何 時 か 来 る と 信 じ た 終 末 に さ え




 




 




 





 最近、と会わない。

 遠目から姿を見かける事も無い。火影の邸宅に赴いてみても、留守。

 まるで、避けられている様だ。

 其の事を金の子に話してみれば、お前もか、と返される声。

「そういやオレも最近会ってねーんだよな、裏でも」

「忙しいんじゃないのかしら?何だかんだ言って、木の葉は未だに人手不足なんだもの」

「そうかも知れないが・・・・・・」

 春色の少女と金の子の軽く言われた科白に、言葉を濁した。

 何故だろう。何故か、嫌な予感が胸を占める。

 まるで、喉に魚の骨が刺さったかの様な。頭で判っているのに、言葉に出来ないかの様な。そんな、もどかしさ。

 知らず知らず、漏れる、溜息。聡い春色の少女が其れに気付き、首を傾げる。

「じゃあ、任務が終わったら一度火影様のお屋敷へ行ってみましょうよ」

「・・・・・・・・・・・・そうだな」

「ああ、そんじゃそーすっか」

 提案に、金の子と悲劇の末裔は頷き。

 未だ訪れぬ、自分達の正規の上司を心中で罵った。










 そして、午後。

 報告をしに赴いた受付所で、顔を合わせたのは他の下忍二組。

「何だ、お前等も今終わったのか」

「ああ、まあな」

「私達のトコは脱走した猫の捕獲だったけど。アンタんトコは?」

「依頼主が落とした指輪の探索よ」

 策士の言葉に末裔が答え。紫服の少女の問いに春色の少女が答えれば。待ってましたとばかりに噛み付く犬使いの言。

「たかが探し物に今まで時間食ってたのかよ。へっ、だらしねぇ。どうせナルトが足引っ張ったんだろ」

「違うってばよ!!探し出す時間が遅かったんだってばよ誰かさんが遅刻した所為で!!指輪だって、サスケより先にオレが見つけたんだかんな!!」

「ハンッ、どーだか。マグレじゃねーのかよ」

「むっきーーーーっっ!!」

「ハイハイ。喧嘩は外でやりなさーいね」

 笑顔で銀の髪の上司は犬使いと金の子を引き剥がし。首根っこを掴まれた猫宜しく大人しくなった二人に、周りから漏れるのは小さな笑い。

「それじゃあ、今日はココで解散だ」

「寄り道は程々にしなさいよアンタ達」

 煙草を吹かしながら言う上忍と腕を組んだままのくの一は、報告し終えるや否や、呑みに行くと出て行く。

「ウチもココで解散だ。ナルト、サスケ。修行も良いがあんまり根を詰め過ぎるなよ?」

 残る銀の髪の上忍も、そう言い残して立ち去った。

 そして、残された子供達は。

「俺達もそろそろ行くぞ」

「おう!」

「そうね」

 末裔の声に金と春色が頷き。ぞろぞろと歩き出した七班に、首を傾げる。

「何アンタ達、どっか行くの?」

にーちゃんのトコに行くんだってばよ」

 紫服の少女に返された、金の子の答えは明るく。

 そう云えば、と誰とも無く思い出す。

 最近目にしていない。背筋が戦慄く程に強いのに、何処か言動の幼い青年。暇が在れば、何時も庭の草花を愛でていた。

 思い出せば、今頃如何しているんだろうかと何と無く気になって。

 其れじゃあ自分達も、と。何と無く彼等の後に付いて行った。










 しかし、彼が身を寄せる屋敷で子供達が見たものは。

「何よコレ・・・・・・酷いじゃないの・・・・・・」

「ま、前に来た時は、綺麗だったのに・・・・・・」

 紫服の少女が眉を顰め、白眼の少女が小さく呟く。

 恐らくは其処に居るだろうと、回ってみた庭。其処に青年の姿は見当たらず。

 横たわっていたのは只、枯れた花と。萎れた葉と。手入れもされず放置され緑の瑞々しさを失った、植物達。

