血の香りが、充満している。
気付いたのは、戦場を知る大人達で。
知らず、眉間に寄った深い皺。
けれど子供は只。
逸る気持ち其の侭に、大きな建物の中を駆け抜ける。
やがて見えた、侍の姿。
瞠目し、青褪め。オブジェの様に、固まって。
其の足元に、蹲る炎使いも又。
色を無くした顔色で、口元を手で覆いながらも只一点を見詰め続ける。
「アラシヤマ!コージ!」
二人の傍近くに、吹き飛ばされたのであろう、扉の残骸。
障害だとも思わずに、踏み越え、駆け寄る。
そして、ふと首を巡らせ――――――
「・・・・・・ひっ・・・・・・!?」
「ッ、見るな、コタロー!!」
直ぐ様、目は兄の大きな手に覆われた。
其の侭背後から、きつく抱き締められる。
・・・・・・しかし、子供は見てしまった。
視界に飛び込んだ、紅い色を。
人の死を間近に見た事の無い博士が、横に立った従兄弟の胸に顔を埋め。
父が、叔父が。息を呑んで立ち竦み。
ごくり、と。子供を抱き締めた兄の喉が、鳴る。
血に塗れて斃れる男の端。
冷たい床の上、ぺたり、と座り込んで。
咥えた肉を引き千切る、少年。
ひたり、と紅く染められた其の白い筈の手が、男の胸に触れた。
確かめているのか。
今となってはもう微かに、けれど確かに其処に在る鼓動を。
しかし、少年は。
「や、止めろ・・・・・・・・・・・・っっ!」
思わず兄が声を荒げる。
強くなる腕の力に、抱き締められた子供の身体が強張った。
けれど、制止の声は矢張り届く事無く。
彼等の目の前で、再びずぶり、と腕が肉の中に沈む。
そして新たに引き摺り出されたのは。
男の。
心の、臓。
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