「やあやあ諸君。今日はな・・・・・・」

「「はいっ、ウソ!!」」





 どろんと出てきたカカシが皆まで言う前に、ずびしっ!!と人差し指付きで鋭く入ったサクラとナルトの突っ込み。

 沈没して地面に『の』の字を書き出すデカい図体が本当にウザい。

 思わず蹴り入れてやろうかと思うくらいには、ウザい。





 ・・・・・・素のナルトだったら確実に入れてるだろうな。いや、クナイ飛ばすか。

 改めて、昼間のナルトの猫の巨大さに脱帽する。





 傍で見ていた俺は、ふぅと小さく息を吐いた。

 それにしても、毎度の事ながら飽きないんだろうか。謎だ。すこぶる謎だ。

 まあ、パターン化してしまっている所為か、今更無くなるのは逆に変というか何というか・・・・・・





 ・・・・・・ヤバイな。俺まで感化されてきてやがる。





「ソレよりも、今日の任務って何ですかー?」

「そうだってばよセンセー」

 2人の質問に、「おおそうだった」と立ち上がって振り向いたカカシはさっきまでの青い縦縞が全然ない。





 ・・・・・・その立ち直りの早さも、ある意味見事だよな・・・・・・





「今日の任務はなんと!!7・8・10班合同で火影様のお屋敷の大掃除だ!!」

 合同?・・・・・・ってヲイコラちょっと待て。





「えぇ〜〜〜〜〜〜っっ!!?おおそうじぃ〜〜〜〜〜〜っっ!!?」

 声上げるのはソコじゃねーだろウスラトンカチ。

「ちょっと合同ってどーゆー事ですか!!?」

 疑問ぶつけんならサクラの方が正解だ。





「あれ?言ってなかったっけ?」

「「言ってません(てばよ)!!」」

「あっはっはっはまあ細かい事は気にしなーい」

 思わずサクラとナルトと一緒になって溜息吐いた。





 ・・・・・・誰だよコイツ俺達の担当にしやがったのは・・・・・・

 ・・・・・・つーかこんなのが上忍で良いのか・・・・・・?木の葉の未来は明るくないな・・・・・・





「・・・・・・ソレで、良いのか、時間は?」

 取り敢えず先へ進もうと冷たい眼差しでカカシを見上げてみれば。

「ああ、うん。確か待ち合わせ場所は火影様のお屋敷の前で、集合時間は9時。だからあ〜」





 ・・・・・・・・・・・・





「そういう事はもっと早く言って下さい!!」

「うわあもう10時過ぎてるってばよ!!」

「この、腐れ上忍が!!」

 三人揃って叫ぶや否や、のほほんとしているカカシを無視し、火影邸へ向かって猛ダッシュした。

 ・・・・・・本当に、誰だよあんな奴俺達の担当にしたのは・・・・・・









 









 









 
 息を切らしながら辿り着いた俺達を出迎えたのは、優男。

 俺達より2つ3つ年上みたいだ。

 確か、一年とちょっと前くらいに、火影様に引き取られたっていう奴。

 実際に会うのは今日が始めてだが、若い女に人気があると専らの噂。





 名前は確か・・・・・・とかいったか。





 確かに顔は良い。中性的ではあるが、女々しいとは思えない。

 体格も、やや華奢ではあるが、それなりに引き締まって見える。

 女が騒ぐのも判る気がする・・・・・・が、その格好で印象ガタ落ちだろ。





 首にタオル。頭に麦わら帽子。着けていた軍手は土塗れ。

 つなぎの作業着みたいな灰色の服も、土塗れ。ついでに顔も、土塗れ。

 畑仕事してるじーさんか。





「よう、遅かったなー。もしかしてまぁたカカシ先生の遅刻が原因か?」

「そうなんだってばよーにーちゃんっ!!」





 一足早く復活したナルトががばぁっ!!と抱き付く。

 何だ、知り合いだったのか?

