帰ろっかなー、なんてのほほん思う事は何度かあったけど。
帰らなければ、なーんて強制にも似た焦燥に突き動かされる事も無くて。
呪文を詠んでいるだけで発動してしまったうろ覚えな魔術をもう1度発動させてやろう、とか。
わざわざ強固に封印した人外の力を引き出してまで、とか。
・・・・・・ぶっちゃけ、メンドクサイ、って思ってしまったからなんだけど。
何より、俺は。
還りたい、と願った事は無かったから。
だから。
ふしぎのせいねん
歌は、多分『好き』なんだろーなー、と思う。
だってこんなにも沢山覚えてる。
アイツラが教えてくれたものも。自然と覚えていったものも。
――――――彼女が、歌ってくれたものも。
姿の見えない俺の話し相手すら、何故か俺の歌を気に入って。
契約に必要とされる、血や肉や贄や悲鳴よりも。
彼等は俺の紡ぐ調べを望むから。
だから、俺は歌うんだと思う。
最も、その穏やかな時間は良く色々な声と共に壊れるんだけどな。
やれ一緒に遊べー、だの。
荷車を直して欲しいんですけどー、だの。
微笑ましい、日常のヒトコマだ。うん。
だけど今。俺が歌を止めたのは。
そんな可愛らしい日常のヒトコマなんかじゃ、ない。
知っている、気配が背後にあった。
懐かしい、と呼べるのかもしれない。
けれど在り得ないと思っていた。
彼が、俺の処に来る、なんて。
ゆっくりゆっくり、振り返る。
大分伸びた髪がサラリ、と靡いて。
もーそろそろ切らないとなー、なんて何でもない様な事を考えながら。
そして見たのは。
青い服と、黒髪、黒目。
「――――――久しぶりだな、」
数年ぶりに聞いた声。
ソレは、あの時の強張った声音とは真逆に、柔らかくて。
だけど。
今、相当無理してるんじゃ、ないかな。
だって緊張してるのが、良く判る。
だから俺がロイの顔をみて1番最初に思った事は。
如何してこんなトコにいるんだ、とか。
――――――イヤ多分俺に会いに来たんだろうけど――――――
隣の金髪美人さんはどなた?とか。
――――――ロイと同じ青い服装からして、同僚か部下のどっちかだろうな――――――
そんなんじゃなくて、俺と顔合わせるのイヤなら来なければ良いのに、だったりした。
そんなロイは、隣の美人さんをその場で足止めして、ゆたりと俺に近付いて来る。
・・・・・・・・・・・・だから、無理して笑顔取り繕うくらいなら、近寄るんじゃないっての。
「駐在所のご老人からお聞きした。家にいなければ此処だと。お気に入りの場所だそうだな」
「――――――ああ、まあ」
「判る気がするよ。此処は気持ちが良い。開放的で、空気も澄んでいる。空が、こんなにも近くて」
掛けられてきた言葉に、俺は無言で再びロイに背を向け、空を仰いだ。
自然に、自然に。
そう振舞おうとする、不自然さ。
そんなにイヤなら、来なければ良かったのに。
「――――――元気、だったか?」
「ああ」
「そうか――――――其れは、良かった」
その吐息は、どーゆー意味合いを兼ねたモノなんでしょうかね。
安堵?それとも・・・・・・憂鬱?
「で?」
「・・・・・・・・・・・・で、とは?」
「世間話をしに来たワケではないだろう?用件は?」
ハッキリ言って、自分に怯えてる人間に合わせて会話進めるのはシンドイ。
気を使ってくれているのが判るから尚更。
こっちまで気が滅入ってくるし。ソレに。
――――――精神的負担なんて、彼に長く背負わせておきたくない。
だから用事があるならあるで、サクサクっと終わらせてもらおうとした問い掛けは。
予想してなかった答えに、しばし固まった。
「何、君を勧誘しに来たのさ。国家錬金術師にならないか、とね」
「・・・・・・・・・・・・は?」