2人してスラムへ繰り出すのは、入隊式の前以来だ。
あの時の俺って、ホントにおのぼりさんみたくクラの後をきょろきょろしながら歩いてたけど。
今日もあん時とあんまり変わってませーんあははは。
色んな商品の前に立ち止まっては、あれカワイーとかクラに似合うかもーとかでも買わなーいとか言ったりしてさ。
クラもそんな俺に合わせてくれるから、もー楽しいのなんのって。
1時くらいまでそんな事をやって、そーいや今日は朝なんも食べてなかったよな、って思い出した。
「何食う?」
「んー手持ち少ないから、安くてふつーにおいしかったら何でも」
「ジャンクフードで良いか?この先にバーガーショップがある」
「ゼンゼンおっけー」
お腹に手をやって言う俺を、クラはくすと笑って引っ張る。
俺の右手とクラの左手は、宿舎を出た時からずっと繋がったまんま。
迷子防止の逸れ防止だ、ってクラは言ってたけど。
「ねえクラ。もーそろそろ手離さない?」
「そろそろも何も無理だな」
「俺だって糸の切れた凧じゃないんだからさー、そー何度も逸れたりしないよー?」
「そう言って今まで逸れなかった事があったか?其れとも迷子になった回数上げてやろうか?俺はちゃんと覚えてるぞ?」
「・・・・・・・・・・・・イヤやっぱイイですこのままで・・・・・・・・・・・・」
ちろん、と俺を見上げた青い目に、俺はすごすご尻込み。
ああ、言い返せないってツライなぁ、なんて思いながら、ぽてぽてとクラの少し後ろを手を引かれながら歩く。
そんな、時だった。
――――――複数の人間が、言い争う声が聞こえたのは。
2人揃って、足を止める。
ふと巡らせた視界の中。細い路地に、ソレらしき人の固まり。
ココからは結構遠くて、親指くらいの大きさに見えたけど、5人くらいのゴロツキに絡まれてたのは、鮮やかな白で。
その色に気付いたクラが、うわ、と小さく声を漏らしたのを、俺はちゃんと聞き逃さなかった。
「クラ、お知り合い?」
「・・・・・・知り合いも何も・・・・・・」
嘆息。でっかい溜息。どーしてこんな処にいるんだ、って、嘆く素振りを見せるクラ。
・・・・・・だから、お知り合いなの?どーなの?
「あれ、ルーファウスだ」
「誰ソレ?」
「ルーファウス・神羅。神羅カンパニーの副社長」
「・・・・・・・・・・・・うわっちゃー・・・・・・・・・・・・」
こめかみに指を当てるクラの横で、俺は片手で顔を覆いながら空を仰いだ。
なんでそんなエライ人が、こんなお世辞にも治安がイイとは言えないトコに。
「・・・・・・・・・・・・大方、息抜きとか称して仕事抜け出して来たんだろうな・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・どーするの、アレ・・・・・・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・如何しよう・・・・・・・・・・・・」
顔を見合わせて、首を傾げる。
まー見ちゃった以上、知らない振りは出来ないんだろーけどねぇ?
