Ver.Zack





「なーなーちゃん。」

「はい、サー・ザックス」





 時計の針が17:00を指した瞬間に、がばっと上体起き上がらせて呼んだら。

 返ってきたのはへーたんとした声だけ。視線はPCのウィンドウ、指はキーボードの上で軽やかに踊ったまんまだ。

 ソレでも俺は、めげずにちゃんに話し掛ける。





「とけい、とけい。5時。もー5時。」

「そうですね」

「勤務時間おーわーりー」

「お疲れ様です」

「っっだあああっっ!!全っっ然オツカレサマって態度ちがうし!!」

「喧しい」

「ほぐっっ!?」





 いって――――っっ!!

 何なにナニ!?今後頭部にげいん、ってっっ、げいんって!!

 にーさん今俺の頭に一体ナニぶつけた!?





 思わず涙目になりながら、ゴトンと俺の足元に落ちたモノに目をやれば。

 ソレは、記憶違いでなけりゃにーさんのデスクの上にあったハズの。

 重量感ある、置時計。





「・・・・・・・・・・・・って、んなの投げんな打ち所悪けりゃ死ぬだろ――――っっ!!」

「殺しても死にそうにないヤツが良く言う」

「少し静かにして頂けませんかソルジャー・ザックス」





 ・・・・・・に、にーさんは兎も角クラウドまで・・・・・・

 つ、冷たい。なんて冷たいんだこの職場。

 ・・・・・・・・・・・・なんかホントに、転職考えよーかな・・・・・・・・・・・・





 い、いやいやいやいや。

 せっかくせっかく、ちゃんとクラウドと仲良く出来るチャンス。

 頑張れ俺。負けるな俺。未来はきっと明るいぞ!!





「・・・・・・うえーんちゃーんにーさんとクラウドがいぢめる〜〜〜〜」

「良かったですね」





 明るい未来を確立すべく。

 手始めに、すごすごとちゃんの座るデスクに四つん這いで近付いてぎうっと足に懐いたら。

 ぽんぽんと頭を撫でられながらサラリと一言。

 ・・・・・・な、なんか違う・・・・・・絶っっ対、なんか違うっっ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・でも頭撫でてくれたから、いっか。

 そのままちゃんの足に懐いて、顎をちゃんの太股に乗せてみる・・・・・・振り払われない。

 よっしゃグッジョブ俺!!このまま一気にちゃんとの親密度あーっぷ!!





 ――――――かたん。





 後ろからそんな音がした。

 ・・・・・・・・・・・・んん?『かたん』?

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・な、なんか、イヤ〜な予感びしばし。

 ぎぎぎぎぎぃ、と、首を回して見れば。





「・・・・・・・・・・・・ザックス、貴様」

「・・・・・・・・・・・・そんなにあの世が見たいんですか」

「あ、いいいいいやあああああのこここここれは」





 ――――――顔・面・蒼・白。

 ゆらぁり、と立ち上がったにーさんが幽鬼みたいでコワイです。

 ずもももも、と迫るクラウドのオーラがどす黒いです。

 しかもにーさん何ソレなんで正宗持ってんの!?

 クククククラウド拳作って指ばきべきぼきって、まじシャレんなんねぇから!!





 思わずちゃんの腰にしがみ付いて、椅子の後ろに回って隠れる。

 そしたら、ちゃんが小さく溜息を吐いてキーボードをカタカタ鳴らしていた指を止めた。





「サー・セフィロス、大人気も無く室内で刃物を振り回すのは止めて下さいね」

「・・・・・・っ。ああ、判った」

「クラウド、此処で君が暴れた場合室内の修復費は全て君に回しますから」

「・・・・・・・・・・・・了解」





 ・・・・・・おお。すげぇ。大人しくなったよ。クラウドだけじゃなくにーさんまで。ちゃんの一言で。





 クラウドは、まあ、判るんだけどさ。

 なんかホンット、ちゃんは特別ー!!感持ってんのが。

 今までずっと一緒にいた所為か、鈍な兄貴を害虫から守るのは俺だみてーな弟的使命感に燃えてるっつーか何つーか。





 ・・・・・・・・・・・・けど、ナニユエにーさんまで?

 俺とは違って、にーさんちゃんに会ったの今日で2回目だよな?