 まあ、ナルトは良くココに来てるからな。当り前か。





 だが・・・・・・ああいう人種、ナルトは嫌いだと思ってたんだが。

 バカみたいな笑顔。人懐こそうな性格。

 負の感情なんて全然知りませんみたいな。





 ・・・・・・いや、違うな。何がどう違うのかは判らないが。





 自分で思った事に、何かが、引っ掛かる。

 ナルトの素に気付いた、俺の観察眼を嘗めるなよ。





「・・・・・・ナルトさー。いっつも言ってんだけどさー。会うたんびにこーやって張り付くの、止めねぇ?」

 張り付くなと言うのなら、さっさと剥がせばいいじゃねーか・・・・・・ああ、軍手か。

 苦笑する、その表情はどこかイルカ先生に似ていて・・・・・・いや、そうじゃない。

 イルカ先生じゃない。だが誰かに似ている。

 誰に、似ている?





 ・・・・・・ああ、そうか。

 猫被ったナルトに、似てるんだ。





「えー、なんでだってばよー」

「重いし暑い。それに」

 ぶうたれるナルトに、ふっと笑って。





「汚れるだろ?」





 そう、言われた時の。ナルトが一瞬見せた顔。

 ・・・・・・痛そうに、歪んでいた。









 
「こーらナルトー。くん困ってるじゃないかー」

「うわっ、カカシせんせー!?」





 何時の間に到着していたのか。のほほんと声を掛けたカカシがべりっとナルトを剥がす。

 そして、ソイツの方に向き直って。

「ごーめんねー遅れちゃって。今日はさー・・・・・・」

「あーはいはい。どーせ迷子の猫のお家を探してましたー、とかだろ?」

 言う前にサラリと返された台詞に、カカシはまた地面に『の』の字を書き始める。





 ・・・・・・・・・・・・絶対バカだアレは・・・・・・・・・・・・





 いじける上忍を無視して、サクラがアイツに声を掛けた。

「あのー。今日合同って聞いたんですけど。他の皆はどうしたんですか?」

「ん?もー掃除始めちゃってるよ」

「えっ、もう!?」

「うん。つーわけで、お前等も頑張ってこの屋敷ぴかぴかにしてくれよな」

「オレってば、掃除嫌いだってばよ・・・・・・」

「グチるなナルト。俺だって嫌いだあっはっは」

「笑い事じゃないってばよっ!」

 ぼやくナルトに笑う顔。ソレは本当に楽しそうに。





 だからこそ、本気で笑ってない様な気が、した。

 再び首を擡げる、への違和感。

 考え込もうとすると視線が刺さって、顔を上げるとナルトと目が合う。





 一瞬だけ見せた、素の表情。

 探る様な、目。

 ――――――何だってんだ、一体。





 一つ息を吐きソイツを見る。

「で、何処まで終わってるんだ?」

「えーと、多分2階の半分?あ。ちなみに掃除の範囲は、じーさまの部屋と、俺の部屋と、書庫と、台所と、庭以外全部」

「え、台所と庭しなくて良いんですか?」

 きょとん、とサクラが聞き返すのは当り前だろう。





 家の中で一番汚れ易い場所といえば台所だ。

 そして、手を抜くと直ぐ雑草まみれで荒れる庭。しかも火影様の屋敷だ。下手をすればジャングルもどき。

 禁術書などが置いてある書庫や、機密書類があるだろう火影様の執務室は兎も角・・・・・・何故『掃除』に最も重要な場所を省く?





