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 嘗ての記憶を辿って、やって来た、街。

 ――――――ミッドガル・シティ。





 計算された都市計画。

 其の上で、美しく洗練された、選ばれし者にしか其の門を開かない。

 プレート上に築かれた、アップタウン。





 伸し上がろうという野望を持ち。

 しかし届かなかった手に、堕ちた人間が犯罪と快楽を求め溢れ返る。

 プレート下の、ダウンタウン。





 其れだけで奇抜な造りだと言えるこの街は、更に面倒な仕組みになっている。

 プレートを支えるのは、等間隔で築かれた8基の魔晄炉。

 其の魔晄炉を境界として、区画すら8つに分けられた。





 俺が、彼等と出会った街。

 彼が縛り付けられた、場所。





 神羅のお膝元だから、でかく発展した。

 ひとつの区画だけでも、可也の広さを有している。

 其れこそ、人1人探し出そうとすれば、結構な人手と時間を割くだろう程の。

 なのに。





 ・・・・・・まさか此処で、こうもあっさり出会えるとは、思っても見なかった。





 テーブルの上にはピラフとグラタン。

 見るからに冷凍食品をただ温めただけ、だという其れ等。

 けれど少しは手が加えられているのか、あからさまに不味くは、無い。

 値段も手頃で、懐には優しい限り。





 そんな、酒場を兼ねた軽食屋の片隅で。

 俺は目の前に座ってグラタンをつつく人を、ちらりと覗き見る。





 初めて、ライフストリームの中で見た時も、思った事だが。

 ――――――本当に、夢の様に、綺麗なひとだ。

 改めて、そう、思った。





 造作の綺麗な人間なんて、今まで会った人の中にも沢山いた。

 アイツはどちらかといったら美形で、彼女は可憐だったし、あの人には麗しい、という言葉が相応しかった。

 他にも、色々。本当に色々。





 けれど。

 こんなにも綺麗なひとは、初めて見た。





 緩く編んで肩口から前へと持ってきている、動くたびにさらりと音を立てる様な長い黒髪も。

 息を呑む程に整った相貌も。

 華奢でいながらも均整の取れた体躯や、組んだ長い脚や繊細な指先に至るまで。





 生きて、呼吸をして動いている事自体が奇跡なくらいに。

 何もかもが――――――只、綺麗だ。





「・・・・・・そんなに珍しいか?俺の顔」

「えっ!?あ、いや、その」





 突然掛けられた声に、慌ててしまった。

 どうやら俺は、可也不躾に彼に魅入っていた様だ。

 恥かしさに、顔が火照るのが判る。





 俯いて、其れでも彼から眼を離せずにちらりと視線を上げると。

 猫の様に細めた、笑みの気配の瞳。

 ・・・・・・あれ、そう云えば。





「その・・・・・・眼の色、黒いんだな、と・・・・・・」

「ああ、コレ、ね」





 ふと思った考えを言葉にすれば。

 彼は指を眼元へ持っていき、瞬き、ひとつ。





「人間には無い色彩(いろ)だしょ?だから、ね」





 一瞬。

 指と指の間から垣間見えた、鮮やかに煌く宝石の様な朱金と青銀。

 次の瞬きの後には黒耀石の輝きに戻って。





「早く食べないと冷めちゃうよ?」

「っ、あ、ああ・・・・・・って、食器で人を指すな、行儀悪い」

「う、ごめんなさい」





 グラタンを突付いていたフォークをピッと突き付けられて。

 俺は彼を窘めながら、冷めかけたピラフに口を付け始めた。

 暫くして、彼も食事を再開する。





 其の、フォークを持つ指や口元へ運ぶ動き。

 ひとつひとつの仕草が、思わず眼で追ってしまいそうになる程に優雅。

 ・・・・・・・・・・・・なのだが。





「ほぉひあはぁ」

「・・・・・・・・・・・・フォークを咥えたまま喋るなよ」

「・・・・・・・・・・・・はい。」





 行儀悪いと2度目の俺の科白に。

 ごめんと素直に謝りながら首を傾げる仕草は、小さな子供みたいだ。

 綺麗な筈の彼が、何故か違和感無く可愛い、と思えてしまって、苦笑する。





「で?」

「ん?」

「何か言い掛けただろ、さっき」

「ああ、うん。そーいえばさ、聞いてなかったな、って思って」

「何を」

「名前」





 ・・・・・・・・・・・・そう云えば。

 宿屋の廊下で出くわしてから、普通に連れ立って普通に一緒に食事なんかしているが。

 名乗ってもいないし、聞いてもいなかったな。





 ファーストコンタクトがアレだった所為か。

 何故か、初対面、な感覚を持てなかったし。

 それに。





「アンタは知ってるんじゃないのか」





 出会いが出会いだ。

 さっきも、暗に自分は人間じゃないなんて含んだ発言をした。

 知っていても、可笑しくない。





「う、ん。知ってる。けど」

「やっぱり・・・・・・だったら、如何して態々聞く?」

「や。だって、さ。こーゆーのは、ちゃんとゆって聞いてしないといけない感じじゃない?」

「そうか?」

「そーだよ」





 ・・・・・・・・・・・・良く判らん。

 只、そんな事を真剣に言っている彼は、妙に子供っぽくて人間臭い。





「・・・・・・クラウド。クラウド・ストライフだ」





 静かな声音で、小さく言えば。

 彼は一瞬きょとん、とした後。





「俺、。あー、ココじゃ、かな?が名前。がファミリーネーム。って呼んで」





 それはそれは嬉しそうに。

 満面の笑みを浮かべて名を述べた。

























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