「っっ!!」



 受身を取る間も無く壁に叩き付けられて、一瞬息が止まる。

 しかし直ぐ様体制を整え、アラシヤマは眼前の男に踏み込んだ。



 手刀。そして纏う炎を、繰り出し。しかし其れは、さらりと横に流され。

 思わず、出る舌打ち。きつくきつく、相手を睨み据える。



(コイツ、一体ナニモンや・・・・・・!!?)



 思ってもみなかった。しかし認めざるを得まい。此れは、此の男は、強い。

 敏捷な動き。的確な判断。容赦無い反撃。

 戦いを知り尽くし、命の取り合いの中に身を置き。相手を屠る術を持つが故の。

 衣服や皮膚を多少焦がしながら、しかし其れは最小限に交わされ。

 致命傷――――――動きを止めるには程遠い。

 ・・・・・・己の与り知らぬ処で、此れ程の手錬が、存在するとは。



 腰を落とし、懐へ突っ込んで、再び下段から、顔面を狙っての手刀。

 けれど矢張り交わされて。ちり、と髪の先を僅かに焼くだけ。

 間を置かずに繰り出した蹴りは、遮った腕に絡め取られ。



 バランスが崩れた。其のアラシヤマの腹部に向かって、男の踵が入れられようとしていた。

 咄嗟に床に手を着いて、身体を捻る。寸での処で避け、自由な方の左足を蹴り出す。

 しかし、期待していた手応えは、無く。

 目を瞠ったと同時、上半身に影が落ちた。



「ぐぅっっ!!」



 次の瞬間、鳩尾に入れられた容赦無い一撃に、アラシヤマは身体をくの字に曲げる。

 痛みを堪えながら、顔を上げて見据えるのは仲間の姿をした男。

 其の、足が。アラシヤマから踵を向け眠る少年へと向けられる。



「まっ・・・・・・!!」



 待て、と制止しようとした言葉は、痛みに遮られた。

 止まる、背。振り上げられた、黒光りする得物。



 思わず腕を振り上げ、炎を生み出す。

 しかし過ぎった思考に、躊躇い。

 一般的な研究棟や医療棟には、物騒な薬物が多く取り扱われている。

 ほんの小さな火花にも、過敏に反応して暴発を招き兼ねない、危険な代物が。

 しかも、此処はあの研究好きの青年と医師が、私物化している棟。



 しかし躊躇は、一瞬。



「――――――極楽鳥の舞っっ!!」



 何時も何処かで何らかのトラブルによる建物の爆破報告がなされているのだ。

 一つくらい増えた処で、どうという事はないだろう、と。

 アラシヤマは開き直りにも似た決意を持って、一言吼えた。




 




 




 




 




 










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