「なんで台所しなくて良いんだってばよ?」

「ナルト。腹へってなんかつまみ食いしたいと思っても無駄。荒らし厳禁。アソコは俺の城だ」

 にーっこり。しかしその奥に見え隠れする、灰色のオーラ。

 最後の一言は兎も角、ソレが理由か・・・・・・良く判った。

 ナルトはぐっ、と息を呑んでいる・・・・・・図星。やるつもりだったらしい。





「・・・・・・因みに庭は?」

 溜息吐きながら一応聞いてみると、ソイツは握り締めた拳をふるふる震わせながら叫んだ。

「アソコは俺の楽園だぁっ!!手ぇ出す奴は誰であっても許さねえっっ!!」





 ・・・・・・・・・・・・バカがここにも一人・・・・・・・・・・・・





「・・・・・・ココの庭ってば、にーちゃんが私物化してんの。もーすっげーんだってばよ」

 こそこそと俺とサクラに寄ってきたナルトが小さく囁く。

「どう凄いんだ?」

「すっげーいろんな種類の薬草とかハーブとか花とかが、植えてあるんだってば」

「ハーブって、確か育てるの難しいのよね」

「しかも半分畑なんだってば。トマトとかキュウリとかナスとかカボチャとかスイカとか、いっつもなんか作ってんの」

「・・・・・・八百屋でも始める気か?」

「何回かナイショで実になってたの取って食べた事あるんだけど、すっげーうめーんだってば」

 ニシシシッ、と笑うナルトに少し驚く。

 コイツが、嫌いな生野菜食うなんてな。珍しい事もあるもんだ。





「・・・・・・今なんつった、ナルト?」

「うわぁっっ!!?」





 おどろおどろしく響いた怒声に、びくりっ!とナルトの身体が硬直。

 思わず釣られて俺やサクラも固まってしまった。

 恐る恐る振り返ったその先には、ゴォゴォと炎を背負ったの姿。





「最近食い頃のヤツが良く無くなると思ったらっ、犯人はてめぇかっ!!」

「うわーーーーっっ!!ごめんなさいだってばよーーーーっっ!!」

「ゴメンですんだら忍者なんかいらねぇっ!!逃げんなバカっ!!一発殴らせろっ!!」

にーちゃん容赦知んないからイヤだってばよーーーーっっ!!」

 逃げるナルトを、が追い掛けていく。





「・・・・・・ほっときましょうか」

「・・・・・・そうだな」

「さんせ〜い。いやぁ、しかし若いってイイねぇ」





 何時の間に復活したのか、俺の横に立ったカカシがのほほんと言った。

 ・・・・・・・・・・・・バカは全部で3人。

 そう思い、溜息を吐いた時だ。





「おーおー、重役出勤だなぁ、お前ら」





 上から降ってきた声に視線を上げる。

 ソコには、片手に雑巾を持って、毎度の如く頭に犬を乗せながら、2階の窓から身を乗り出しているキバの姿。





 恐らく、外の騒動(ナルトとの追いかけっこ)に気付いて見物していたんだろう。

 人を小馬鹿にした様な笑みが少し鼻に付く。

 だからこっちも小馬鹿にした様に返してやった。





「口動かす暇があるんなら手ぇ動かせよ、ウスラトンカチ」

「んだとぉ!?」

 案の定カッと頭に血が昇ったらしいキバが、窓から乗り出していた身を更に外へ倒して怒鳴る。

 俺はふん、と鼻を鳴らして屋敷の内へ入ろうとした――――――その、時だった。





 キバの背後に見えた、何かでかい荷物を抱えているヒナタが、よろりとよろける。

 そして、どんっ、と。

 キバの背中にぶつかった。





「きゃっ!!」

「うわっ!!」

「キャウン!?」





 ぶつかられた拍子に、キバのバランスが崩れる。そして、あろう事か・・・・・・

 落ちた。キバの頭の上にいた、赤丸が。





「赤丸っ!!」





 しかもキバが赤丸を助けようとして窓の外に躍り出やがった。

 しっかりと赤丸を腕の中に抱き込んで、体制も悪く地面へまっ逆さま。

 たかが掃除の任務、とタカを括っていただけに、咄嗟に身体が動かなかったのは何も俺だけじゃない。





 嗚呼万歳平和ボケ。





 って言っている場合じゃないだろうが!!

 咄嗟に地を蹴った俺の先に、一足早く動いていたカカシの背中。

 しかし・・・・・・カカシでも間に合わない!?









 









 
「重力の歯車錆帯びて、其の視得ざる機構は停止せよ!!」









 









 
 声が、響いた。

 凛、と張った、鈴の音の様だった。





 途端、ふわり、とキバの落下速度が目に見えて緩やかになる。

 思わず止まる俺やカカシの目の前で、訳が判らないといった様な表情のキバが、自らの足で着地する。





 ――――――何だ、今のは?





