青服青年。
後にロイ・マスタングと名前が判明した彼と、生臭い場所からトンズラこいてから3日目。
その後、俺が如何なったかというと。
「うあー。何時見ても可愛いなぁ。な、どうだ、オレんトコ嫁に来ないか」
「何でテメーみてぇなむさ苦しいヤローんトコ嫁に行くんだよ。俺んトコだ俺の」
「おう、コレも食え。美味いぞ」
「あ。ベントウついてら」
「ヲラそこぉっ!!ドサクサに紛れて何てハ、ハハハレンチな事してやがるっっ!!?」
「飯粒くらい手で取れ手でっっ!!」
何故か、青服の団体に構い倒されていました。
ふしぎのせいねん
ギャイギャイ五月蝿い周りを軽ムシしながら、こく、と両手で持ったカップに口をつける。
なーんで、こんな事になったかなぁ?
取り敢えず。
俺を拾った事になってるロイが「見舞いだ」なんて医務室に顔を出してきた時。
俺、めーいっぱいロイに懐き倒したんだよな。
もう、ソレこそ「離れるのいやー!!」ってな感じに。
本当なら、次の補給部隊が来る時にセントラルってトコロに輸送される手筈だったんだけど。
もーソレすら駄々捏ねたさ。
溶けた飴玉みたくべたーってロイに張り付いて梃子でも動かなかったね。
・・・・・・だってさー。
流石に、右も左も判らない『世界』の中。
アチコチ盥回しにされた挙句、ぺ、って放り出されるのは、俺としても避けたかったから。
意思の疎通を図る、一般的な手段である言葉が通じない、ってのも大打撃でさ。
せめて会話が出来るくらい話せる様になるまで。
一番最初に接触した人間・・・・・・ロイにくっついとこ、って思ったんだけど。
ロイなんかお人好しそうだし。
ソレがなんで。
むさ苦しい男共に囲まれてやれ「可愛い」だのやれ「嫁に来い」だの言われないといけないワケ?
オタクらってそんなにヒマなのか?
・・・・・・なーんて、言ってるハタから入れ替わり立ち替わりガ激しいから、ヒマってワケでもないんだろうけど。
ソレとも潤いが足りない、とか?
・・・・・・うーわー・・・・・・不毛だ・・・・・・不健全だ・・・・・・
男に言い寄られる俺の身にもなってくれよ・・・・・・ったく。
慣れてるからイイんだけどさ。
まあ・・・・・・彼等が俺を構ってくれるお陰で、大体、つーか殆ど、言葉判る様になってんだけど。
ソレを言っちゃうと余計五月蝿くなりそうだから、まだまだ言葉が通じないフリ。
・・・・・・ああもう。髪の毛触ってくんな。舐める様に見るな。
ホント、うんざり。
そんな時。
「何時までアブラ売ってんだオマエラ」
「げ。ヒューズ」
上から降ってきた声に、誰かがイヤそうな声を上げた。
ことん、と首を傾げて振り返ってみると。
ソコには、俺が『コッチ』に来て2番目に認識した人間の顔。
「第8部隊、徴収かかってんぞ」
「・・・・・・もうかよ。ったく、さっき戻ってきたばっかなのに」
「そーゆーお前こそ、油売ってて良いのかよ」
「俺んトコは上司命令で待機中」
渋々立ち上がる彼等とは真逆に、ヒューズは俺の隣に腰を下ろして。
「・・・・・・けっ、良いよなぁ化け物の腰巾着は」
「何でもかんでもアイツが燃やし尽くしてくれんだからよ」
――――――燃やしてやろうか、と思った。
奴等はロイの事を『化け物』って言う。
そしてヒューズの事を『腰巾着』と。
ソレはロイが錬金術師、ってヤツで、炎を操るから、らしいんだけど。
だったら俺は何。
アンタ達が今の今まで構い倒してた。
俺は、ナニ。
だけど言われた当のヒューズは何処吹く風で。
俺の事、多分アイツらに囲まれた所為で不機嫌になってんだろう、って思ったんだと思う。
イヤ実際ホントにストレス溜まってたけど。
小さく小さく苦笑しながら、俺の頭をポム、と撫でた。
・・・・・・イイ人だね、この人。
イルカせんせとか、カカシせんせとかの手に似てる。
うあー、思い出しちゃったら会いたくなって来たなー。あと子供達にも。
いっぺん里帰りしてみよっかなー。でっかくなってんだろーなアイツらー。
なんてのほほん考えていたら。
「っっ!!?」
がしゃんっ!!
イキナリ脳裏に飛び込んできた映像。
建物の外に飛ばしておいた、『式』の。
ああ、ヤバイ。絶対ゼッタイ、ヤバイって!!
「おい、どうした!?」
「・・・・・・っ」
片手で額を覆って、持ってたカップをその拍子に落としてしまった俺の肩に、ヒューズが手を掛ける。
徴収とかのお陰で、他のヤツラが全員出払った後だったのが幸いといっちゃー幸い、か。
だけど、今の俺は言葉が通じない、って事になってるし。
ヒューズやロイの前ですら、喋ってないし。
高々2、3日で喋れる様になってるなんて、普通に有り得ないだろ?
ああ、でも。
「っ、ロイ・・・・・・!!」
「あ?ロイなら今A−3地区の偵察に・・・・・・つっても判んねぇだろオマ」
「ロイッッ!!」
ヒューズの腕を掴んで、ぐいぐい引っ張る。
俺がコイツラの前で喋れる、少ない単語の中の『ロイ』の名前を何度も喚きながら。
最初は慌てていたヒューズだったけど。
次第に真剣みを帯びた目になっていって。
ヒューズのカンが鋭くって助かった、と思った。