「・・・・・・ん、だよ、コレ・・・・・・」

 戦慄く、金の子の声。其の腕を無意識に、悲劇の末裔が掴む。

 彼が何よりも大切にしていた場所。彼が愛で慈しんだ花。なのに、其れ等が、如何して。

 勢い良く踵を返す。足取りも荒く、開け広げられていた縁側に向かい。

「・・・・・・・・・・・・来ておったのか」

 突如、静かに掛けられた声に、子供達が振り仰いだ。

 建物の陰から姿を表したのは、里の最高権力者。

「火影様・・・・・・!!」

「じっちゃん!!どーゆー事だよコレ!?昨日今日の荒れ様じゃねーぞ!!はドコだよ!?」

 駆け寄る悲劇の末裔。詰め寄る金の子。

 焦りと不安を見せる子供達に、老人は悲哀を混ぜた眼差しを向け。

「・・・・・・・・・・・・彼奴なら部屋におる」

 告げられた一言に、金の子と悲劇の末裔は形振り構わず屋敷の奥へ進もうとする。

 しかし、其れを阻んだのも又、老人の言。

「待つのじゃ、ナルト。今、彼奴に近付いては成らん」

 煙管を持つ手で行く手を遮り、立ち塞がる。

「っ、何で・・・・・・・・・・・・!!」

 苛立つ子供の声音に、溜息一つ。そしてひたり、と見据えた老人の眼には、刃の様に鋭い強さ。

「時が――――――等々、来てしもうたんじゃよ」

「・・・・・・・・・・・・どういう、事だよ、ソレ・・・・・・?」

 意味が判らず、子供達は首を傾げる。しかし、金の子には其れで通じた様で。

 見て判る程に青褪めていく金の子の顔。気付いた春色の少女が、蟲使いの少年が、心配気に其の顔を覗き込む。

「・・・・・・・・・・・・ナルト?」

「どうした、顔色が悪い」

 優しい気遣いに、金の子は何でも無い、と首を振り。ひた、と老人を見据え返した。

「――――――どっち、が」

「・・・・・・・・・・・・判らん」

 短い問いに、返るも又、短い応え。

 訳が判らぬと二人を見守る子供達の前で、金の子の顔が歪む。痛そうに、苦しそうに――――――泣きそうに。

「判らんが・・・・・・・・・・・・のう、ナルトよ。お主も知っていよう。比翼連理に謳われる比翼とは、鷺の番の事と」

 続けられた老人の声は朗々と。

 其の言葉の意味する事を正確に把握しながら、しかし金の子は其の意味を否定する。否、拒絶する。

「・・・・・・・・・・・・は、部屋にいるんだな」

 押し殺した声音で確かめる様に呟き、阻んでいた老人の腕を押し退け、今度はゆたりと歩を進める。

 ともすれば、火花すら飛び交いそうな息の詰まる空気。其れでも気になる心を止められず、子供達も又、金の子に続いた。

 最早止められぬ子供の気迫に、老人は深く深く溜息を吐き。

「覚悟は、出来ておるのか」

 ひたり、と金の子の足が止まった。肩越しに振り返り老人を見据える眼は、静かに燻る焔の色。

「・・・・・・・・・・・・何の、覚悟だよ」

 低く、探る様な声。怜悧な刃の気配を乗せ。

「――――――片翼を失うた鷺は、自ら後を追うと言われておる」

 返された老人の言葉は、嘆き悲しむ夜の風の音に似て。

 ぶわり、と金の子の小さな身体から殺気が膨れ上がった。矛先は老人。しかし傍に居た子供達すら当てられ、息を呑む。

「・・・・・・・・・・・・そんな覚悟なんか、糞喰らえだ・・・・・・・・・・・・!!」

 そんな彼等に眼もくれず、金の子は一言吐き捨て再び歩き出した。




 




 




 




 




 




 




 










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