イヤな気配がする、と思ったのは、森に一歩足を入れて暫くしてからだった。



 何処も変わった様には見えないのだが、強いて云えば、音が少ない。

 鳥も、虫も、動物も、息を潜めている感じ。ザワザワと風が木の枝を揺らす音意外が皆無。



「・・・・・・な〜んか、ヤな予感」

「・・・・・・ど、どうしたんですか、先生・・・・・・?」

 思わずぼそり、と呟くと、横にいたヒナタに声を掛けられた。



 会った時から何か何時もオドオドとしてる子だ。アレでも結構芯は強いんだぜ、と言っていたのは確かナルトか。

 しかしソレでも。

 サクラやいのを見習え、とまでは言わないが、せめてもーちょっと自分に自信を持った方が良ーんではないかとは思う。



「イヤ別に何でも。てーかその先生ってのやめね?」

「あの、でも、臨時だけど、先生は、私達の先生だから・・・・・・」



 背中が痒くなってくる、と言ったに、ヒナタはたどたどと言い募る。

 は、もー1つ柔軟性も付けて欲しいなぁ、と付け加えた。



「臨時の担任っつっても、俺お前等と年4つ5つしか変わんねーんだから。呼び捨てかさん付けで充分だって」

「で、でも、やっぱり・・・・・・」

「ごめん言い方変えるわ。先生付けんのダメ。コレ上司命令。オゥケィ?」



 自分で言っといて、変なトコで職権振り翳すなよコレじゃじーさまが使った手と変わんねーじゃんかつかこんな上司命令誰が聞くんだ。

 とかは思ったが。ヒナタみたいなタイプには有効だろう、と開き直る。



 そんなの科白に、ソレでもやっぱり「でも」を繰り返そうとしたヒナタだったが。



「ヒーナター、さーん、何やってんのー?」

「もー、おっそいわよー二人ともー」



 ちょっと前を行っていたサクラといのの声に、思わず口を噤み。

「お前等が早過ぎんのー・・・・・・な?ちょっとはあの二人見習わね?」

「・・・・・・は、はい・・・・・・」

 科白の前半は前を行く二人の少女に。そして後半は、隣の少女に。

 駄目押しの如く振ってきたの言葉に、ヒナタは小さく頷きを返した。

 そんなヒナタに、は「よし!」と頷いてにっかり笑みを向ける。



 ソレから、サクラといのとの距離を縮めようとした――――――その、時だった。



 ざわり、と。風が鳴る。その中に、薄く僅かに滲んでいたのは、殺気。にしか判らないくらいの殺気だ。



「っ、サクラ!!いの!!」



 考えるより先に、横に居たヒナタの細い身体を攫う様に抱き上げ、瞬時に地を蹴り、二人に飛び付く。

 同時に、どすどすっ、と。背中に鈍い感覚を感じた。しかも2ヶ所。

 あーコレはクナイか何かだな、とまるで人事の様に思いながら、はそのまま3人を巻き添えにしてその場に倒れ込み。

 しかし直ぐ様体勢を立て直して、周囲の気配を伺う。



 このの行動に、付いていけなかったのは3人の少女達だ。

「いった〜〜〜〜・・・・・・・」

「・・・・・・な、何・・・・・・?」

「イキナリ何すんのよさん!?」

 転がされた少女達が三者三様の声を漏らす。



 しかしふと、の背中が視界に入った時。

 その、深々と肉に刺さった凶器と。白い布を真っ赤に染める、赤色に。

「「「――――――さん!!」」」

 少女達の、悲痛な叫びが木霊した。




 




 




 




 
 一方、コチラもイヤ〜な予感をヒシヒシと感じていたナルトは。 

 途中で、やっぱり少女達の声を聞いたサスケとキバ、少し遅れてチョウジとシカマルと合流しながら、東へ向かい直走っていた。



「何があったんだってばよ!?」

「さあな!!虫とか見て悲鳴上げる様なタマじゃねぇからな、アイツラ!!」

 焦った様な表情でナルトが聞けば、溜息混じりにシカマルが呟き。



「そういや、今気が付いたんだけどよ!鳥や獣の気配なんかが全然しねーよな、この森!!」

「――――――蟲達もだ。可笑しいと思っていた」

「あー、そー言えばそうだね。あれ、ボクの勘違いじゃなかったんだ」

 キバやシノの科白に、チョウジが首を傾げる。



 そんな彼らの意外な感の鋭さに、ナルトとサスケは目を合わせ。



(サスケはどー思う?)

(・・・・・・距離的に里から可也離れている森。姿を消した獣達。そしてさっきの悲鳴――――――これ等から導き出される答えは、恐らく)

(あー・・・・・・やっぱり?)

(と云うか、この場合これ以外に考えられないだろう。他に何かあるのかよ?)

(・・・・・・ありそーで無いよな・・・・・・)

(まあ、アレだな。『嫌な予感ほど良く当たる』)

(・・・・・・当たって欲しく無かったぜ・・・・・・)



 コソコソと、他の4人に気付かれない様に遠話を用いて会話を進める。

 つーか絶対じっちゃんの陰謀を感じるぞ、とぼやくナルトに、何を今更、と返すサスケの眉間にも、その実深い皺が寄っていた。



 ちょっと小耳に挟んだのだが、この近辺を調査せよという任務が何処かの上忍数名に宛がわれていたらしいのは、つい数週間前だ。

 他国の忍が、不法に里に侵入するのにこの森を経由している可能性が有ると。

 そして、その任務に当たった何処かの上忍数名が帰って来なかったという話も聞いた。

 それから第二、第三と、数を増やし調査隊は派遣されたらしいが。



(・・・・・・あんだけ調査が入れば、奴等もルートを変えるだろうと思ってたんだけどな)

(・・・・・・ほとぼりが醒めるにしても、まさかこの間の今日で此処を侵入ルートに使おうとするとは)



 溜息を吐きたくなる。

 達は、運悪くその他国の忍と鉢合わせしたのに違いない。

 でなければ、あの男勝りな少女達があんな悲鳴を上げるワケはないし。

 何より叫びの単語は彼の名前だ。

 そう簡単に殺される様なタマでは無いけれど、ひたひたと押し寄せてくる不安は拭い切れない。



「もう直ぐだ!!」

 赤丸の鳴き声に、キバが吼えた。感じたのは、知っている3つの気配。彼女達だ。彼の気配は感じられない。

 当然といえば当然だ。彼の気配なんか、普通に暮らしている時でさえ感じられない。感じられなかった。だからこそ余計に不安は募る。

 そしてソレを取り巻く様に、幽鬼の様な希薄な気配が幾つもあった。下忍如きでは拾う事すら不可能な程の。

 矢張り、と当たって欲しくなかった予想が大当たりしてナルトとサスケは舌を打ち走る速度を速める。



「ばか!!お前ら、突っ込むな!!」

 背中にシカマルの怒声。だがそんなモノは無視。



 そして、茂みを掻き分け見た、その光景に――――――思わず、固まった。



「な――――――っっ!!?」

 丁度その時に追い付いたシノ達が、同じ様に立ち止まり、息を呑む。



 其処には、両手の指に余る程度の忍に囲まれ、3人の少女を背後に庇いながら、全身に裂傷を作っている1人の青年。

 中でも最も酷いのは、未だ突き立てられたままの背中のクナイ2本。



「・・・・・・・・・・・・てめえらぁあっっ!!」

 ナルトの中で、何かがプツン、と切れた。




 




 




 




 

野犬退治がヘンな方向にいってしまいました。





<<バック                    ネクスト>>
<<バック トゥ トップ>>