Ver.Zack





「・・・・・・なー、にーさん」

「何だ」

「・・・・・・その仏頂面、もちっとどーにかなんねぇ?」

「無理だな」





 間髪置かない切り返しに、俺はただ諾々とでっかい溜息を吐く。

 まあ、判らなくもねーけどさー。

 俺だってメンドイって思うもん。

 神羅の入隊式の出席なんて。





 金食い女やガハハ馬鹿とか腹黒プレジデントの、無駄に長ったらしい演説聞いてなきゃなんねぇし。

 ひよっこ達の視線はウザイし。

 退屈。たいくつ。ターイークーツー。





 だからって、気に入らねぇからフケるってワケにも暴れるってワケにもいかねぇ。

 んな事したら、後であのあたりとかあのあたりとかに、ネチネチ延々厭味言われるの判ってっし。

 ストレスが倍になる。





 あーもー、モンスター相手にバスターソード振り回してた方が気が楽ってモンだ。

 こんなん、俺やにーさんが出なくてもあんま変わんねぇだろに。





 『英雄』ってだけで。

 その副官ってだけで。

 歩く広告塔とか、看板とか言われてるけど。

 ぶっちゃけサラシ者だよな。俺等。





 式が始まる前の会場内は沢山の人間。

 みんな、それぞれ夢を持ってこの場に来たんだろう。

 初々しいの一言に限るねぇ。

 ・・・・・・・・・・・・兵士になる、ってのがどーゆー事か、全然判ってねぇから、んなトコまで来れんだろーけど。

 さて、今年はこの中のどんくらいが使えるのか。





 神羅の幹部とか来賓なんかが固まってる場所からは程遠い壁の隅っこの方。

 そんな事を考えてた俺と、仏頂面のにーさんのいる場所は。

 まるでパッカリとシールドが張られた様に、みんな遠巻きにして距離を取っている。





 そのくせ、ちらちらチラチラと。

 好奇。羨望。憧憬。そんな視線が、纏わり付いて吐き気がしそう。

 にーさんじゃねーけど眉間にシワ寄りそうになって、俺は気を紛らわそうと辺りに眼を向けた。





 その時だ。

 視界に、鮮やかな色が飛び込んだのは。





「なぁ、にーさん」

「何だ」

「アレ、何だと思う?」

「アレ?・・・・・・・・・・・・何だ、チョコボ、か?」

「なんでやねん」





 まあ確かにチョコボみたいな髪型だけど。

 素でボケてくれたにーさんにツッコミ入れながら、ソイツを凝視する。





 小柄な、すっげぇ小柄な少年だった。

 入隊規定ギリギリの、14歳と言われても嘘だろ、としか言えない様な。

 イヤそれ以上にホントに男かよ、って思っちまう様な。





 ここらじゃ珍しい天然のハニー・ブロンド。

 丸みが抜けてない、可憐な容姿。

 にこりともしてねぇその顔は、なんか氷で出来上がった彫像みてぇで。

 儚いとか。弱弱しいとか。壊れそう、だとか。そんな感想を抱かせる、子供。





 だけどソレを全部裏切って、その青い眼だけは、強い光を放っていた。





 子供が、動く。

 後ろから声を掛けられたみたいで、つい、と振り返って。





 ・・・・・・・・・・・・驚いた。





 笑ったよ。今。あの子供。

 硬質そうな雰囲気で、ぜってぇ笑った事なんかねーだろ、ってな感じだったのに。

 声を掛けた相手を見上げて。眉を顰めてひと言ふた言、話して。

 その後、しょうがないなぁ、って感じで、小さく、笑った。





 思わず、子供にそんな顔をさせた相手に眼をやる。

 ・・・・・・・・・・・・んで、俺はまたまた、驚くハメになった。





「・・・・・・・・・・・・にーさん」

「・・・・・・・・・・・・何だ」

「・・・・・・・・・・・・今年から女も入隊可能とか、そんな話、聞いた?」

「・・・・・・・・・・・・いや・・・・・・と云うかアレも男だろう」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジで?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・恐らく」





 すっげ自信のなさそうなにーさんの科白。

 そりゃそーだ。

 子供の傍らでふわりふわりと笑うのは、目も覚める様な美人。

 にーさんを見慣れてる俺でも、思わず息を呑んだ。





 雪みてーな白い肌に濡れた様な黒髪。

 子供の頭が胸の辺りにある。だから丈はありそうなのに、華奢だから掴めば折れちまいそうで。

 嘘みてーに、綺麗な人間。





 あの子供が苛烈な太陽だとしたら、コッチは静謐な月だ。





「・・・・・・なんかすっげぇなあの2人・・・・・・」





 口元を覆ってぼそっと漏らしたら、隣のにーさんがそうだな、と相槌を返してきた。

 俺やにーさんの視線が止まるくらいだ。

 1人でもすっげ目立つ美人なのに、ソレが2人もいるからその存在感は相乗効果以上。

 現に、2人の周りの人間は、俺等有名人よりもソッチに目がいってる。





 と、その中にあんまりヨロシクナイものを発見。

 コレは一悶着あるか?と思っていたら、案の定。





「ってぇな!!・・・・・・って、ああ?なーんだってオンナがんなトコにいんだよ?」





 品の悪い声は、俺等の耳にまで、届いた。

























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