Ver.Hero





 目が痛くなるくらいの、雲ひとつない空。

 影すら焼き付ける様な、容赦のない日差し。

 しかも室内の熱気をごぉんごぉんエアコンで外に吐き出してるから、窓の外の景色はゆらゆら陽炎めいてる。





 暦上はもうすぐ秋だっつーのに。

 都会の残暑は、茹だるよーな暑さです。





 まあついこないだまで、むっしりした空調きかない教室とか演習や訓練の為に炎天下とかふつーにいたから、ソレ考えると室内勤務の今は天国なんだけど。

 なあんか最近時間経つのが早く感じるのは、日の入りが速くなったからだけじゃない。

 ・・・・・・・・・・・・まあ、無理もないか。

 どっかの誰かさんのご希望で下士官なんてーのになってから、既に1ヶ月。

 スケジュールがどごん!!と殺人的になったんだもんよー。





 ソルジャー付きの下士官の仕事、っつったら、書類関係の補助とかミッションの補佐なんかが大体だ。

 まあ、けど美人さん・・・・・・いやいや、セフィロスとかザックスにミッションの補佐なんてぶっちゃけ必要ないし。

 ソルジャー統括とその副官だけあって、書類も機密性高いの多くて俺が扱える様なシロモンなんて少ない。





 ・・・・・・・・・・・・少ない、と思ってたのに・・・・・・・・・・・・





 何故か、どーしてこんなトコにあるんだ的な書類の山。

 他にも、ミッションの編成計画書から経過報告書やら被害届けうんぬん始末書にその他えとせとらえとせとら。

 勤務3日目くらいから、どこどこと俺等が見てもいーんですか?的書類までコッチに回してくるようになりやがって。

 オマケに滞ったり期限切れてたり分のヤツの催促とか謝罪とか。

 色んなトコ顔出して頭下げるのも俺等の・・・・・・てゆーか、ソレは殆どクラの仕事。

 俺ってば、勤務開始から終了まで、ほっとんどこのデスクに着いたまんまさ。





 ついでに、ザックスが定時になったら帰るー!!って喚くから、減らせそうな仕事も思う様に捗らない。

 ナニ気にセフィロスもソレに合わせて仕事やめるし。

 世の中のサービス残業やってるサラリーのおぢさま連中、さり気なーく敵に回した思考回路だよな。





 ・・・・・・ホンット、一体今までどーやってこの量の仕事を片してたんだろー・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・片せてなかったから1年前の書類とかあったんだろーけどねー・・・・・・・・・・・・





「如何した?」

「――――――え?・・・・・・いえ、別に」





 思わず漏れた嘆息が聞こえたんだろう。書類に目を通していたセフィロスに聞かれて、短く返事を返す。

 ちなみに、クラは決済済みの書類を届けに他の詰所に行ってて席外してるし。

 ザックスはちょっとした遠征で1週間後まで帰ってこない。

 ・・・・・・専属下士官連れてかないのって、どーよ、ってちょこっと言ってみたんだけどね。

 俺以外の3人が満場一致で「ダメ!!」ってすっごい剣幕だったから、引き下がるを得んかった。





 だから、今この部屋には俺とセフィロスの2人だけ。





「一息入れるか?」

「ありがとうございます。ですが大丈夫です」







 淡々と事務的に返事を返せば、そんなに強くもないのにびん、と張った様な声が俺を呼ぶ。

 顔を上げたら、書類から目を放したセフィロスと目があった。





「珈琲を淹れて来てくれ」

「・・・・・・・・・・・・畏まりました。砂糖とミルクは如何されますか」

「いや、俺の分はブラックで――――――お前はちゃんと淹れろよ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」





 職権乱用の実力行使、ってか?・・・・・・そんなに仕事させたくないならハナっからこんな量コッチに回すな。

 ――――――しかもなんか悪戯っ子みたいなその笑みの理由はなんなんでしょーか。

 そんなに俺って糖分足りてなさげに見える?ねえ見えんの?





 ・・・・・・・・・・・・ああ確かにこの1ヶ月間で、しなくたってイイ気苦労させられてますからね。

 言われなくてもコーヒーの原型留めないくらいがっぱがぱ淹れさせて頂きますとも。

 しかも元々がブラックも飲めねーよーなオコサマ味覚さ。悪かったなこんちくせう。





 手にしていた紙の束を取り合えずデスクの上に置いて、向かったのは簡易キッチン。

 簡易、といってもちゃんと揃うモンは揃ってやがる。

 さすがは英雄サマ。執務室にまで至れり尽くせり・・・・・・なんて思うのは、初日でもー飽きた。





 シンクの上の洗い籠から、昨日使ってた翡翠色と黒のマグカップを手に取る。

 ちなみに翡翠色はセフィロス、黒が俺。洗い籠に残ってる明るい青色がクラで、紺色がザックスのだ。

 勤務5日目くらいから何故かキッチンに鎮座ましましていた。ザックスがネットで買ったらしい。

 如何して私がこの色なんですか?って聞いたら、にっかり笑って「みんなの目の色〜」ってのが返ってきた。





 ソレから、マグカップの上にフィルターセット。

 ドリップ形式だから、後はポットから直接どぼどぼと湯を注いでやればイイだけだ。

 かんたんカンタン。





 んで。待つこと数分。

 使命を果たしたフィルターにご退場して頂いて、宣言通り自分の方に砂糖とミルクをどっちゃり入れて掻き混ぜてやる。

 そして、2つのマグカップをお盆に乗せて執務室へととって返せば。

 ――――――何やら英雄サマは1枚の書類を燃やしそうなイキオイで睨んでいた。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・なに。またヒゲダルマ辺りからムカつくよーな仕事でも来たの?





