守りながら戦う、と云うのが、こんなにも難しいものだとは思ってもみなかった。
背後を気にしながら、はチッ、と舌打ちする。
台所に突然出没するゴッ○ー(モチロン黒光りしてて触覚がびよーんとしてるアレのコトだ)の如くワラワラと沸いて出て来たソイツ等は、達を見て速攻で仕掛けて来た。
しかも、まず実力も経験値も少ない下忍を先に仕留めようと、攻撃の手を少女達に向ける。
その動きは当然、上忍クラス。彼女達も恐ろしさに竦む身体に鞭打って何とか応戦しようとしているが、力の差は大人と赤子程も在って。
「下忍の引率も、楽じゃねぇなぁ!」
「仕方無いだろ、コレも仕事なんだからっっ」
下卑た笑みを向けながら、自分を少女達から引き剥がそうと接近戦に持ち込んでくる敵の1人をは交わし、ホルダーから取り出したクナイで威嚇する。
「何処を見ている!」
隙を突いて飛んで来る手裏剣やクナイ。弾ける分は手に持つクナイで弾いたが、防ぎ切れないモノは手甲や身体そのものを盾にした。
その度にの身体に赤い線が刻まれる。少女達の泣き声じみた声が響く。
ああ、イヤだな。はそう思った。
敵の命乞いや断末魔の叫びは聞き慣れているけれど、こういう声はイヤだ。
かと言って、目の前の敵を屠る為だけに自分が動き出したら、一体誰が彼女達を守ると云うのか。
こんな奴等、殺そうと思えばものの数分でケリを付ける自信がにはあるのだが。
実際にソレを行動に移してしまうと、自分と云う盾を失った少女達は敵忍達の格好の的となる。
絶対に彼女達の事にまで気が回らなくなると、は断言出来るのだ。
殺す術には長けていても、守る術など今まで教えて貰った事など無い。況してやソレを両立させる事など。
やっぱり俺に忍なんて無理なんだよ、とは内心毒づいた。
かと云って、この状態では術師としてもイケてないが。
術師が呪術を発動させるのに必要なモノは、媒体だ。ソレはイヤに長い祝詞であったり、札であったり。
しかし今のには、呪を唱える程の余裕も無い。術符も小柄も今日は置いて来た。
元より独鈷なんかは扱わないし、錫丈なんてのはもっての他。
かと言って、覚えたての基礎も基礎的な忍術は、呪術と違って未だ自分には扱い難いし。
(ほんっと、戦い難い・・・・・・)
「ふん、木の葉の忍も落ちたな」
せせら笑う敵忍達。背中に足手纏いだとしか云えぬ下忍をそれでも庇い、防御に徹するしかないを、完全に嘲笑っている。
飛んできたクナイを紙一重で交わした。続いて来た手裏剣に頬を切られたが。
しかも背中を向けた森の奥。近付いて来ている気配を6つ感じて、は再び舌を打つ。
恐らく彼女達の悲鳴に気が付いたのだろう・・・・・・気付いて欲しくは無かったが。
ナルトやサスケは言うに及ばず、キバは鼻が利くし耳も良いし、シノは蟲使いだ。森の蟲と意思の疎通を図るなど容易いに違いない。
シカマルもチョウジも、見かけによらず勘は鋭そうだった。
来るんじゃねぇ、と大声張り上げて叫びたかったが、相手の方も気配に気付いた様だ。
数人が、身を翻して其方へ行こうとするのを目の端で捕らえる。
そんな奴等の足を、懐から取り出した鋼糸で止めて。
「余所に気を取られている暇がまだあったんだな」
同時に右から飛んできた千本が数本、右の二の腕に突き刺さった。
刃物が肉を断つ感触。
ソレは例え己のモノであっても他人のモノであっても、余り気持ちの良いモノでは無くて、不快げに眉を顰める。
「さんっっ」
「だーいじょーぶ」
後ろで再びサクラの叫び。ソレに、は、に、と口元に笑みを穿いて。
それから、腕に刺さった千本・・・・・・正確には、その傷口から流れる体液をチラリと見て、僅かに目を輝かせた。
「あ。そうか。コレがあったな」
そして速攻実行に移そうとした――――――その、時だ。
「てめぇらぁあっっ!!」
「なっ!?」
怒号。そして何かが空を切る音。
一瞬後には、千本を投げてきた敵忍は、喉元にクナイを穿たれて絶命していた。
思わず、敵味方問わずに視線が一点に集中する――――――其処に、居たのは。がさり、と足音も荒々しく茂みから出て来たのは。
