何処か懐かしい、と思わせる景色は、多分緑が多いからだ。

そして、空がとても高く感じられるからだ。

愛おしい、という気持ちがどういったものか、初めて『思い出し』た。

俺を『育てて』くれた人達が生きる里に、似ているから。





・・・・・・それにしても、最近良く思い出すよな。アイツラの事。





日課のランニングを済ませた後。

そんな事を考えながらお決まりの丘でん〜っと思いっきり伸びをして。





「さて、今日も1日」





頑張るか。

まずは、ガームさんトコの羊小屋の修理、だったよな?




 




 




 




 




 




 
ふしぎのせいねん




 




 




 




 




 




 
「何時も悪いねぇ、くん」

「イヤ別に良いってコレくらい。ってゆーか他は大丈夫?昨日の嵐、けっこーやばかったっしょ?」

「ああ、壊れたのはココだけだよ・・・・・・ウチのトコは」

「ウチのトコは、って」

「ガルトさん家は屋根が半分飛んだらしい・・・・・・ほら、噂をすれば」

「お〜い、っ!!」

「あ。ガルトさん」





練成陣を描く為に持っていた棒っきれを肩に担いだ俺の目の前に。

バタバタ走ってくるおじさんを見て、俺は小さく笑う。





「頼むっ、っ」

「いーよ、屋根の修理?」

「な、何で判った!?」

「ガームさんが教えてくれた。昨日の嵐で半分飛んでっちゃったんだって?」

「そ〜なんだよ〜っっ。もう家ん中水浸しのメチャクチャで」





かーさんがもーヒス寸前でな手ぇつけらんなくなってきてなイヤイヤそんな事より早く修理修理。

なんて、身振り手振りで教えてくれた後俺を引き摺っていこうとするガルトさんに。

俺は苦笑しながらガームさんに手を振って、ガルトさんトコの屋根を直しに行った・・・・・・んだけど。





昨日、普通の高気圧と低気圧がランデブーした挙句、最悪なトコまで発展してくれちゃった嵐は。

色んなトコで色んなモノを壊していってくれたらしい。





ガルトさん家の屋根の次はフィーダさんトコの納屋。

突風に、倒れる寸前まで煽られてひし形になっていた。

ソレが済んだら今度は折れた木がぶち当たって全壊した台車、とか。

やっぱり突風の所為で落ちてしまった看板、とか。

川が溢れて流されてしまった橋とか。

・・・・・・果ては切れてしまった電線まで。





殆ど村の中を1周。

な、もんで。俺が自分の家に戻れたのは、昼を大分過ぎた頃。

――――――だけど自分の家の玄関を見た時。





俺は思わず、回れ右したい衝動に冒された。

・・・・・・こんな事ならあの時昼食に誘ってくれたエンヤさんの申し出受けとけば良かった。

あの人もーイイ年なのに何かと俺に色目使ってくるから出来れば遠慮したいんだけど。





俺の家の玄関に、背を凭れ掛けさせて腕を組んで立っていたのは。

黒髪、黒目に、白い肌。

ベージュのスラックスと、白いシャツの上にやっぱりベージュの上着。





・・・・・・・・・・・・なんで、居るんだろうな、こんなトコに。

出来れば顔、2度と合わせたくなかったんだけど。





だって、彼が俺を心底恐れてる、ってのを知っている。

怖がられるっていう事実は、俺の稀薄な筈の心を痛いくらいに悲しくさせる。

悲しいんだ、という事を、自覚させるから。





――――――こんな事、今まで、無かったのに。

いよいよ、ヒトに近付いてきてる最近の俺の精神構造。





「――――――お帰り、





こっちに気付いた彼が、ふ、と目元を和らげるのを見た。

そして迎えられた言葉に、俺は慌てて無表情を作る。

・・・・・・・・・・・・そんな、痛そうで悲しそうで、今にも泣きそうな顔、されてもな。





「・・・・・・前触れも無しに悪いとは思ったがね、此処で待たせて貰ったよ」





ふわりふわり。弱弱しそうな笑みで、立てられたお伺い。

・・・・・・・・・・ああ、もう、ホント、このまま方向転換してどっか行きたい。





だけど半日練成練成で、けっこー疲れてんだよな。今モーレツに寝たいんだよな。

でも俺んちアソコだしな。

目ぇ合っちゃった以上、無視するワケにもいかないだろうし。





思わず吐いた溜息は、ロイの耳にも届いたんだろう。

僅かに揺れる肩が、ソレを証明する。

俺はゆっくり。殊更ゆっくりと玄関・・・・・・必然的に彼へと近付いて。





「この間の続きなら、何度言われても答えはNOだ」

「いや――――――今日は、仕事じゃ無いんだ」





擦れ違い様、吐き捨てた科白に返って来た返事。

だったら尚更、彼がココに来る理由が、俺には判らない。





ちろり、と鍵を出して扉を開ける横でロイの顔を流し見てみれば。

見下ろす形で視界に入ってきた白い面は、1月前と同じ。

――――――けれど何処か、確実に、疲れが蓄積されて、やつれた。





「君に・・・・・・如何しても言っておきたい事があって」





恐る恐る、持ち上げられた手が、きゅ、と俺の服の袖を掴む。

まるで、母親に縋る小さな子供の仕草。





「ずっと、思っていたんだ。今度君に会ったら、1番最初に言おうと。けれど今まで言い逃してしまって」





けれど如何しても。

何処か頼り無げに、揺れる黒目が、そう言いながら俺の顔を映し。





「あの時は、有り難う」

私を助けてくれて。

命を、救ってくれて。





「――――――そして、済まない」

君を拾った、最初の人間としての義務を、放棄してしまった。

優しい事も知っていたのに、其の手を掃ってしまった。





小さく小さく。

何処か痛そうで悲しそうで、今にも泣き出しそうなロイの声は。

呆然、と聞き入る俺の耳に、優しく響いた。

























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