「一体何が起きたんじゃあ、アラシヤマ!?」



掛けられた怒号に、ゆるりと振り向けば。

其処にいたのは険しい顔の同僚の侍。



其の目が見据えるのは、眼前。煙の中の影。

しかし其れが驚愕に見開き。

どうしたのだと炎使いも又振り向いて・・・・・・声を、失った。



「・・・・・・あ、っ、ぐぅう・・・・・・っっ」



徐々に晴れ行く煙の中。

其処に居たのは、苦悶の表情を浮かべた見知らぬ男。

右の二の腕から先は引き千切られたかの様に失われ。

左手で傷口を押さえている。



骨張った指の間から止め処無く鮮血が転がり落ちていく様は。

まるで咲き時を知り潔く其の命を終わらせる牡丹の様だ。



――――――そして。ベッドの上で上半身を起こしている、少年。

其の手の中には無造作に。

しかし確実に引き千切られた男の腕の先が収まっていて。



「・・・・・・キサ・・・・・・貴様・・・・・・!薬漬けにされていた筈では・・・・・・!!」



動けない筈だ。そう思っていた。

反撃はおろか、振り下ろされた兇刃を避ける事すら、出来ないと。

誰もが。思っていた。



だからこそ男は少年を殺そうとした。

だからこそ炎使いは技を用いて少年を守ろうとした。



驚愕。憤怒。しかし向けられる視線に、少年は表情一つ変える事無く。



「っっ!!?」

「んなっっ!?」

「・・・・・・う、っ・・・・・・!!」



男が、顔色を変えた。

侍が息を呑み、炎使いが口元を手で覆う。



くちゃ、り。

く、ちゃ。



一瞬にして静まり返った室内に。其の音だけが、何故か異様に良く響く。

ぺたり、素足が冷たい床に着いた。

ゆらり、のたり、と。緩慢な動作で立ち上がった少年は。

何処を見るでもない虚ろな双眸に、蹲る男の姿を映したまま。



くちゃり、と。



クナイを握り締めたまま身体から引き離されてしまった腕。

其の、傷口。露になった毒々しい程紅い血と肉に。



再び歯を、立てた。




 




 




 




 




 










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