取り合えず急ぎの書類の最後の1枚を書き終えて、俺はだらーっと机の上に突っ伏した。
ちろ、と見上げた壁掛け時計の針は、18時17分を指している。
・・・・・・・・・・・・あー、もーこんな時間かー。夕メシ、食いにいかねーとなー・・・・・・・・・・・・
こないだすっげぇ美味い定食屋見つけたんだけど。
あいつ等、連れてったら喜ぶかも、なー・・・・・・一緒に、行きてぇ、な。
はう、と溜息を吐く。
そしたら、デカい硝子窓を背に自分のデスクで書類に目を通していたにーさんの、厳しいお言葉。
「鬱陶しいぞザックス。仕事が終わってまで其の溜息を振り撒くつもりならさっさと此処から出て行け」
「・・・・・・・・・・・・あのさー、こーゆー時は普通どうしたんだ?とかって聞かね?」
「『如何した、何かあったのか?』」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うっわーゼンッゼン心こもってねー」
判ってはいーたーけーどーさー。
もう少し、こう、何てーの?労わりとか心配とかしてくれたってイイんじゃねぇ?
なのにそんな、面倒臭そうに。眉間にシワ寄せて。
「・・・・・・・・・・・・はぁ〜〜〜〜」
「おい猿頭。俺の言った事が判っているか」
「判ってますよー。判ってるんだけど、ねー・・・・・・・・・・・・」
止まんねぇんだからしゃーねぇだろ。
つかホンットに冷てぇよなにーさんってば。
部下が傷心なんだぜ?ブレイクンハートなんだぜ?も少し気ぃ配れっての。
「・・・・・・・・・・・・ザックス、お前今日は本当に如何したんだ」
ぱら、と。見ていたハズの書類を置いて、にーさんが今度はきっちり俺の方に目を向ける。
およ。俺の心の声届いたんですか?
ソレとも、そんな今日の俺ってオカシイ?・・・・・・イヤうんちゃんと自覚はあるけど。
「・・・・・・いやねぇ、俺ってそんなうっとーしーのかって、ちっと、自己嫌悪に陥ってるトコ」
「何だやっと気が付いたのか」
「・・・・・・・・・・・・ソコでばっさり切り捨ててくれるにーさんがステキです。」
「そう褒めるな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・褒めてねぇ」
上司に恵まれないと感じた時にはス○ッフ○ービスおーじんじおーじんじ。
・・・・・・・・・・・・いやいやいやいや、何考えてんだ俺。今はソッチ方面の悩みじゃねーだろ。
そう。今俺がらしくないって言われるくらい悩んでんのは。
「・・・・・・俺、もしかしてすっげー嫌われてんのかなー・・・・・・」
そう。ソッチだソッチ。
つーか、声にしたら余計気落ちして、またまたでっかい溜息が。
思い出すのは、太陽みたいに眩しい金と、奇跡みたいに深い黒。
ひと目で視線が釘付けになって、次の流麗な動きに心を鷲掴みにされた。
光り輝く様に綺麗な少年と青年。
「・・・・・・・・・・・・ザックス」
「・・・・・・・・・・・・ぅえ?」
ひっくぅい声に視線を上げたら、何時の間にかにーさんが俺の端まで来ていた。
・・・・・・うあー、なんか鉄拳飛んでくっかもー・・・・・・ああほら手ぇ上がったっっ。
思わず身体硬くして首竦めてぎうっと目を瞑る。
最早条件反射。パブロフの犬。普段どんだけ俺がにーさんに殴られてるかよっっっく判る。
が。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほへ?」
「何だ馬鹿猿。その阿呆面は」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、てっきりゲンコツが落ちてくるモンだと思ってたから」
「そうか拳骨が良かったのか其れは悪かったな」
「いいいいいえいりませんいりません」
速攻遠慮した俺に、にーさんはそうか、て言って行為を続ける。
ぽふぽふと、俺の頭を撫で付ける手は、なんかすっげぇあり得なくて不器用っぽいけど、ソレナリには優しくて。
・・・・・・・・・・・・あ。ヤバい。なんかこうぐっとキた。
「・・・・・・・・・・・・なーにーさん。俺さー、仲良くなりてーんだよ、アイツ等とさ」
「ああ」
「一緒に遊んだり、バカ話したり、そーゆーの、してぇな、って思ってんだよ」
「そうか」
「だから俺すっげぇ頑張って仕事片してスケジュール調整してさ、今日だってアイツ等誘って遊び行くタメに有休もぎ取って」
「ほう、遊びに行くのにか」
「・・・・・・・・・・・・けどフられました。完膚無きまでに容赦無く」
「ああ。其れで。可笑しいと思っていたんだ。有給もぎ取ったくせに執務室に来るから。そうか、振られたのか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんかすっげ面白そうな、にーさん。」
そりゃ、初っ端から今まで、けっこー邪険に扱われてんの、判ってんだよ?
