己の意思に反する肉体というものは、中々に歯痒いものだ。
まるで部屋の中から外の景色を眺めている様な。
他人事の様に、内側から己を捉えるしか出来ないなんて。
そんな事を思えるくらいには、己の意識はしっかりしているのだろう。
しかし、言う事を聞かない身体に抗おうとするには、何分気力が足りない。
何をしようにも億劫、考えるにしても憂鬱。
毎日毎日、馬鹿の一つ覚えの様に投与されていた訳の判らないものは多分、そういった効力を持つ薬だ。
本能に近い処で拾う感覚。幾重にも重い鎖に巻付かれた様な。肉体から意思を隔離する。
自分でさえこうなのだ。同じ様に薬を使われた人間は、自我さえ残ってはいないだろう。
ふとそう思って、笑いたくなった。
まだ、考える力は残っている。理性は理性として頑なに存在している。
其れだけ精神力が強いのだと言えば聞こえは良いが。単に、生き汚いだけだ。自分のは。
沢山の屍を築き上げ。其の上に胡坐をかいて。
其れでも決めた。約束した。そして望み、望まれた。
だから。
(俺の薬物に対する免疫力を、ナメんじゃねーぞ)
此れ以上、人形の様に使われる気は無い。
自分は決して殺人快楽者では無いのだ。望んでもいない戦いに借り出されるなんて、真っ平御免。
幸か不幸か、自分はあの忌々しい白い影達が敵対している陣営の人間に拾われたみたいだし。
兵士とは使い捨ての駒、壊れても補充が利くと直ぐ様打ち捨てる。そんな思考回路を持っている奴等だ。
自分の事も、戻って来なかったら「死んだか」の一言で済ませるだろう。
(・・・・・・まあ、取り敢えず。薬の効力が完全に消えるまで大人しくしてよっと)
何処かふわりふわりとした感覚を感じながら。
は緩やかに遣って来た睡魔に身を任せた。
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