ぴちゃり、と水音。

 嫌悪も露に口元を覆う。

 今、目の前で繰り広げられる光景。

 おぞましいとしか、言い様が無い。

 血溜り、肉塊・・・・・・物言わぬ屍。

 汚れ、穢れ・・・・・・喰らう、人。



 何者だ、彼れは。

 否、一体――――――何だ。



 余りにも凄惨な状態に、血の気が引く。

 恐怖に身体が震えるのを、止められない。

 そんな見物人達を、少年は意に介せず。

 腕に伝う赤を舐め取り、手にした塊を口元に寄せる。

 ――――――其の、時。



「・・・・・・ソコまでだ、



 凛、と高い。けれど柔らかい子供の声。

 気が付けば、何時の間に其処に居たのか。

 黒い子供が、少年の腕を止め。

 何の躊躇いも無く、手の内にあった肉塊を奪い取り、背後に控えていた金の子供に投げた。

 そして金の子は、突然放り出された其れを思わず受け止め。

 眉一つ顰めると、溜息吐いて。



、何度言えば判る?・・・・・・此れは、食い物じゃない」



 声に潜むは遣り切れなさと、僅かばかりの諦観。

 聞いていない様な、けれど確かに動きを止めた少年の前髪をさらり、と掻き上げ。

 黒い子は少年を、己の胸の内に引き寄せ、抱き締める。



「・・・・・・今直ぐには無理でも。ちゃんと、覚えろ、



 そう。今、直ぐには無理でも。

 蓄積された、過去の。

 強要され、当然と成り、自然とすら思っていた行為。

 深層心理。幼い頃の傷心。植付けられた誤りの認識は。

 そう簡単に覆されるものでは無い事を知っているから。



 少年の、朱金と青銀が、緩く瞬く。

 其れは虚ろで、けれど微かに光の射し込んだ。

 其の様子に、気付いた黒の子と金の子は小さく笑い。



「もう、大丈夫だから・・・・・・お前を襲おうなんてバカな奴は、此処にはいないから」

「今は、ゆっくり寝ていろ」



 諭す様な、柔らかな声音。

 安堵を誘う其れは耳に届いたのか。

 少年は、ゆったりと、瞼を閉じた。




 




 




 




 




 










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