とか何とか考えてるウチに、言い争う声が白熱してってます。ああっ、今腕掴まれちゃったよっルーファウス様っ。
「・・・・・・悪い。朝昼兼用の飯はもう少し後だ」
「あいあいさー」
「因みにルーファウスの正体俺達は知らない方向で」
「ぅえ?なんで?」
「敬語使うのが面倒臭い」
「・・・・・・ハイハイ。」
言うが早いか、クラは細い路地を入っていく。続いて俺も。
俺もクラもカナリの俊足だから、開いていた距離はあっという間に縮んでった。
「いーじゃねーか。1回くらいよぉ?悪い様にはしねぇ、っつってんだぜ?」
「――――――だから其れは断ると、何度言ったら君達の其の素晴らしく働きの悪そうな脳は理解するんだ?」
「・・・・・・・・・・・・ほおう。この状態でまだそんな減らず口が叩けるとは、イイねぇその気の強さ」
うわっほい。毒舌家さんだよあの人。しかもこんな場面で相手さん逆撫でするみたく。
かーなーり、イイ性格してんね。肝も据わってるし。うん、気に入った。
てなワケで、ルーファウス様の顔に伸びようとしたヤツのもう片方の腕を、振り払ってやる。
その間に、クラは男とルーファウス様の間に割って入って、彼の腕掴んでた手をばしんと叩き落とした。
「そのヘンにしときなよ。この子、嫌がってるじゃん」
「っってぇ・・・・・・!」
「なんだテメェ等・・・・・・っっ!?」
イキナリの乱入者に言い掛けた科白は、俺達の顔を見た途端に呆気に取られて。
けど、ソレも束の間だ。
直ぐに我に返って、今度はニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべ出す。
・・・・・・・・・・・・ああもう。こーゆーヤツ等って、この後の言動がすっげ予想出来るからヤだ。
「・・・・・・ひゅー。こりゃまた。すっげぇ上玉じゃねぇか」
「何だいお嬢ちゃんたちぃ。コイツのお友達かい?」
「それとも俺等と混ざって遊びたいのかなぁ?」
やっぱし。
しかもそんなヤツ等の科白に、クラの片眉がヒクリと動くし。
「何処に目を付けているんだ何処に。俺もも、正真正銘、男だ」
「っはぁ?冗談はいけねぇぜお嬢ちゃん?」
「お前等の一体ドコが男だってんだ、ああ?」
「まあ仮に男だったとしても、こんな綺麗処、見過ごすワケにゃいかねぇなあ」
ああああ。黄金パターン。しかも地雷踏んだ。お嬢ちゃん、はクラには禁句なんだぞぅ?
んでもって、案の定クラは、キれる寸前。
「・・・・・・・・・・・・冗談・・・・・・・・・・・・?仮に・・・・・・・・・・・・?」
「イヤあのねクラ、ちょっと落ち着いて」
「、黙ってろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハイ。」
ぎろん、と睨まれて、俺はやっぱりすごすごと下がる。
そんな俺にクラは一瞬だけ、小さく笑って。
――――――次の瞬間には、目の前から掻き消えた。
いや、正確には消えたんじゃなくて、ふつーの人の眼には消えた様に見えるくらいの速さで、動いただけだ。
だって俺はちゃんとクラの動き捉えてるもん。
そしてその一拍後には・・・・・・・・・・・・無様に吹っ飛んで地面とオトモダチになっている、ゴロツキ2人。
まず1人目の鳩尾に拳一発。その後くるっと回転して、2人目の横っ面に回し蹴り一発。
いやー、いつ見てもお見事です。
「っっ!?てめぇ、よくも!!」
「こんの・・・・・・っっ!」
「はいはーい。よそ見はえぬじー」
ぎょっとして、止まったクラに飛びかかろうとしたゴロツキそのさんそのよんを、今度は俺がかるーくノックアウト。
振り上げた脚の脛で1人目の顔面砕いて、2人目の脳天に踵落とししただけなんだけどね。
案の定意識が飛んじゃったみたいで、やっぱり地面とオトモダチ。
残ったゴロツキそのごは、一瞬にして逆転してしまった体勢に青い顔してたじたじだ。
「さて。残るはアンタ1人だが、如何する?」
「モチロン、俺等と遊んでくれるんだよねー?」
「ひ、ひぃぃいいっっ!!」
あ。逃げた。しかも仲間見捨てて1人であの人。所詮友情は薄っぺらい、みたいな?
