言葉を失くしたナルトの哀しく歪んだ顔に、向けられるのは笑み。
自分など要らないと。人を殺しても笑っていられる、と。そんな事を簡単に言う。駄々をこねる子供を諌める様に笑いながら。
離れていても理解出来る。彼は本当にそう思ってそんな事を言っているのだ。
けれど其れは何処か、とても物哀しく耳に響いて。
あの金の子の闇ですら太刀打ち出来ない。恐らく己が孕む闇でさえ。
初めて目の当たりにした彼の闇の一片は深過ぎて、サスケは表情を歪ませた。
小さな溜息を吐き、落ち込みに落ち込み抜いているナルトと、怪我だらけのの姿に近付きながら、サスケは辺りをぐるりと見回す。
辺りに斃れる屍累々。鋼糸でぐるぐるにされている敵国の忍2人。
そして多分、一番厄介なのは未だ青褪めたまま動かない同期の下忍達だ。
「・・・・・・・・・・・・後始末が大変だな」
ドコか遠い眼をして呟くサスケに、さっきまでの酷薄さはドコへやら。にかりとが笑う。
「あ。サスケ。ソコら辺の全部燃やしといてー」
「・・・・・・・・・・・・何で俺が」
「だって俺忍術下手だし。火遁はサスケの方が得意だから」
言いながら、ぽいぽいと未だに自分の身体に刺さっていたクナイやら千本やらを無造作に抜いて投げ捨てる。
端で見ているこっちが痛くなりそうだが、当の本人は飄々と、痛みなど感知せずにドコ吹く風だ。
2度目の溜息をこれ見よがしに吐きながら、サスケは印を組み火遁の術を用いて既に肉の塊と化した敵忍の遺体を燃やして片付けた。
ソレがまた物凄い勢いで、とてもじゃないが下忍如きの実力では生み出せる筈の無い炎。
しかも綺麗サッパリ骨まで残らず炭屑にしたモンだから、コイツの実力は一体ドレだけのモノなんだとサスケの裏を垣間見た事のあるキバ達まで、同期達の目は更に驚愕に見開く。
そんな少年少女達に、がにっかりと笑いながらトコトコと近付いた。
「お前等無事ー?」
のほほんのほほんとした雰囲気で言いながら、少しだけ屈んで視線を合わせようとする。
しかしサクラ達は、青い顔をしてザッ、とから身を引いた。
その頬にこびり付いた肉片や、切れた腕から未だに流れる赤い血が生々しくて。
さっき見たばかりの人の死を、そして彼の殺し方を、思い出して。
普通じゃ無い、と思った。この人は全然普通じゃ無いと。
呟いたナルトの言葉を耳が未だ覚えている。狂う、と。
正しく狂っていた。
少なくとも、昨日額当てを貰ったばかりの新人の忍の仕業じゃない。
愉しそうに笑いながら、あんな簡単に人を殺すなんて有り得ない。
避けられたは一瞬哀しそうな顔をして、だけど直ぐに困った様に笑いながら「ま、しょーがねぇよなー」なんて頭を掻く。
――――――その、時だった。
大気が、動いた様な気がした。ナルトとサスケの間を、風の様に何かが過ぎて。
全てが、狛送りの様に緩やかに感じた。
ナルトとサスケが背後を振り返った時、既に其処には捕らえられた敵忍2人の姿など無く。
サクラといのが気付き眼を見開いた時には、目の前に血走った男の目が二対。
そして、鈍く閃く、クナイが2本。ソレは確実に、2人の少女の喉元を目掛け――――――
ざんっっ!!