 なのにどーしてクラウドみたく守らねぇと!!的使命感に燃えちゃってんの。





 ――――――や。まあ、ちゃんて堅そうに見えてちょっと突付いたらパキンッていっちまう様な感じあるから。

 守んなきゃ、って思っちまうの、判るんだけどね。

 だって、俺だって掻き立てられてんもん。庇護欲。





「其れから、宜しいですかサー・ザックス」

「俺?なになに?」

「鬱陶しいので離れて下さい」





 ・・・・・・・・・・・・がくー。

 目を向けられた上に声を掛けられたかと思ったら、まぁなんて素っ気無いお言葉。

 しかもにーさんとクラウドの「ザマミロ」的な視線!!

 なんかム・カ・ツ・ク――――っっ。

 ・・・・・・だけどココでごねたら本当にクラウド暴れたりにーさん抜刀したりしそうだから、泣く泣くちゃんの腰から手を離す。

 んでもって、ちょこんとちゃんが座ってる椅子の傍らに座ると。

 ちゃんはプリントアウトした書類の束をとんとんと整えて、かたりと立ち上がった。





「取り合えず、本日付けで提出期限切れとなる書類につきましては、一通り纏めさせて頂きました」

「・・・・・・・・・・・・早いね」

「仕事ですから」





 ぽふん、と紙の束を渡される。ホント、コレ全部やっつけるたぁ、すっげぇよ。

 しかもその足で、どーでもいー部類に入る書類の山に向かうんだから。

 デスクワーク嫌いの俺にゃ、とてもとてもマネ出来ません。





「クラウド、其方は?」

「漸く4分の1」





 ・・・・・・・・・・・・いやソレ『ようやく』じゃなくて『もう』だぞクラウド。

 なんでそんな片すの早ぇの2人して。





「手伝います」

「いや、2人共切りの良い処で今日は上がれ」

「・・・・・・・・・・・・宜しいのですか?」

「初日から根を詰め過ぎて倒れられても困る。其れにさっきのザックスの言葉じゃないがな。勤務時間はもう過ぎた」

「「了解致しました」」





 書類の山に手を出そうとしたちゃんににーさんが苦笑でもって答えると、クラウドと揃って返事を返す。

 やっほーい終わった終わった!

 俺もちゃんもクラウドも、晴れて自由の身!!

 そんじゃあ、ま、誘いますか!!





ちゃんクラウドコレからヒマ?ヒマだよな?メシ食いにいこーぜっっ」

「いえ暇じゃありませんので」

「謹んで辞退申し上げます」

「っっっ何でなんでナンで――――っっ!?」

「荷解きが終わっておりません」

「今晩の寝床だけは確保したいので」





 うううう。素早い切り返しだ。

 ・・・・・・何でこの2人って、こー阿吽の呼吸みてーに・・・・・・





「そう云えば、お前達は今日からソルジャー住居区の寮に移ったんだったな」

「はい、サー」

「何処の寮に入ったんだ?」

「・・・・・・・・・・・・ウエストサイド、ソルジャー1st寮A棟1004号室です」

「・・・・・・・・・・・・自分は其の横の1003号室です」

「――――――へ?」





 しくしく泣きが入ってた俺の耳にちゃんのそんな言葉が入ってきて、思わずパッと顔を上げた。

 ソルジャー住居区。ウエストサイド。

 1st寮のA棟、1004号室?

 ・・・・・・ソレって、もしかして、もしかしなくても・・・・・・





「俺の隣じゃん」





 1stに上がるからって、俺がこないだ・・・・・・っつっても3日前だけど。引っ越したのが、1005号室。

 ちなみに、ひとつ上の11階、1フロアいっこまるまる、にーさんの部屋だ。

 って事はぁ?

 ちゃんが俺のお隣さん!?んでんで、クラウドがそのまた隣!?

 ブラボー神サマ!!ブラボー人事!!憎い事やってくれるぜこんちくしょう!!





「そうか、俺の部屋の下の階に来たのか」

「お隣さんお隣さんっっ、コレからいっちょ宜しく頼むぜ!」





 なんかすっげぇ機嫌のイイにーさんと、嬉しくて小躍りしそうな俺が笑ってそう言ったら。

 ちゃんとクラウドのヤツ、平和な日常が・・・・・・ってな感じででっかい溜息を吐いた。

 ソレ、どーゆー意味っすかねぇ?

























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