縦社会にすっげぇ拘ってるとか、俺といたらまたあんな事囃し立てられるかもしんねぇとか。
イチイチ言わなくても判るだろ、ってくらい、アイツ等態度で言ってんの、俺ちゃんと判ってんだよ。
――――――多分、ソレだけじゃなかったんだろうけど。
「・・・・・・あんな事、言わなきゃ良かったのかもなー・・・・・・」
「また人の神経逆撫でする様な事を言ったのか」
「違うって・・・・・・でも、そうだな。警戒は、されたかもしんねぇ。イヤ絶対された」
「・・・・・・如方に、何を言ったんだ?」
「・・・・・・・・・・・・ちゃんに。本気でやって欲しかったなって、つい」
俺の告白に、にーさんはしみじみ、ホンットーにしみじみと溜息を吐く。
な、なんだよー。仕方ねぇだろ俺戦闘バカなんだから。強いヤツとなら本気で戦り合いたいって思うじゃん。
にーさんだって、単純な技の競い合いは好きじゃねーか。
「お前は・・・・・・その後先考えずな言動をもう少し何とかしろ」
「へーへー・・・・・・って、にーさんもしかして判ってたの?」
「薄々な。クラウド・ストライフは、実力に身体が追い付いていない、そんな感じがしたから」
「・・・・・・ナニソレ?」
「知るか。だが・はそんな奴の連れだ。実力を隠していたとしても、何ら不思議では無い――――――其れに」
ばさ、と手の中に投げられてきた紙。
何だよこんな時にもしかして追加の書類かよ。やっぱこの人仕事の鬼だオニ。
とか何とか考えつつ、ソレでも逆らえなくて文面に目をやれば。
「――――――・・・・・・・・・・・・素行調査じゃねーのコレってアイツ等の。」
「何、そんなにしっかりと調べさせたものじゃない。精々、学校内での奴等の評判程度だ」
イヤでもソレだけだって、充分調査に当て嵌まんじゃねぇの?
名前から始まって、誕生日、血液型、出身地、年齢。兵士養成学校への入学志望動機。
ま、それっくらいのデータは、ちょちょいと調べりゃすぐ判んだけど。
――――――問題は、この下。動向や対人関係だ。
訓練や講義では優秀な模範生。休日はほぼ出不精。ヒマがありゃ図書室こもりっ放しの、予習復習のカタマリ。
親しい友人は皆無。いっつも2人セットで、他のヤツとは一線どころか5線も6線も引いてる。
ソレが何か見下してるみたいで、ちょっと出来が良いからってナマイキだアイツ等って感じで周りから目の敵にされてて。
教官連中も。優等生だけど優秀過ぎて扱い辛い、ってか。
・・・・・・・・・・・・なんっか、やっぱり、って単語が、頭ん中浮かんだ。
いっつも2人、なんて。周りから疎遠されてる、って。
――――――多分。きっと。ワザと、そんなふうに振舞ってたんだ。誰も、近付かない様に。誰も、寄せ付けない様に。
知られたらヤバイ事抱えてるから。だから俺も。踏み込ませなかった。
その証拠に、ココ。
たまに何時間もPCの前に2人して噛り付いてる?残された履歴から、予習の一環だと思われる?
何時間もって。モノ調べたりにゃ長過ぎる。何やってんだアイツ等。
・・・・・・なーんて、さ。そんなの。俺バカだからさ、別に気になんてしないのに。
「あの2人には何か秘密があるのだろう。だから必要以上に周囲を警戒する」
「・・・・・・あー、やっぱ?そんじゃ俺、もーアイツ等に近付けねーじゃん・・・・・・」
軽率だった。アイツ等は頭が良い。んでもって思慮深い。
1度警戒した人間を、笑って迎え入れる様な甘いヤツ等じゃねぇ。
――――――俺は、すっげぇ、気に入ってんのに。
「まあ、此れに懲りて軽はずみな言動は控える事だ」
「・・・・・・肝に銘じます。ってかもー遅いけど」
「素直だな。そんな奴には後々良い事が待っているかもしれんぞ?」
「・・・・・・何だよイイ事って。逃した魚はでけぇんだぞこんちくしょー」
ぐちぐち。
また溜息吐き出した俺の頭の上で、にーさんが小さく笑った気がした。
何だよそんなに俺の不幸が楽しいのかよ、って睨み上げてやろうとしたら。
「うぉわっっ!!?にににににーさん、なになに!?!?」
「まあ、今のところは、だ。この俺が飯を奢ってやろう。充分良い事だろう?」
「だだだからって何も担ぎ上げなくても!!」
「気にするな。ただのイヤガラセだ」
俵みたく担ぎ上げられた肩の下から、そんな事言われて。
俺はもう、言い返す気力もなくしましたよ。
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