「・・・・・・・・・・・・で、なっちまったのか」

「・・・・・・・・・・・・ああ、なってしまったんだよ」





コッチ来てる時ぐらい顔出せよんっとに水臭ぇ。

と、半ば強引に引っ張ってきた親友の、詳細に至るまで逐一丁寧な説明に。

俺は深い深い溜息を吐く。





アクシデント体質だよなぁオイ。

釣られて溜息を吐いたロイも、先が思い遣られる、とかぼやきながらこめかみ辺りを指で揉んでいた。





だが、当の本人は素知らぬ顔で、明後日の方を眺めつつ温い紅茶を啜っている。

久しぶりに見た其の顔は、記憶の中のモンと全く変わっていなかった。




 




 




 




 




 





ふしぎのせいねん




 




 




 




 




 





軍部内、しかも中枢に近い処までテロ組織の人間が入り込んでいたって事で。

中央司令部は数日、てんやわんやだった。

久しぶりに、猫の手でも借りて来てぇ、と思ったぜアレは。





如何やら内通者がいたらしい。

まあ、捕らえられた奴が洗い浚い吐いてくれたお陰で、ソイツは既に摘発されたが。





速攻で東方に戻る予定だったロイとホークアイ少尉は。

ああ、ついでにロイが連れて来た国家試験の受験者も、ここぞとばかりに借り出されてよ。

やーっと落ち着いた、と思った時にゃ、既に4日が経過。

残るは事後処理やら何やら、まあ、そんなトコで。





4日経った。

4日経って、漸く俺は。

ロイが誰を連れて来たのか。

ソイツが試験会場で何をしたのか。

漸く、知ったってワケだ。





「・・・・・・あー・・・・・・まあ、取り敢えずはおめでとうさん?」

「・・・・・・・・・・・・少しも目出度くない・・・・・・・・・・・・」





あー、うん。まあなあ。

ロイのぼやきも、判らねぇでもねぇわな。





だってよ、1番最初にコイツの名前を書類の中で見つけて。

まあ俺自身気にはなってたし多分コイツの所為で1時期塞ぎ込んじまったロイも知ってたから。

ロイに、勧誘の名目やって会って来い、って炊き付けたのは俺だぜ?





ソイツがまさか。

・・・・・・ホンットーに国家錬金術師になっちまうとはなぁ・・・・・・

しかも大総統のお眼鏡に適って速攻、ってどうよ。





「ま、野良犬に噛まれたとでも思って諦めろや。トコロでよ」





ロイの隣・・・・・・といっても人2人分くらい空いてるが・・・・・・に座るに目を向ければ、冷たい眼差しがちろり、とだけ返ってきた。

・・・・・・そうあからさまに、見るな喋りかけるな、ってオーラ発散させなくてもいーんじゃねーか?





思わず身体が引きそうになった。

見えない壁が其処にあるかの如く、弾く様な険を含んだ、瞳。

ソレは自然と、あの時の事を思い出させる。





青白い炎と、肉の焦げる匂いと。

何も浮かんでねぇ表情のくせに、口元だけが歪んでいたの顔と。

――――――コイツは本物のバケモンだ、と思った瞬間を。





出会い頭の時の、あのどっか可愛らしい態度すら、微塵も感じられなかった。

つか、何で1度でも可愛い、と思った事があったのかが今では不思議だ。

まあ、得体の知れない、ってトコは、変わってねぇがな。





・・・・・・だから、こそ。

気になるのは勿論、の今後の身の振り方だ。





「お前さん、コレからどうすんだ?軍属にはなったが軍に入ったワケじゃねーんだろ?」

「――――――其の質問に、答える義理は無いと思うけど」





んっとに取り付く島もねぇ。

如何やってロイはコイツをココまで引っ張って来たんだ。

・・・・・・・・・・・・と、ソコではた、と考える。

ロイのヤツは如何やって、コイツをココまで連れて来た?





確かに、小っちぇガキみたいなキョトキョトした仕草は可愛いと思えたさ。

そしてあの、枯れ落ちる華の様な、美しいが哀しい微笑も。痛いくらいに胸を突かれた覚えがある。





――――――だが。

人を殺しながらも顔色1つ変えやしない、何処までも作り物めいた冷たさを纏う横顔は。

そんな可愛いとか綺麗だとかそういったモンを、遥かに凌駕する程に恐ろしくて。





恐らくソレはロイも同じだった。

いや俺よりもコイツの近くに居た分、ほんの些細な差で知ってはいるんだろうが。

だからこそコイツに向ける恐怖心は俺よりも強かった筈。





思った事がありありと顔に出ていたんだろう。

思わず向けた視線の先で、ロイが小さく息を吐いた。





。ヒューズ・・・・・・マースは私の10年来の親友で。時折親バカを発揮して鬱陶しい事もあるが、信頼に値する人間だ。私が保証する」





をい。ソレは褒めてんのかけなしてんのか。

思わず毒づきそうになったが、止めておいた。

そういう雰囲気には、とても見えなかったからだ。





「――――――君はもう少し、足掻く事を覚えるべきだ」

「・・・・・・・・・・・・ソレ、どういう」

「受け入れられない事を前提に考えて、決め付けて――――――諦めてばかりいては、他者との関わりは到底築けない」

「そんな、こと」

「そんな事はある。其れは、とても寂しい事だろう?――――――だから、。マースを・・・・・・彼を」

「・・・・・・・・・・・・」

「私と同じ様に、思ってみて貰えないだろうか。君は、1度と言わず何度でも、手を伸ばす強かさを持つべきだ」





諭す様なロイの口調は、何時に無く柔らかい。

だが気持ち悪いなおい、と茶化すには余りにも、余りにも真剣で。





やがて、ぽつりと聞こえた言葉は。





「・・・・・・・・・・・・知ってる、よ」





思わず弾かれた様にの顔を見る。

ソコには、さっきまでの冷たい印象とは打って変わって。





「知ってる。マースがドレだけイイ人なのかくらい」





何処か泣いている様な、だが優しげな微笑があった。

























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