Ver.Cloud





「起きろ、

「・・・・・・んにー?」

「起・き・ろ、と言ってるんだ」

「・・・・・・・・・・・・んうー・・・・・・おねがいもーさんじかんだけ・・・・・・・・・・・・」





 俺の呼び掛けに、二段ベッドの下で丸まってたは、もぞもぞとシーツの中に潜る。

 ちょっとこめかみがヒクリとする姿だ。

 絶対起こしてくれ、とか昨晩言っておいて、この有様。





 ・・・・・・まあ、昨日は結構、いや可也、には負担を掛けてしまったからな。

 仕方が無いと小さく苦笑する。

 だってあんなもの、俺だって嫌だ。





 幾らメインが俺とザックスだったからといって、実際はセフィロスVSザックスだった模擬戦闘を中断させるなんて。

 ソルジャー同士の戦いに水を差す行いだ。下手をすれば間に立った瞬間にあの世逝き。

 まあ、ザックスはを気に入ってるし、セフィロスもを気に入った様だったから、そんな事は万が一にも在り得なかったが。





 其れよりも何よりも、辟易したのは其の後。

 何処で習った剣術なんだ、だの実戦経験ある感じがしたぞ何でだ、だの質問の嵐。

 口の上手くない俺の分まで、が相手して誤魔化してくれたからな。

 其の所為か、彼は部屋に帰ってくるなりバタンキューした。

 ・・・・・・暫く俺はに頭が上がらないかもしれない。





「・・・・・・スラムに行きたいとか言ってなかったか」

「・・・・・・・・・・・・ぅにゃ?すーらーむー・・・・・・?ああっっ、そーだスラムッッ!!」





 其れでも嘆息しながらボソリと言えば、はがばりと上体を起こして跳ね起きた。

 イキナリ元気だな、おい。





「クラクラッ、今何時ー!?」

「もうすぐ11時だが」

「っぎゃ――――っっ!!もー11時!?」





 俺の返事には叫び声を上げながら、バタバタと慌しく洗面所へダッシュする。

 かと思ったら、ものの何秒かで戻ってきて、今度はポイポイと寝巻き代わりのジャージを脱ぎ始めた。





 ――――――この瞬間だけは、幾ら俺でも心臓に悪いんじゃないかと常日頃思っている。

 だってあの顔で、この肢体が裸になるのだ。

 昨日のザックスの言葉じゃないが、其の気が無いヤツでも押し倒したくなる。

 俺としては、もう少し脱ぎ方に色気が欲しい・・・・・・いやそうじゃなくて、毎日見てて慣れたけどな・・・・・・ふっ。(遠い目)





「なぁんでもっと早く起こしてくんないのさクラのいけずっ」

「・・・・・・・・・・・・1度で起きないアンタが悪いんだろ」

「1度でダメなら何度でも起こしてよぅっっ。ああんせっかくの休みなのにもー半分潰れたぁあっっ」

「・・・・・・・・・・・・判った起きる、とか言っておいて、ベッドから出て来なかったのはアンタだろうが」





 すぽん、と襟の高い黒のノースリーブを着て、膝の破れた浅葱色のデニムパンツを穿きながら。

 微妙に嘆きの入ったの科白に、何故其処で俺が文句を言われなきゃならないんだ、と反論。

 俺はちゃんと、9時から30分おきに声を掛けたぞ。充分根気良いだろ。





「・・・・・・ううう。今日は絶対、クラと一緒にスラム遊び行くって決めてたーのーにー・・・・・・」

「・・・・・・は?俺もか?・・・・・・いや、俺は今日1日部屋で過ご」

「ダメだよクラ。イイ年した若いモンがそんな年寄り臭い」

「・・・・・・・・・・・・年寄り臭くて悪かったな」





 と、いうか。昨日あれだけ体力使い神経すり減らしたのに、何故次の日にまで疲れる様な事をしなきゃならない。

 しかも俺より疲弊してたのはの方なのに、如何してそんな、無駄に元気なんだ?





