ずらりと直立不動で飛空艦ガーデンを迎える一般兵。

其の先頭。大層なお出迎えだと内心冷めた目で思いながらも、ハッチが開かれるのを、誰よりも今か今かと待つ子供がいた。



「んもう。折角この僕が出迎えに来て上げたってゆーのに、一体何時まで待たせる気なのさ」

「もーすぐだよ。だからもーちょっと待ってよーねコタローちゃん」

「判ってるよー。ココで帰っちゃったら僕がワザワザココまで来た理由がなくなちゃうもん」



それにしても遅い遅いと、頬を膨らませるコタローに、隣のグンマは小さく苦笑する。

彼等の兄弟が遠征先から帰ってくるのは、実に約5ヶ月ぶりだ。其の間、自分達が耳にしていた彼の状況は、余りに少なくて。

伊達衆が勢揃い。しかも其の上総帥直々に出なければならなかった程の戦況。

其れだけ、難しい局面だったのだろうという事は、幼いながらも理解は出来て。

心配、だったのだろう。滅多にしない出迎えなんかをするくらいには。



「あーもう。もう5分しても降りて来ない様だったら、僕戻ろっかなー・・・・・・って、あ!!」



思わず、心にも無い事をぼやいた矢先。

開かれたハッチ。機械音を立てて降りて来た人影に、走り寄る。



「あ、高松ーvv」

「おにーちゃん!!」

「コココココタロー!!?」

「グ、グンマ様!?」



勢い付けて飛び付こうとすれば、赤い軍服の青年と黒髪の医師は酷く驚いた顔をして。

・・・・・・・・・・・・案の定。



「た、高松、鼻血鼻血!!」

「ああ、すみません私とした事が・・・・・・思わず興奮してしまって」

「うわっっ、おにーちゃん汚いよ!!」

「おお、すまんすまん。おにーちゃんコタローがお出迎えしてくれて、嬉しくってつい」

「・・・・・・お前等そのクセいい加減にどーにかしたら?」

「ホンマやわ・・・・・・」



ザッ!と身を引いたコタローやグンマに、シンタローと高松は笑いながら尚もぼだぼだと鼻血で足元を赤く染め。

共に出迎えに出ていたジャンやアラシヤマに、呆れた溜息を吐かせる。

其の二人の声に、ふ、とシンタローは顔を上げた。



「おうジャン。アレ、どーなった?」

「アレ?・・・・・・って」

「・・・・・・シンタローはん、ソレてもしかして、あの子の事どすか?」

「――――――ああ」



其の言葉に、ジャンよりも先にアラシヤマの方が反応して、くるり、とシンタローに向き直り確認を取れば、血を止めたシンタローは少し堅い面持ちで頷き返し。

合点がいった様に、ジャンもまた、ああ、と口を開いた。



「アイツなら、医療部管轄のG棟の2階に収容されてから、ずーっとおねんね中」

「そうか・・・・・・ってなんでG棟なんだ。んなデンジャラスな処じゃなくもっと安全な場所に移せよ」



シンタローが小さく息を吐いたのも束の間だった。G棟、と聞いて眉間に皺を寄せ、低い声で問い掛ける。

其処に、速攻で反応を返したのはグンマで。



「ちょっとシンちゃん僕が管理してる棟のドコがデンジャラスなのさ!?」

「何処がって実際危ねぇだろうが何時も何時も爆発騒ぎ起こしやがって」

「ぐっっ・・・・・・い、いつも親子喧嘩で建物に穴開けてるシンちゃん達よりマシだよっっ!」



一触即発の雰囲気が漂い始める。

其れを如何にか沈静化させようと、割って入ったのはアラシヤマだった。



「シ、シンタローはん。あんお子ぉをグンマはんとこに、てお願いしたんはわてらなんどす」

「ああ?」

「いや、アイツをあのまま一般の医療棟に入れるのは・・・・・・アレだった、もんだからさ・・・・・・なあ?」

「アレ?・・・・・・ああ、アレ、な」



更に弁明する様に続くジャンの含みに、気付いたシンタローは怒りを納め。

矢張りジャンの含みに気付いて怒気を殺いだグンマもまた、僕だって馬鹿じゃないんだから、と付け足した。



「あの子は研究室から一番遠い部屋に居て貰ってるし、万一研究で爆発しても建物の強度を上げてるから大丈夫。コレでも日々努力してるんだよ?」

「それに、元が医療棟やさかい設備は色々整ってはるし、関係者以外立ち入り厳禁なん、あんさんら一族の住居区除いたらあそこしかあらしまへんやろ?」



其処まで言われてしまえば、未だ不安は残るものの、シンタローとしても頷かざるを得ない。

深々と、本当に深々と溜息を吐いて、其れからグンマに視線を向けた。



「・・・・・・んじゃあ、引き続きお前に任せる。良いか、くれぐれも危ねぇ事してあいつ巻き添えにすんじゃねーぞ」

「だからしないってばっっ・・・・・・もうっ、高松っ。何時までも鼻血足らしてないで、行くよっ?」

「ままままま待って下さいグンマ様ぁ〜〜〜」

「あ、じゃあ俺も行くわ。暇が出来たらまあ、顔でも覗かせてくれよ」



そんなに信用ならないのかと、ずかずかと建物内へ消えていくグンマに、続く様にジャンと高松が付いていく。

何時に無い実の兄の俊敏さに、きょとん、と其の背を見送っていたコタローだったが。



「・・・・・・何の話だったの?あの子とかアイツ、ってゆーのが誰なのかは大体分かったけど」

「すこぉし、ややこしい事やさかい、後でゆっくり話したげます。それよりも、コタローはん」



隣にいたアラシヤマを見上げ、訪ねたものの。彼ははんなりと笑うに留めるだけ。

それどころか逆に促され、何事かを思い出したコタローは、そーだった、と後ろを振り返って兄へと向き直り。



「お帰りなさい、おにーちゃん」

「・・・・・・ただいま、コタロー」



兄弟は、漸く挨拶を交わした。




 




 




 




 




 










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