なーんて眺めてたら、気が付いたヤツ等が1人、また1人、って感じで慌てて逃げ出してく。
後で、仲間内で一悶着やらかしそう。まー別に俺には関係ないけどー。んなコトより今はコッチだ。
後ろを振り返ってみれば、驚いて目を真ん丸くしてるルーファウス様のお姿。
「だいじょうぶ?」
「あ、ああ・・・・・・助かった、有り難う」
「この辺りは治安が悪いからな。1人で、しかもこんな路地裏に入るのは止めておいた方が良い」
「そうなのか。以後気を付けるよ」
俺とクラの声掛けに、素直に頷いたルーファウス様がふわっと笑う。うわ、かーわいー。
けど、その可愛い笑顔はすぐに消えて。代わりに見えたのは、探る様な、眼差し。
「其れにしても強いな、君達は。慣れている様だったが、この辺りの人間なのか?」
「違う。俺はニブルヘイムの出だ。はウータイ」
「・・・・・・・・・・・・そう、ニブルに、ウータイの。旅行か何かかい?」
あ、声まで硬くなった・・・・・・って、あそっか。
俺達を警戒してるんだ。見た目に似合わず強かったから。
特に俺。ウータイと新羅って、まだまだキナ臭い話がソコラ辺で飛び交ってるもんなー。
「いや、上京。俺達2人共兵士の卵なんだ。神羅カンパニーってあるだろ?アソコの兵士養成学校に通ってる」
「・・・・・・養成学校の?そうか、いや、しかし其れでも・・・・・・」
クラの説明でも、ルーファウス様はまだまだ納得いってないご様子です。
訓練兵にしちゃ強過ぎる?まーねそーでしょーともだって実際強いから理由なんて教えないけど。
だからもーソレ以上余計な事は考えなくていーです。
「君はアップタウンの人だよね。しかもスラムは不慣れっしょ。おうちどこ?送ってったげるよ」
「え?い、いや、助けて貰った上に、其処まで面倒を掛ける訳には・・・・・・」
「いや、送る。また同じ様なのに絡まれないとも限らないからな」
「しかし」
「はーいけってーい。んじゃさっそくれっつらごー。」
警戒からくるお断りなんだろーけど、そんなの俺等には通じません。警戒される謂れがないし。
ソレにほっといたら、ホントに第2のゴロツキドモに目ぇ付けられかねないからねこの人。
いートコの坊ちゃん丸出しなんだもん。服装から口調から雰囲気から何から。
だから、きゅってルーファウス様の手を握ってコチラの意思は変えませんと意思表示。
イキナリの事で、ルーファウス様ちょっと強張ったけど、気にせず一歩踏み出出そうとしたら。
・・・・・・・・・・・・何故か目の前に、にゅっと突き出された、手。
「・・・・・・・・・・・・クラ、なにこの手。」
「決まってるだろ。ほら、手」
「えー、まーたーつーなーぐーのー?」
「五月蠅い迷子常習犯。嫌なら周りきょろきょろして俺から逸れるな。最低限の道を覚えろ」
つ、冷たい。クラの視線がとっても冷たいぃい〜。
しかもなにその言い方。俺だって、何時もいつもイツも迷子になってるワケじゃないやいっ。
頭だって、イイんだしっ。道くらいちゃんと覚えてるさっ・・・・・・多分。
「おおおお覚えてるもん、道くらいっ」
「じゃあ駅はどっちだ?」
「ええええーと、あ・・・・・・あっち?」
「・・・・・・・・・・・・正反対だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、あはは」
盛大な溜息と一緒に正解を言われて、俺は空笑い。
と、繋いでたルーファウス様の手がビミョーに震えてるのに、気が付いた。
振り返ってみれば、口元に開いた方の手を当てて笑いを噛み殺しているルーファウス様のお姿。
ナニ笑ってんですかーもー、っていう俺の電波は受信されたらしくて、返って来た言葉は。
「・・・・・・す、すまない・・・・・・面白くて、つい・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・俺は面白くナイやい。」
ぶっくぅと膨れた俺の言葉に。
ルーファウス様は今度こそ、弾けた様に笑い出した。
しかもクラまで。
・・・・・・・・・・・ふーんだ。イジけてやる。
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