ぎぃん、と鍔弾き合う音が響く。
刃を挟んで、間近に迫ったのは静かに凪いだ海の表面の様な青。
其の、色彩に。思わず見惚れそうになる。
――――――何だ?今、一瞬。だが確かに。
此れと同じ色を、以前何処かで見た事がある気がした。
ふ、と脳裏に過った思考に、一瞬振り下ろされた剣への反応が遅れる。
がち、と。辛うじて受け止めたが、腕に響いた振動はとても重かった。
・・・・・・・・・・・・全く。黙って立っていれば少女にも見紛う程だというのに。
其の細身の身体の一体何処に、こんな力があるのか。
「・・・・・・あの、やっぱり、止めませんか?」
たたん、と軽やかに飛び退ったクラウドが、此方を伺う様に2度目の中止を促す科白。
俺は器用に、目を細め片眉を跳ね上げてやった。
「何だ、怖気付いたのか?」
「まあ、そう取って下さっても構わないんですけど」
「ですけど?」
「何だか、余り乗り気ではなさそうなので」
安い挑発には、乗らない。何があっても何処か冷静な部分は失わない。
尚且つ、きちんと相手の事を見ている。
良い人材だ。兵士として、必要な要素を兼ね備えている。
・・・・・・俺が気を逸らしたのは、ほんの一瞬だというのにな。
「ああ、悪かったな。少し考え事をしていた。此れからは此方に集中する事にしよう」
「・・・・・・続けるんですか・・・・・・でしたら、手加減、忘れないで下さい、ねっ!!」
言葉と共に、またも早い踏み込み。鋭い剣戟が続け様に襲う。
其れ等全てを真っ向から受け、或いは紙一重で交わし。
大きく下がった処を、一歩踏み込んで上段から剣を振り下ろしてみた。
「っっ!!」
重心を下げる事で其の一撃を遣り過し、一瞬開いた俺の脇腹に向かって右脚が振り上げられる。
其れを思わず左手で掴めば、反動を付け其処を軸にし、身体を捻って更に顔目掛けて蹴り上げられた左脚。
咄嗟に身を後ろに引いて、掴んだ脚を離す。
そんな俺を傍目に、クラウドは地面に片手を付いて綺麗に着地し、再び剣を構えた。
「・・・・・・ふむ。本当に筋が良いな。一撃一撃に重みがある上に、其の機敏性と柔軟性」
「お褒めの言葉、光栄です」
今直ぐにでも実戦で使える。本当に、何故未だに訓練生なのか。
そう漏らした言葉に、クラウドは何処と無くこそばゆそうな微かな笑みを浮かべ。
――――――とくん、と。鼓動がひとつ跳ねた、気がした。
・・・・・・・・・・・・訓練生で、良かったのかもしれないな。不意にそう、考える。
訓練生で、ザックスと面識があったから。奴が興味を持ったから。
でなければ、俺は今こうして、コイツを知る事も無かっただろう。
彼等が始めから問題を起こしていなければ。力の片鱗を垣間見せなければ。
あの猿が其処に目敏く気付き、気に入っていなければ。
何個隊にも分かれる軍隊。もし其の中の初等兵の1人となっていれば。
俺は多分、其の他大勢の内の1人として気付きもしなかった。
何だかとても良いものを見つけた気分だ。
・・・・・・後でザックスに、酒の一杯でも奢らないといけないだろうという事は、少々癪だが。
竜と化けるか虎と成るか。将来が楽しみな子供。
――――――何より、其の青の双眸は、何かとても、暖かな感覚を思い起こさせる。
「準備体操はそろそろ終わりにして、少し・・・・・・本気を出す事にしよう」
「・・・・・・・・・・・・ホンットーに、手加減して下さいね・・・・・・・・・・・・」
ひゅん、と。
手首だけで構えた剣を回転させて、僅かのぶれも見せず、止めれば。
少年は、少々顔を強張らせながら、重心を落とし真正面から突っ込んできた。
良い踏み込みだ。
流石は、あのザックスが一目で気に入って、目下取り入ろうとしているコンビの片割れ。
さて、もう少し楽しませて貰うとしようか。
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