肉の断ち切れる音に、ナルトとサスケは瞠目し、ヒナタ達は固く目を瞑る。殺される、と感じたサクラといのもまた。
しかし訪れる筈の痛みは、何時まで経ってもやって来る事は無く。
恐る恐る、子供達は眼を開ける。一番最初に視界に入ったのは、赤く斑に染まった白い布。そして背中。彼の、の背中だ。
「「っっ!!」」
ナルトとサスケの声が木霊する。彼は瞬時にサクラといのを庇う様に男達の前に立ち塞がっていた。
片方の男の手を止めた左の掌にはクナイが貫通し、もう片方の男が持つクナイは、右胸の下辺りにクナイを突き立てられている。
「敵を目の前にして、気を抜くからだ」
声すら上げられず固まる下忍達の前で、にやりと男が笑った。
しかし、その男達の笑みもまた、凍る。
俯いて、前髪が落ちた所為で見辛くなっていたの顔。唯一伺う事の出来る口元が、くつり、と笑みの形に歪んだからだ。
そして響いた、氷の様に冷たい声音。
「――――――破砕、せよ」
瞬間、男達の身体が破裂する。ソレは内側で、火薬か何かを爆発させた様だった。
きっと彼等には、己の身に何が起こったのか最期まで判らなかったに違いない。
胴から上を木っ端微塵にされた下半身が、どうっと斃れた。ソレに、はふ、と1つ息を吐く。
肉塊を見据える冷めた眼差しは、感情の色の無い鮮やかな朱金と青銀。
「雑魚が足掻くな。見苦しい」
ざわり、と下忍達の背筋がざわめく。敵忍達が言っていた、化け物というのは正しいかもしれない。
だってこんなに簡単に、そしてこんなに残酷に人の命を屠る人を自分達は他に知らない。
しかしは子供達のそんな心情になど気付きもせず、虹彩を黒く戻してにかりと笑う。
「サクラ、いの。怪我ねぇか?」
聞かれても青褪めたまま何も言えない2人の少女に、ナルトとサスケは溜息を吐き、遣り切れない様な表情でお互い眼を見合わせる。
そして彼等の元に向かいながら。
「・・・・・・・・・・・・コレからどうする?」
「・・・・・・・・・・・・まあ、取り敢えず野犬の捕獲は明日に繰り越しだな」
「そうだな」
「んじゃ、皆には解散してもらって、オレはじっちゃんトコに報告で、サスケはのお守りって事で」
「をいヲイこらコラ勝手に決めるなお前等。つかお守りって何お守りって。しかも報告は俺の仕事だろ。一応俺がお前等の上司・・・・・・」
「「は怪我の手当てが先」」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハ、ハイ・・・・・・・・・・・・(こ、怖えー)」
横から入ってきたの文句に、ギンッ!!とナルトとサスケは凄む。
小さく返事して黙ったに満足そうに1つ頷いて、サスケはちらり、と後方の同期達に視線を流した。
「アイツラの記憶は其のままで良いのか?」
その科白に、下忍の少年少女達は余計身を固くしたが。
「・・・・・・・・・・・・あー、別にいんじゃね?バラす様ならソレナリの手を打てば良いワケだし?」
「・・・・・・・・・・・・そうだな。言い触らした処で、誰も信じないだろうしな」
「そうそう。ソレに、アイツラは一緒にいる時間がけっこー長いから何時かはバレると思ってたし。ちょっと早かった様な気もすっけど」
「確かに、間が悪いと言うか何と言うか・・・・・・・・・・・・現にシカマルとキバとシノはコレで2度目だしな」
「・・・・・・え、シ、シノくん、キバくん、知って・・・・・・?」
「ちょっと何よシカマルっ!何で言ってくれなかったのよっ?」
イキナリ名前を挙げられた3人は、知らなかった4人の視線に当てられコソコソと詰め寄られて、何処か居心地悪そうだ。
そんな彼等を無視して、ナルトとサスケは印を組む。
ぽんっ、と白煙が舞って、ソコから出てきたのはサスケの面影を残す青年と、黒髪黒目の余り特徴の見られない暗部姿の青年。
サスケやは馴染みのある、ソレはナルトの夜の仕事で使う姿だ。
「・・・・・・・・・・・・何でナルト、ソッチの姿なワケ?」
きょとん、と首を傾げたに、今度はナルトが溜息を吐いた。
「・・・・・・・・・・・・お前オレに『うずまきナルト』の姿のまま報告しに行けっつーの?こんな血の匂い付いちまってんのに?」
「あ。そっか・・・・・・・・・・・・んでサスケは?」
首を傾げたままの顔を今度はサスケに向けると、彼は無言で・・・・・・・・・・・・しかし人の悪い笑みを浮かべ。
ひょいっと、を横抱きに抱き上げた。
普段と戦闘時のギャップの差が激しすぎるのです。
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