「ねーねークラー。遊びにいーこーおーよーぉ。気分転換くらいにはなるよー?」

「気分転換より、ゆっくり気を休ませる方が良い」

「気を休ませる、って。クラなに気ぃ張ってたの昨日?あんだけ美人さんと一緒にザックス本気でいぢめといて?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





 ――――――根に持ってたな、やっぱり。

 幾ら俺の肉体が14歳で、あの頃と比べると腕力も持久力も劣っているとはいえ。

 昨日のVSザックス戦で、この身体で出せる限りの力を・・・・・・俺が本気を出していた事も。

 其の尻拭いの如く、俺が酸欠で動けなくなっていた間、周囲の質問責めに1人追われていた事も。

 ・・・・・・・・・・・・しっかりきっちり、根に持っていやがる。





「やっぱ1番のストレス解消っつったら、思いっきり身体動かす事だよねぇ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・悪かった。全部アンタに押し付けた俺が悪かった」

「じゃ行く?遊び行く?ねえねえ、ねえ?」

「『じゃ』て何だ『じゃ』、て。其れと此れとは話が別」

「・・・・・・うー。じゃ、いーや。俺1人で行ってこよっと」





 ――――――・・・・・・・・・・・・ちょっと待て。

 何だ其のあっさりとした切り替えの速さは。

 しかもさり気無く爆弾投下に等しい宣言かましたぞオイ。





「・・・・・・1人で行くのは却下だ」

「なんで」

「・・・・・・・・・・・・なら聞くがな、。アンタ、消灯時間までにちゃんと帰って来れるのか?」

「まあなるよーになるっしょ」





 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・駄目だ。とてもじゃないが、を1人でなんて行かせられない。

 というか、外出させる事自体が危険だ。

 ――――――別に、見た目が奇跡の様に綺麗過ぎるから、なんて理由じゃないぞ。

 ゴロツキだろうが誘拐犯だろうが、なら絶対笑って蹴散らせるからな。

 問題は、別にある。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱり俺も行く」

「ほえ?何故ナニどーしてイキナリ意思換え?」

「アンタ絶対迷うから」





 そう。事もあろうに、彼ときたら。まさかワザとやってるんじゃないのかと思う程。真剣に。如何しようも無く。

 ――――――極度の、方向音痴、なのだ。





 でかいでかい溜息を吐きながら、取り合えず財布だけを持ち、部屋の扉を開けて廊下に出る。

 まあたまには息抜きも必要、と何度も何度も自分に言い聞かせつつ。

 ・・・・・・・・・・・・何だかザックスに引っ張りまわされていた時の事を思い出すな。





 ふと思い当たって、頭を振った。

 止めろ。思い出すな。『今』は『過去』じゃない。全く、違っているんだ。

 だって俺は、未だにザックスから距離を取る事を諦めてはいない。必要以上の接触を拒否しているんだ。

 ・・・・・・・・・・・・寂しい、とは思うけど。嘗ては築いた、親友の位置を。今は望んでいないから。

 そういう考えに行き付いた、時だった。





「――――――クラウド」





 ふ、と柔らかな声音。優しく頬を撫でながら通り過ぎる、風の様な。

 見上げればの、深い黒耀。





「君は諦める事に慣れてるみたいだけど。でも、其れは余り良い傾向とは言えない」

「――――――・・・・・・・・・・・・」

「我慢しないで。君は君の、望みを叶えようとして、良いんだよ?」





 浮かべられた微笑は慈愛。虹彩が、あの朱金と青銀で無いのが勿体無いと思う。

 其れでも。爆ぜて芽吹く若葉の様な。雪の下から現れ出でる華の蕾の様な。風と遊ぶ純白の羽根の様な。

 この世のもので無い程、強く儚く美しい。





「君は手を伸ばした。俺はその手を取った。忘れないで。君の願いを叶える。その為に、俺は今ココにいるんだから」





 ――――――ああ。矢張りこの人は、天使だ。

 例え、其の羽根が純白では無いとしても。其の指先に鋭利な爪を生やしているとしても。

 俺にとっての、俺だけの、救いの天使。





「・・・・・・・・・・・・有り難う、

「いや別にイイんだけどお礼なんて」

「俺が言いたいんだ。黙って聞いていろ」

「・・・・・・はいはい。」





 肩を竦めるに、俺は笑う。

 何だかとても良い気分だ。今なら何時もの陰口だろうが、笑って聞き流せる気がする。





「さて、と。それじゃあ行くか。俺の気が変わる前に」

「やっほぃっ、ひっさしぶりにクラとでぇとっ、クラとでぇとっvv」

「・・・・・・・・・・・・あ。気が変わりそう」

「ゴメンナサイモウ言イマセン。」





 2人して軽口を叩き合い。

 俺はの手を取ると、促す様に廊下を歩き出した。

 そういえば、と手を繋ぐのは此れで何度目になるんだろう、なんて考えながら。

























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