「ルーファウス様、宜しいですか」
「・・・・・・何だ、ツォン」
「此方にサインを。至急お願い致します」
「・・・・・・・・・・・・ああ」
「後此方、本日中に目を通して頂かねばならない書類となっております」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・まだそんなに残ってるのか」
どさり、と音を立ててデスクの上に積まれた紙の束に、私は盛大な溜息を吐く。
だがツォンは、自業自得ですよと素知らぬ顔だ。
・・・・・・・・・・・・まだ怒っているのか。あれだけ私に小言を言ったのに、なんて心の狭い。
息抜きに外に出るくらい、もう少し大目に見てくれても良いじゃないか。
まあ、確かに今回は変なのに絡まれはしたが。
其れも事無きを得た上、直ぐに戻って来る破目になったのだし――――――あの、見た目も麗しい2人組のお陰で。
「――――――・・・・・・・・・・・・そう云えば、ツォン」
「はい」
「先日頼んだ調査は、如何なっている?」
ふ、とペンを走らせていた手を止めて訊ねる。
あれからずっと、気になっていた事だ。
色々と、引っ掛かりを覚える処が多過ぎた・・・・・・なんてアンバランスな、と思わずにはいられなかった。
そして何より、興味を持たずにいられなかった、あの2人の。
「其れでしたら、今レノに当らせております」
「・・・・・・・・・・・・レノに?」
「はい。彼に任せるのが1番早そうでしたので」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫なのか?」
私が不安に思うのも無理は無い筈だ。
タークスの中で、レノはほんの僅かばかり毛色が違うというか何というか。
いや、仕事が出来無い訳では無いんだ。寧ろ早い。只、雑なだけで。
・・・・・・だが其の雑、という事が、諜報活動を主としているタークスでは、可也の致命傷と成り得るのだが。
しかも今回、私が頼んだのは名前すら定かで無い人物の所在、素行の調査だ。
そんな地味で地道な上、時間と手の掛かる作業、あの大雑把者に出来るのか?
3日と経たずに匙を投げそうな気がするんだが。
「世間は広い様で狭いですから――――――おや」
「失礼しまーす」
「・・・・・・・・・・・・噂をすれば何とやら、だな」
ツォンの何やら含んだ様な言葉を掻き消す様にノックの音がして。
此方の返事も待たずに扉を開けた人間に、私は小さく息を吐く。
赤毛にゴーグルを付けた彼の顔は、1度瞬きをしてツォンと私を交互に見た。
「ウワサって俺のっすか?」
「ああ、お前は仕事が早い、という話をしていた処でな」
「・・・・・・のワリには、さっきソコでくしゃみ2回連発したんだぞ、と」
「其れは恐らく気の所為だろう――――――で?何かあったのか?」
「ああ、そうそう。一昨日言われた件、調書上がったんで、持って来たんだぞ、と」
胡乱な眼差しを事も無げに流してやれば、レノも其れ以上食い付くでも無く、ひらりと手に持った紙の束を振る。
・・・・・・・・・・・・ちょっと待て。
一昨日言われた、とは。ツォンが任せたヤツか?私が頼んだ?
其の調査の報告書だというのか其れは?
「・・・・・・・・・・・・本っっっ当に、早いにも程があるくらいお前は仕事が早いな」
「いやまあソレホドでも・・・・・・つかコレ英雄さんトコ持ってったヤツただ単にコピっただけだし」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
何故其処で『英雄』・・・・・・セフィロスが出てくる。
しかもコピったって。原本はセフィロスが持っている、という事か?
――――――何故、彼があの2人の事を調べているんだ。
「申し上げたでしょう?世間は広い様で狭い、と」
「まさか坊ちゃんを暴漢から救ったのがあの2人だったなんて思ってもみなかったぞ、と」
疑問がありありと顔に出ていたのだろう。首を傾げる私に、ツォンは苦笑の様な笑みを浮かべる。
しかも続いたレノの言葉。
其れは、まるで――――――そう、まるで。
「お前達、まさか彼等の事を知っているのか?」
「直接的に、ではありませんが」
「俺も直に会った事はありませんけど。ある意味ゆーめーな2人なんだぞ、と」
「養成学校では、騒がれている様ですよ」
――――――何だ。本当に訓練生だったのか、あの2人は。
可也、半信半疑だったんだが。如何にも、訓練生というには強過ぎたから。
まだ上等兵、若しくは下士官だと言われた方が納得出来る強さだ、あれは。
・・・・・・・・・・・・まあ、かといって上等兵だとか下士官だとか言われれば、其れは其れで疑問に思うがな。年齢的に。
最年少でソルジャーにまで昇り詰めたあのザックス・フェイですら、当時15歳だったんだ。
黒髪の方は兎も角、金髪の方は在り得ない。
「其れにしても有名人、か・・・・・・まあ、あの容姿だからな、騒がれても仕方無いだろうが」
「イヤソレもあるんだけど、騒がれてんのはその所為だけじゃないんだぞ、と」
「ルーファウス様、覚えておいでですか?今年の入隊式の式典会場で、騒ぎが起こりました事を」
「ああ、そういえば。新入生同士でいざこざがあったと聞いていたが・・・・・・まさか」
「ええ、売られた喧嘩を買って相手を病院送りにしたのはあの2人です」
――――――・・・・・・・・・・・・成る程。
彼等は入学当初から、あの腕っ節を既に持っていたという事か。
何処で培って来たのかは判らないが、まあ、世の中探せば一般兵より強い猟師もいるというからな。
其の上、容貌がああで中身がアレだったら、有名にもなるだろう。
「他にも、ザックスのお気に入りだったり、評価SS叩き出したり、色々ネタはあるんだぞ、と」
「セフィロスが彼等を自分とザックス付の下士官にする手続きを取っていますしね」
「・・・・・・・・・・・・下士官に?セフィロスが!?」
妙な処で納得していた私だったが、次々出てくる発言に、思わず素で驚きの声を上げた。
下士官など足手纏いだ邪魔だ要らん、と。
常日頃から豪語してハイデッカー辺りからの紹介状を、悉く、そう悉く、握り潰している。
あの、セフィロスがか?
「・・・・・・・・・・・・其の調査報告書は、其れでセフィロスが?」
「そう。1週間くらい前ですかね。自分の下士官になる人間の人となりくらい知っておいた方が良いだろう、って」
――――――そう、なのか。
あの、他人に興味を示さない、ザックスくらいしか傍に置いた事の無いセフィロスが。
・・・・・・・・・・・・いや。最初はザックスすら、眼中に無かったな。
今、セフィロスがザックスを傍に置いているのは、ザックス自身の涙ぐましい努力の結果だ。
そんな、彼が。自ら下士官を選ぶ、なんて。
其れが、あの2人だなんて。
「――――――其れは、また」
「何か仰いましたか、ルーファウス様?」
「いや、何も?――――――貰おうか」
「はい、どーぞ」
レノから報告書を受け取りながら、私は此方を振り返ったツォンに完璧な笑顔を向ける。
・・・・・・・・・・・・其れはまた、楽しくなりそうだ。
彼等が下士官になった頃に、是非、遊びに出向いてやろう。
そんな事を、考えながら。
――――――だが、目を通し始めた報告書に、思わず眉を顰めたのは、数分後の事。
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