蒼い双眸を爛々と怒りに燃え上がらせる金の髪の少年と、黒い双眸から一切の感情を消し去った黒髪の少年。
途轍も無く対象的だが、その実2人共が同じくらいに怒り狂っている事を感知出来たのは、多分この場でだけだ。
何故怒っているのか、その理由はイマイチ判らなかったが。
そしてその理由は、直ぐ様本人達の口から漏らされる事となる。
「てめぇら・・・・・・よくもに怪我させやがって・・・・・・」
「・・・・・・覚悟は出来ているんだろうな・・・・・・?」
言うや否や、2人の姿が掻き消えた。
そして次にナルトとサスケの姿を皆の目が捉えた時、ナルトの持つクナイは1人の敵忍の心臓を刺し貫き、サスケの操る鋼糸は1人の敵忍の首を落としていた。
「・・・・・・う、うそ・・・・・・アレが、サスケくん・・・・・・?」
「・・・・・・どうして、ナルトが・・・・・・?」
呆然と、驚いた様に響くいのとサクラの声。
ちらり、と後ろを流し見れば、何時の間にやら彼女達を庇う様に姿を現していた4人の少年達も、動揺を隠せない表情で2人を見ている。
そして相手の敵忍達といえば。
「貴様等、只の下忍では無いな!?」
既に、突如現れた下忍達が見かけによらない手錬と認識し、間合いを取っていた。
矢張り腐っても敵でも相手は上忍。瞬時に相手の実力を見極めている。
ソレにさっきは、姿が子供だと云う事も含め彼らにも油断があった筈だ。動揺は二度も通用しない。
気を抜かず対峙されてしまえば、ナルトは兎も角実質上忍一歩手前のサスケの腕では、ちと厳しい。
(しかもアイツラ、何気に怒りで周り見えてねーし。)
は素早く、再び相手に突っ込んで行こうとしたナルトとサスケの襟首をむんずと掴み、反動を利用してぽいっと後ろに放り投げた。
同時に素早く印を結び、血文字を用いて完成した術を、発動させる。
「いっっ・・・・・・っ、何すんだてめー!!」
「人を物みたいに投げるなっ!!」
強かに背中や頭を打って他の下忍達の元に強制送還された2人は、いきり立っての元へ戻ろうとする。
しかし、何か目に見えない壁の様なモノに阻まれて、先に行けなかった。
「何だよ、コレ!?」
「、お前の仕業だな!?」
「そ。血縛陣ってな。自分の血液を媒体に結界を張る術だ。術師しか通り抜けは出来ねぇし、術師が解くか死ぬかしねぇ限り内からも外からも破られねぇ。物理攻撃でも呪術でも忍術でもだ。
鉄壁だぜぇ?」
言われて足元を見てみれば、地面に赤く細い文字の様なモノが書かれている。しかも下忍全員を囲む様に。
「てめー!!」
「さっさと解け!!」
「だーめ。頭に血ぃ昇ってるお前等なんかにゃ任せておけねーの。ソレに甚振られてたのは俺よ俺。やっぱお返しは・・・・・・自分でしないとねぇ?」
にこやかにそう言って、最後に相手に向けたの笑みは、正に壮絶。
ソレはナルトやサスケですら、思わずゾクリと背筋が凍る程の。
「つーワケで。目撃者全員始末したいなら、先ず俺を殺してみな?・・・・・・まあ、あんた等には無理だろーけど?」
「ほざけ!!下手な防御しか出来ん青二才が!!」
の科白が言い終わらぬ内に、相手の1人が動いた。両手にクナイを握り、一瞬にして間合いを詰めて、に切りかかる。
完璧に取った、と思った――――――しかしどさり、と。重い音を立てて倒れたのは、敵忍の方。胸に大きな穴を開けて。
何時の間にか、彼の背後に回っていたの右手には、赤い液体に塗れた肉の塊。
ソレが何かを認識するや否や、下忍達の間には悲鳴が、そして敵忍達の間には戦慄が奔る。
は、つい一瞬前まで鼓動を刻み全身に血を巡らせる役割をしていたその肉の塊を握り潰し、地面に投げ捨て、にぃ、と哂った。
「さてとお前等。耳と目ぇ塞いどけ――――――コレから先は、見るも耐え難い地獄だぜ?」
一つ、瞬きを落とした後のの瞳の虹彩は、目にも鮮やかな朱金と青銀。
やられっぱなしは性に合わないのです。
<<バック ネクスト>>
<<バック トゥ トップ>>