 聞いた事も無い呪。

 確か、声は後ろの方から聞こえた――――――





にーちゃんっっ!!」

 振り返ったと同時に、ナルトの叫び声。





 ソコには、地面に倒れたがいた。









 









 









 
「やーあっはっは。心配かけさせてゴメンなー」





 カカシが居間へと運んだ直後、は目を覚ました。

 相変わらずバカみたいな笑顔。

 集まった下忍上忍に向かって、頭を掻く。





「まさか倒れるとは思ってもみなかった。うーん。俺ってばナマったのかぁ?」

「・・・・・・倒れて当り前だってばよ。手順ぶっとばして術なんか使うから」

「しっかたねーだろ。咄嗟に使っちまったんだから」

「・・・・・・・・・咄嗟に使っちゃダメだってばよ。ヘタしたら倒れるどころの問題じゃないってば」

「えー・・・まー今回は倒れるだけで済んだんだし」

「ソレでも!!二度とこんな使い方しちゃダメだってばよ!!重力とか時間とか時空とかに関与する術ってば、けっこー危険なシロモノ

だって聞いたんだかんな!!下手したらぺっちゃんこにツブれて干からびたカエルみたいになったり、赤ちゃんの前まで小っちゃくな

ったり、ヘンなトコ飛ばされたり!!」

「誰に聞いたよそんなに詳しく」

「じっちゃん」





 くどくどとと説教を始めるナルトに、は困り顔だ。





 それにしても、ナルトが説教するの初めて見た。

 コイツが誰かに対してこんなに必死になるのって、珍しいな。





 今日は珍しいもののオンパレードだ。

 他のヤツらも、目を丸くしてこの遣り取りを見てる。

 ・・・・・・当り前か。





「とにかくっっ、もーあんなキケンな使い方したらダメだってばよ!!判ったってばよ、にーちゃん!!?」

「・・・・・・ハイ、ゴメンナサイ・・・・・・」





 鬼気迫る感じでに詰め寄ったナルトは、なんか微妙に素の気配が滲み出している。はっきり言って、怖い。

 そして矢張りも怖かったのか、小さくなって謝った。

 うっしっ!とその返事に笑うナルトはどうやら満足した様だ。漸く口が挟めるな。





 とか思っていたら。





「あ〜・・・それで、さっきのは一体何だったんだ?」

 タバコをぷかりとふかしながら、俺が言おうとした言葉を横から持っていったのは、髭熊・・・・・・もとい、アスマ先生。

くんがやったのよね」

「アレ、忍術じゃなーいでショ?」

 続く紅先生と、カカシの言葉。





 周りの下忍達も(ナルトを除いて)、興味津々だ。

 誤魔化しは効かないぞ、という上忍三人の気配に、はきょとん、と首を傾げた。





「れ?単にフツーの術だけど?」





 ソレじゃ判らん。

 はぁ、と大きく溜息吐いたナルトが、助け舟をよこした。

「・・・・・・にーちゃん、センセーたちにーちゃんが術師だってコト知らないってばよ」





「「「「「術師?」」」」





 ハモる声。というか術師って何だ?忍者とどう違う?





「え。言ってなかったっけ?」

「言ってナイってば」





 何処か冷めた様なナルトの目。どうやら素で呆れ返っているらしい。

 ぽりぽり頬を指で掻くは、そんな視線を素無視している。結構大物だなオイ。





 上忍達は、二人の遣り取りを聞いて、成る程、と頷いている。

 てめーらだけで判ってんじゃねー。





「先生、術師って何ですか?」





 サクラがカカシに聞いた。

 ソレで漸く、俺達の存在に気付いた様に顔を見合わせる上忍三人。

「あー、まあ術師ってあんま聞かねーし馴染み薄いからな」

「歴史としては、忍者よりも古いんだけどね」

「術師っていうのはーね。失せ物探しとか天気読みとかお祓いとか占いとかを生業にしている人の事なんだよ」





「とか言いつつ俺一度もそんなんやった事ねーけど。特殊なんだよなー、ウチの家系。元は陰陽道だったんだけどさー。退魔とか呪禁

とか言霊とか符術とか、果ては大陸外の術まで、手当たり次第に掻き集めて手ぇ出してて、しかも俺自分でオリジっちゃったりしててさ

ー。さっきのはその内の1つなんだけどー」





 ・・・・・・良く、判らない。





 良く判らないが、俺の傍に立っていたカカシが。

「へーえ。さっきのアレくんのオリジナルなんだ。すーごいね」

 素で感心する処を見ると、可也のモンなんだろうと、伺えた。









 









 






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