「――――――お待たせ致しました」

「・・・・・・・・・・・・ああ、すまないな」





 すまないって思ってんならちゃんとコッチ見て受け取れ。

 だけどゼンゼン書類から目ぇ離してくんないから、デスクの端にマグカップを置いてやった。





「何か不備でもありましたか」

「・・・・・・いや、お前達の仕事は完璧だ・・・・・・少々、皮肉めいた部分が見られるがな」

「・・・・・・・・・・・・」





 微動だにしない体勢で、一向に視線を外さない薄っぺらい紙に、だんだん不安が募ってきて。

 控えめ〜に聞いたら、漸く視線を上げた。しかも面白そうに。

 ・・・・・・・・・・・・あう。気が付かれてたか。

 でもでも仕方ないっしょ。ココに配属されてから、ずーっと書類の束とばっか格闘だ。

 どっかでヤツアタリしとかないと身が保たん。





「頂けるものがございましたら、此方で処理致しますが」

「いや、当分大丈夫だ。というか、お前とクラウドの処理の早さのお陰で、お前達に回せる仕事が今はもう無い」





 話題を変えようとして出した科白にも、アッサリ返事を頂いた。

 つーか、仕事がないって。仕事がないってっっ。

 くぅうっっ、苦節29日、溜まりに溜まってた紙の山をひたすら処理して処理して処理して処理してっっ。

 ガンバッタ甲斐がありましたっっ。





「何処ぞの誰かが仕事を持ってくるなり何なりするまで暫く休め――――――余り、根を詰められても困る」





 心ん中でガッツポ−ズを取ってると、苦笑じみたセフィロスの声。

 持っていた紙を放り出して代わりにマグカップを手に立ち上がるその顔を見上げて、俺ははて、と首を傾げた。





「・・・・・・そんなつもりはありませんが」

「自覚の無い奴は皆そう言う」





 むぅ?ジカクないですか俺?

 そりゃ確かに毎日まいにちマイニチ毎日っっ、顔付き合わせんのが文字の羅列ばっかでイイ加減鬱々してたけど。

 それなりに慣れてますよ俺こーゆー事は。ロイロイんトコで。

 いやロイロイが溜め込んでた量に比べたら、こんなの序の口。しかもセフィロスはロイロイと違って逃げないしさ。

 だからそんな周りが気を揉むホド無理なんてしちゃいませんよ?





「全く、お前は・・・・・・俺も人に言えた義理ではないがな、もう少し自分に気を配れ」

「はあ・・・・・・って、あのっ」





 苦笑と一緒に、乗ってたマグカップごとトレイを取り上げられて、思わず驚いた。

 そのままナニをするかと思ったら、コーナーに備えてあるソファセットにセフィロスは向かって。

 ・・・・・・・・・・・・座れ、ってコトね。

 くつろぐみたく上座に座ったセフィロスに倣うようにして、俺も座る。

 すらりとした足を組んで、静かにカップを傾ける仕草が何とも・・・・・・どーしてこー、イチイチ絵になるんでしょーかねこの人は。





「最近、顔色が悪い――――――、お前ちゃんと食べているのか」

「ええ、まあ・・・・・・其れなりには」

「どれくらいだ?」

「・・・・・・・・・・・・何時も、昼に・・・・・・・・・・・・」

「昼に?朝は、晩は?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





 うわ、セフィロス視線が鋭くなったよこわいコワイ。

 だって仕方ないじゃんん〜〜〜〜。俺朝弱いんだよ〜〜〜〜。

 しかも帰って1人分作るってのがメンドくさくてメンドくさくて〜〜〜〜。





「・・・・・・お前仮にも兵士だろう?自己の体調管理は基本中の基本だぞ」

「・・・・・・・・・・・・済みません」

「謝るくらいならしっかりしろ・・・・・・全く、だからそんなに細いんだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・クラウドも結構細いですが」

「アレは細くて当り前だ。身長がそうないからな。だがきちんと標準の体格をしているぞ」





 ・・・・・・ヤ、ヤブヘビだった・・・・・・

 密か〜に責めてるオーラがちくちくイタイ。

 ・・・・・・でも仕方ないじゃん。俺って元々あんまし食わない方だし、食っても身になんねーんだもん・・・・・・





 ちびちび。

 両手で抱えるようにしてカップ持って、舐めるようにコーヒーもどきを口にする。

 なんかビミョーに居心地悪くって、ちっちゃく縮こまるしかありません。

 そんな俺を見てたセフィロスが、ふ、と目を和ませた。





「――――――そう云えば。お前とこうして2人で、しかもこんな話をするのは初めてだな」

「・・・・・・そうですか?」

「何時もはお前をガードする双璧のナイトがいるだろう」





 な、ないと、って。クラとザックス?

 ・・・・・・・・・・・・確かにあの2人俺に関しちゃすっげ過保護だけどさー。

 そんな頼りなさ気に見えますか俺。

 フクザツな表情を浮かべた俺に、英雄サマはくつ、と小さく笑みを漏らした。





「先ずはウエイトを増やす事だな」

























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