体調が悪い時とか、疲れてる時。
白い肌は、その悪さが如実に表に表れる。
なまじ造作が良いと尚更だ。
かちゃり、と目の前のテーブルに淹れ立ての紅茶とミルクと砂糖を置けば。
ソファに浅く座ったロイは。
小さく笑って「有り難う」と言った。
ふしぎのせいねん
沈黙。
ちんもく。
・・・・・・チンモク。
1人掛けのソファに、のんべんだらりと座ってあまつさえ頬杖付いてベランダの外を見てる俺と。
向かいのソファで、俯き加減に座っているロイ。
重いです。ヒタスラ重いです雰囲気が。
あー、もう。誰でも良いからかどーにかしてよこの状況、ってな感じ。
息が詰まるにもホドがあるだろ。
・・・・・・・・・・・・イヤ帰ろうとしたロイを家に上げたの俺なんだけどさ。
だってすっごい顔色悪かったんだもんよー。思わず休んでけ、って言いたくなるくらい。
もーアンタ一体何日寝てないんだ?みたいな。
軍人さんはそんなに忙しいのか。
・・・・・・あれ?そういえば・・・・・・
「仕事は?」
「――――――え?」
「仕事。」
唐突な俺の問いに、弾かれた様に顔を上げたロイが、ああ、と小さく嘆息する。
・・・・・・何かその反応、俺の一挙一動に一々ピリピリしてるみたいでヤなんですけどー。
「上司からの命令でね。強制的に今日から4日間の休暇を取らされた」
傍目には、ここ最近の私は働き詰めだったらしい。
自分ではそうは思っていなかったのだけれど。
小さく小さく、苦笑じみた笑みを履いた後の呟きが、何だか癪に障った。
もしかして、とは思うけど。
そんな、ねえ――――――?
「・・・・・・何時から?」
「・・・・・・何が?」
「何時から、働き詰め?」
「・・・・・・・・・・・・ああ、まあ、そう、だな・・・・・・・・・・・・」
答えを探す様に彷徨った目。
・・・・・・・・・・・・決定。
コイツ馬鹿だ。
「ロイ」
「何かね」
「今日は泊まっていって良い。寝室はあそこの扉」
「――――――え?」
大仰な溜息をこれ見よがしに吐きながら、簡潔に述べて奥の部屋の扉を指差す。
思いっきりうろたえるロイ、というものは、今までの恐れの表情と違って面白かったんだけど。
「拒否は聞かない。というか今から寝ろ。直ぐ寝ろ。速攻で寝ろ。腹が減ってくるまで起きて来るな」
つらつらと言い放つ俺に、ロイは心底困った様な顔。
ホンット、コイツは馬鹿だ。
精神的苦痛を、肉体的苦痛に変えて遣り過そうとする、典型的な自虐思考の。
大方、前にココから帰った直後から、働き抜いてたんだろ。
一週間やそこいらで、今にもぶっ倒れそうなホド顔色悪くなる様な激務なんて、早々無いからな。
あったとしても適度に気を抜いたりするのが普通。そんなのコイツくらいになればお手のモノだろうし。
だけどソレをしなかったのは、多分俺と会ったからだ。
自分ではそうは思っていなかった?
上司から命令されるまで自分で自分を追い詰めてたのに?
ああもうホント大馬鹿。
俺の言葉に、如何返していいのか判らない、って感じで小さく笑ったまま動こうとしないロイに、いい加減俺も焦れてくる。
ええい、もう強制連行だ。
勢い良くソファから立ち上がって、ずいっとロイの端に近付く。
そして。
「うわあっ!?っ、何っ」
「五月蠅い黙れ素直に言う事聞かないアンタが悪い」
イキナリ横抱きでソファから離されたロイが俺の耳元で喚いたけど。
キレイサッパリ無視して、俺はずかずか奥へ。
んでもって、ちょーっとだけ隙間開いてた扉をばぁん、て足で蹴り開けながら。
「アンタ今自分がどんな顔してるか判ってる?」
「・・・・・・か、顔?」
「不眠、疲労、今にもぶっ倒れそう。帰る途中でホントに昏倒されたら俺の寝覚めが悪くなる」
まあなんて俺様な理由。とは心の内だけで突っ込んどいて。
ぼすんっ、と軽い身体をベッドの上に放り出す。
スプリング利いてるし100%羽毛だから痛くないだろ。
「寝ろ」
そして慌てて身を起こそうとするロイの上に、薄手の掛け布団をがばりとその頭まで掛けて。
ダメ出し、とばかりに縁にどかっと座って布団の上から頭押さえた。
ほんの少し、強張った雰囲気が手から伝わる。
ソレを感じて、そっと手をのけて。
「・・・・・・君は以外に、世話焼きだな」
「そうでもない」
「そう、だよ・・・・・・まあ、知って、いたけれど」
布団に遮られた、溜息交じりのくぐもった声は、ほんの少し苦笑じみていた。
前にも何処かで誰かに言われた事のある科白。
俺は素気無く、ソレを聞き流して。
「・・・・・・・・・・・・」
「何」
「――――――済まない」
「何故謝られるのか判らない」
てゆーか謝らなきゃいけないの俺じゃねぇ?
ホントは早く帰りたかったのかも知んないのに。
・・・・・・あーあースミマセンねぇ。嫌いな奴の家に引き止めて、あまつさえベッドで寝るコト強制させて。
だけどロイは呟く。
ソレは違う、と。顔も見えない、布団の下で。
「・・・・・・嫌い、な訳では・・・・・・無いんだ。私は。君の事――――――」
確かに怖い、とは思ったけれど。今でも、思っているけれど。
けれど、其れだけでは無いから。
幼い子供の様な仕草を見せる事も。世話焼きな事も。人を気遣える事も。
其の白い手が優しい事やふと浮かべた時の微笑みが柔らかい事も知っているから。
「だからきっと、克服する。してみせるから」
こんな、意味も無い恐怖感など。
だから如何か、私を撥ね付けないでくれないか。
1度見捨ててしまっておいて、今更虫の良い言い分だとは思うが。
君に嫌われていると思うのは、正直、辛い。
なんて、最後の方は既に寝息に紛れていたけど。
そのロイの言葉に俺は。
ただこんもりと盛り上がっている布団に、驚いた目を向けるしかなかったのさ。