号令が掛かった後のちゃんの雰囲気が、ほんの少しだけ変わった。
ぶらん、と右手から提げられたサーベルはそのままに。左手もまた、そのまま下げて。
俺に向かって、右側が前に来る感じで、上体を斜めに、そして肩幅くらいに足を開いて。
端から見りゃただ立ってるだけ、だが。コイツは本格的な構えの姿勢だ。
・・・・・・・・・・・・その証拠に、スキが全く、ない。
自分如きに俺の相手など務まらないなんて、あんなの絶対、嘘っぱちだ。
こりゃ舐めて掛かると痛い目見んのはコッチだな、と判断して、俺も剣を構える。
「――――――行きます」
静かな静かなひと言。
と同時に、ちゃんはイキナリ剣の柄を左手に持ち変えた。しかも、逆手、に。
そして、踏み込む。
「――――――っっ!!?」
ぎぃんっっ!!――――と鉄と鉄とがぶつかり合う音。
下から掬い上げる様に来た斬撃を、剣の根元部分で止める。
・・・・・・早ぇ!!
とか思ってたら、そのままちゃんの身体が下に下がって、力の均衡を崩した俺の上体が、思わず前のめり。
ソコへひゅっと飛んで来た、足元を薙ぐ様な蹴りに慌てて、バランス整えつつバックステップで背後へ下がる。
俺の目の前には、再び構えの姿勢を取るちゃんの姿。
・・・・・・・・・・・・んっとに、甘かった。
SS叩き出したといっても、たかだか訓練生だと、まだ心のどっかで思ってた。
ハラ括ろう。今俺の目の前にいるのは、紛れもなく、1人の戦士だ。
「・・・・・・・・・・・・腕力はそーでもなさげだけど、速さは一級だね。力の受け流し方も上手い」
「有り難うございます」
「オマケに足技。まさかあのタイミングで出してくるとは思わんかった。もしかして剣術より体術得意?」
「どちらかと言うと。其れに此れは、模擬戦闘なのでしょう?」
「うんそーだけど」
「純粋な剣の試合でないのなら、手や足を出しても構わないと思うのですが」
大体、ソルジャー相手に形振り構っていられません、とぼやきながら。
ちゃき、と音を鳴らして構えられたサーベル。
胸の前当りで水平に。柄を持つ手はやっぱり、逆手。
さっきと同じで、スキと言えるスキは見えないんだけど。
にしても、面白い構え方だ。なんか訓練で教えてるのにこんな型ないよなー。
コレがちゃん本来のスタンツなのか。
ソレとも、日頃の教官の教え方があんまりお粗末なんで反抗心見せてますという現れ、か?
・・・・・・・・・・・・なんか後者ってかんじがビシバシする。
「ちゃん模擬戦闘の醍醐味判ってんねぇ。んじゃ、ま。ちょーっと本気出さしてもらおーかな」
「イエ良いです出さないで下さい」
「エンリョすんなよあっはっは」
「遠慮とは違いますから」
俺はどこかわくわくしながら、今度はコッチから仕掛けてやった。
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