Ver.Cloud





「にしても、すっごいね。この人の多さ。色んな人がいるや」

「・・・・・・アンタもう少し落ち着けよ」





 赤毛がいるよー、やら。灰色の眼なんてめっずらしー、やら。

 子供みたいにはしゃぐに、俺は少しだけ呆れる。

 全く。こっちはこの人の多さに酔いそうだというのに。





 神羅カンパニー。

 士官学校、及び神羅軍入隊隊式。





 500は軽く超えているだろう、大勢の人々が犇く中。

 俺はさっきみたいに逸れない様、横に並ぶの手を取り案内の人間に従って少しずつ移動していく。





 まるで親の心境だ。

 見掛けに寄らず幼い行動を取る彼は、眼を離せない。

 今も、俺に手を繋がれながら、きょろきょろと周りを見回している。





「ねえねえ、クラ」

「・・・・・・だから人の名前を勝手に略すなと・・・・・・いや、何だ?」

「クラって、式典出るの2回目だろ?どんな感じなの?」

「どんな感じ、と言われてもな・・・・・・」





 興味深々、な眼で見られて、俺の『過去』を思い出そうとする。

 確か、あの時は。





「ってぇな!!・・・・・・って、ああ?なーんだってオンナがんなトコにいんだよ?」





 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだった。

 確かに、前はこんな感じだった。





 どんっ、とにぶつかって来たヤツに、溜息が出そうになる。

 チラリ、と流す様に視線をやれば、ニヤニヤと下卑た笑みを顔に張り付かせた男。





 あの時にぶつかられたのは俺だが、あまり代わり映えしない状況。

 此方としては、関わり合いなどノシ付けて辞退申し上げたい処だが。

 絡む気満々のソイツに、内心どうしたものかと考える。





「おい、返事くらいしろよ、え?お嬢ちゃん達??」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・クラ」





 ひくり、と眉を戦慄かせた俺の手を、ギュッとが握ってきた。

 ・・・・・・・・・・・・判ってる。判ってるさ。

 此処で切れる程精神的に子供じゃないし、反応すれば相手の思う壺だという事も判っている。





 だが、良くも悪くも此処は人が大勢密集する場所。

 気付いた周囲が、興味深そうにチラチラと視線を送ってくる。

 中には、目の前の馬鹿に便乗して俺を貶める発言をしてくる奴や。

 俺の手を握ると、を庇う様にして立つ俺に質の悪いからかいを掛けてくる奴もいた。





 兎に角、思い出せ。

 前の時は、如何やって切り抜けたんだったか。

 以前は・・・・・・・・・・・・





「こんなほっせぇ腕して、剣や銃に振り回されんじゃねーのぉ?」

「いやいや、案外上手い事扱うかもしんねーぜぇ」

「ソレ言うなら扱うじゃなくて咥える、だろー?」

「ぎゃはははっっ。銃は銃でも、男の、ってかー?」





 ・・・・・・・・・・・・ぷちぷちっっ。





 何かが切れた音を聞いた。様な気がした。

 しかも2本。

 内1本は確かに俺の内部から聞こえたものだったが・・・・・・後1本は何処が発信源だ?





「・・・・・・・・・・・・クラウド」





 ・・・・・・ああ、確認するまでも無かったな。

 くいくいと引かれた手と、耳元の小さな呼び掛け。

 自然、身を寄せる様になったを見上げれば、綺麗な綺麗な微笑みが其処にあった。





「・・・・・・何だ、?」

「俺、ちょーっとさっきの雑音は聞き捨てならなかったんだけど」

「奇遇だな。俺もだ」

「んじゃ俺左」

「なら、俺は右だな」





 コソコソと小さく会話する俺達に、周りの下卑た笑いは更に強まる。

 笑っていられるのも今だけだ。

 お前等は、あの世行きに決定したんだからな。





「おいおい、乳繰り合ってねーで何とか言えよ」

「何なら俺達が手取り足取り、じっくりと・・・・・・・・・・・・グハッッ!?」





 言い掛けた男の言葉は、俺の回し蹴りに途中で切れた。

 其のまま懐に潜り込み、身体を沈めた体勢から勢い良く腹部に拳。

 そして前のめりになって呻いたところを、横へ避けてデカイ背中を踏み付けてやる。





 そして、俺と同時に動いたはと云えば。

 思い切り体重を乗せた膝をもう1人の不埒者の腹に減り込ませ。

 くるりと反転し其の遠心力で首筋にまた蹴りを入れ男を床とキスさせていた。





「・・・・・・ぐっ、て、てめ・・・・・・っっ!!」

「人を見掛けで判断するからだ」

「じごーじとくだよ」





 必死に立ち上がろうとする奴等は、コケにされた事が大層頭にきたのか。

 ぎらつく眼を俺達に向けてくるから、此方も構えを見せる。

 見る者が見れば、俺の力量を計る事も出来るだろう。

 だがこんな馬鹿達に、見極められる筈が無い。





 そうして。

 次の攻撃へ踏み込もうとした。

 その、瞬間だった。





「はーいはいはい。ケンカはソコまでー」





 重心を落とした俺と。すい、と奴等との間合いを計って一歩動いたの目の前に。

 落ち着き無く跳ねた黒髪と、背中。





 ・・・・・・・・・・・・思い、出した。

 前の時も、奴等の発言に切れて殴り掛かった俺を、こうやって。

 コイツが、真ん中に入って、止めたんだった。





 思わず固まった俺の肩に、の手がそろり、と触れる。

 見上げた横顔は困った様に小さく笑って。





「・・・・・・ザックス・フェア・・・・・・『英雄』セフィロスの副官」

「およ?俺の名前知ってんの?すっげー何時の間にかそんな有名になってたんだ俺ってあっはっはー」





 の言葉が聞こえていたのか、ザックスはカラカラ笑う。

 その豪快な笑い方は、昔と全然変わっていない。

 いや、彼にとっては、『昔』じゃなくて『今』・・・・・・此れから、なんだ。





 ・・・・・・如何しよう。感情が追い付かない。

 まさか。幾ら、忘れていたとはいえ。こんなに早く、顔を合わせるだなんて。

 覚悟はしていた筈だけれど、彼の五体満足な姿を見て、どうしようもなく泣きそうになる。





 パニックに陥りそうになって、けれど、俺を現実へ引き戻してくれたものがあった。

 優しく、握り込まれる、手。

 振り仰げば、相変わらず柔い笑みを穿いたの優しい眼が、俺を見下ろしていて。





 其れで、漸く冷静さを取り戻す。

 滞っていた息を、深く、深くから吐き出して。

 握っていた拳を、解して。





「・・・・・・すみません」

「んにゃ。別に誰が何処で何起こそうと俺等にメーワク掛かんなかったらいんだけどね」





 良いのか。

 思わず突っ込みそうになったが、前も同じ事を言われたのを思い出し、苦笑した。

 ザックスは、変わってない。

 過去の彼なのだから、同じで当り前なのに。

 何故だかそんな事に安堵するんだ。





「でも、まあ。入隊式早々乱闘騒ぎ起こしたんだ。ソレナリの罰は受けてもらうぜ?」





 そのまま大人しく着いてけよ、と。

 俺達が伸した奴等を、やって来た兵士へ引渡し、ザックスはヒラヒラと手を振って見送る。





「お前等も。・・・・・・まあ、見るからに先にチョッカイ出したのはアイツ等の方だったけどさ」





 其れでも、矢張り決まりは決まり。

 手を出してしまった以上は、両成敗。





 苦笑を浮かべるザックスに。

 俺達は顔を見合わせて、着いて来る様に促した兵士に、素直に従った。

























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