・いえ、違います。少々、私の上司を探して頂くのに・・・・・・何処へ行かれるんです、ルーファウス様」

「「・・・・・・ルーファウス、『様』?」」





 苦笑を抑えつつ前に出たツォンの最後の科白に、2人が揃ってひく、と固まる。

 そしてゆっくりと振り返った先には、そろそろとこの場を離れようとしている、白いスーツ姿。





「・・・・・・・・・・・・や、やあ、ツォン」

「全く、貴方という方は・・・・・・もう充分に基地内は堪能されたでしょう。演習場へ向かいますよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・判ったよ」

「クラウド・ストライフに、でしたね。ルーファウス様の相手をして下さって有り難う御座いました。其れでは又、後程」

「・・・・・・はあ・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・い、いえ・・・・・・・・・・・・」





 とクラウドの呆けた顔も始めて見た・・・・・・中々、可愛い顔をする。

 この点に関してのみ、あの御子様に感謝すべきか。





「・・・・・・・・・・・・あ、の。サー」

「何だ」

「・・・・・・・・・・・・ルー、ファウス、様、って・・・・・・・・・・・・」

「ああ、あいつは新羅カンパニーの副社長、ルーファウス・神羅だ。今回の視察の責任者でもある」

「もしかして、クラウドもちゃんも知んなかった?」

「あいつの事は無事守役に引き渡したんだからもう良いだろう――――――如何した、2人共?」





 ツォンに引っ張られる様にして立ち去っていく副社長の背中を見ながら。

 軽く答えたザックスと俺が、クラウドとを振り返ってみれば。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・2人共、声を無くして固まっていた。

 ・・・・・・何だ、予想はしていたが、本当に知らなかったのか。

























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